第316話 場違いな存在

 案内人の後に続き脇道を進んでいくか、その途中、僅かな違和感を何度も感じる。と言っても魔力的にどうこうの問題ではなく、何と言うか、ゲームの特定ルートで進まないと正解ルートに辿り着けないような感じの違和感である。

 

 恐らく、これは実際にゲームをやってみた者にしか分からないような違和感である。とても魔力感知や、スカウトの技術では看破できないような違和感だ。



 こんなギミックを作り出すなんて… 対魔族連合か特別勇者に相当な技術者がいるのか? それとも、俺と同じような転生者か? しかも、ノブツナ爺さんのような過去の時代の転生者や、一般人の転生者ではなく、現代社会でもなんらかの技術関係の職に携わっている様な人間でないと難しいと思う…


 そんな事を考えながら進んでいくと再び案内人が立ち止まり、こちらに振り返り声を掛けてくる。


「ここで暫く待っていれば、駐屯地の人員が迎えに来ます」


 こちらを先導している案内人ですら、最終的な目的地は知らないのか、ホント、情報漏洩に関してかなり気を使っているようだ。


 しかし、そこに突然声が響く。



「待たなくても大丈夫だ」



 謎の人物の声がどこからともなく響く。その声に、同行してきた勇者たちは即座に警戒態勢をとる。このあたりは流石招集されるだけの連中だけあって、対応速度が早い。まぁ、俺も最初の違和感を感じた時から、警戒態勢をとっているが…



「一応、全員、警戒態勢をとれているじゃん、って事はとりあえずは合格かな?」



 再び、先程とは別なちょっとチャラい感じの声が響く。しかし、最初の声も今の声も、声がするのは分かるのだが、声を発生源の方角を捕える事は出来ない。まるで、サラウンドスピーカーを設置している部屋で全方向から声が聞こえるような感覚に近い。


 他の勇者もこの状況に警戒する方向を定める事が出来ずに、各々全方位に警戒する。俺の方でも、馬車を中心にすぐにノブツナ爺さんとロアンがフォローに入ってくれて全方位を警戒する。



「うん、ちゃんと皆、全方位に警戒が出来ているな、第二試験も合格のようね」



 今度は声の方角が分かる。しかし、その方角に皆が驚いて目を見開く。なぜなら、声の発生源は俺達を案内してきた案内人から発せられたからだ。そして俺達がその状況に驚いた瞬間、案内人の姿が一瞬で切り替わる。



 嘘だろ!?



 俺はその状況に衝撃を覚える。今まで姿の擬装魔法の気配を感じさせなかった事も驚きであるが、もっと驚いたのは、その擬装を解いた後の姿である。


 その擬装を解いた姿は、この世界で一般的な金属の鎧や剣を持つ中世ファンタジー世界の姿ではなく、現代…いや近未来的な姿…例えて言うなれば、ゲームのABEXとかに出てくるキャラクターの様なパワードスーツに近い姿の女性であったのである。しかも武器まで、剣や槍などの原始的な武器ではなく、どう見ても銃器を携えている。


「私はヴァダー・トマリ、特別勇者の一人よ」


 金髪ロング碧眼の色っぽい大人のお姉さん風であるが、日本語っぱい名字か名前をしている。もしかしてハーフだろうか?


「雑魚の名乗る必要なんてあんの? 偽名でいいじゃん偽名で、ちなみに俺の事はラオプティーアって呼んでくれ」


 そして、どこから出て来たか分からないうちに今度は白髪のくせ毛で赤い目をしたちゃらい男が出てくる。コイツも同じようにFPSのゲームから出てきたような姿をしている。



「アイスヴァインと言う名は辞めたのか? ラオプティーア」


 

 今度は俺達の前方から、落ち着いた男性の声が響き、透明な状態から次第に姿を現しながら背の高い男が進み出てくる。先程のお姉さんやチャラ男とは違って、この男は、まるでアスリートの様な鍛え上げられた感じがパワースーツを着ていても分かる。しかも、短く借り上げた黒髪に引き締まった顔つきからただ者ではない雰囲気を纏っている。


「もうその事は言うなよ、マサムネ!!」


 チャラ男が恥じらいながら長身の男に声を上げる。


「フフフ、豚の塩漬けを食べる度に、擦ってあげるわよアイスヴァイン」


 お姉さんがチャラ男の反応に笑みを浮べる。そんな二人の反応を無視するように長身の男は俺達の前へと進み出て、後ろに腕組みしながら仁王立ちの体勢で俺達に対面する。


「私は、ここの特別勇者チームのリーダー、マサムネだ。皆、遠路遥々来てもらったのに申し訳ないが、皆には俺の指揮下に入ってもらい、拠点の防衛についてもらう」


 その長身の男の発言に、ここにやってきた勇者達の間に軽い騒めきが起きる。それと言うのも、ここに来た勇者たちはそれなりに名の通った勇者チームであり、皆、自分の強さにそれなりの自負がある。それを特別勇者と言えども、自分たちにとっては全く無名の者たちに、指揮権に入る様に言われ、またその任務も本題の魔族討伐の任務ではなく、一般兵の役回りの様な拠点の防衛であるからだ。不満が出ない訳がない。


「皆が不満に思うのも分かる。聞いた事のない無名の者で実力の分からない者の指揮下に入れと言われて不満がで無い訳が無い。なので、我々の実力を知って貰う為、模擬戦闘をしようと思う」


 長身の男はそう言うと、ここに来た勇者の一団をざっと見回した後、俺に目を止めて指差す。


「そこの君」


「俺か!?」


「そうだ、そこの君だ、模擬戦闘を行ってくれないか?」


「えぇ~ 俺が模擬戦闘をするのかよ…」


 どう見ても、中世ファンタジー装備しかしていない俺が、FPS装備をした連中に準備もせずに勝てるわけがないので乗り気になれない。


「トマリ、彼の相手をしてもらえるか?」


 すると、長身の男は自分ではなく、お色気お姉さんに模擬戦するように声を掛ける。


「私? 構わないわよ」


 声を掛けられたお姉さんは微笑を浮かべて答える。


「えっ!? マジ! お姉さんが相手してくれるの!?」


「私じゃ御不満?」


 俺は馬車の御者台から飛び降りてお姉さんの前へと向かう。


「いやいや、御不満どころか大満足、ってか模擬戦闘だから、試合中、しがみ付いたり、掴んだりしても仕方ないよな? あっ、あくまでも不可抗力な話だから、不可抗力!」


 パワードスーツの上からでも分かるナイスバディに俺は手をワキワキとさせる。


「いいわよ、捕まえられるものならね」


 お姉さんはニッコリと微笑みかける。


「それでは、準備はいいか?」


 長身の男はスッと片手を上げる。


「俺はいいぞ」


「私もいいわ」


 一応、俺は剣の柄に手を掛ける。


「始め!!」


 そして、長身の男が声を上げて、手を振り落とす!



 バンッ!!



 手が振り落とされてすぐに、俺の全身が真っ赤に染まる!


 えっ! これ、ショットガンのペイント弾!? しかもノーモーションで密かに張っていたシールド魔法をすり抜けてきた!?


「勝負ありね」


 お姉さんは模擬戦の開始前と変わらぬポーズでそこにいる。


「…そうだな…」


 やはり、中世ファンタジー装備ではFPS装備に敵わないと改めて知ることになった…








  

 

 

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