第314話 聞いていなかった驚愕の事実

 馬車の中のいつものソファーに腰を降ろしている俺、そしてその前の席に並んで座るノブツナ爺さんとロアン。俺はロアンの説明を聞いて大いに驚く。


「えぇぇっ!! それマジなのかよっ!!」


 俺はロアンの信じられない話に盛大に驚きの声を上げる。


「それだけ驚くという事は、本当に話を全く聞いてなかったんだね…イチロー」


 ロアンは少し呆れ気味の真顔で俺にそう返す。


「いや、もうその事は許してくれよ… ロアンの事をそんなんだからパーティー云々は言わないからさ…」


「そちらこそ、その話はもうしないでくれ… というか、そんな事を取引に出すなっ!」


 ロアンはムッとして俺を睨む。


「おぉ、すまんすまん…話があまりにも突飛すぎて、こんな軽口でも言わなければやってられなかったんだ…」


 俺はシュンとして返す。そんな俺にロアンの隣で腕組みをしてじっと様子を伺っていたノブツナ爺さんが口を開く。


「だがイチローよ、魔族軍の今までの散発的な行動ばかりで、軍隊としての組織的な行動をしてこなかった事に合点がつくのではないか? お主も薄々感じておったのじゃろ? 魔族軍の不可解な動きに…」


「確かに俺も奇妙に思っていたんだよ… もっと組織だって計画的に人類側の領土に進攻して重要拠点を落としていくのが定石なはずなのに、やっている事は魔族の本拠地からおよそ関係の無い場所で突発的で散発的な工作の様な事ばかり… 俺は何かの陽動かと考えていたんだ」


 流石、剣豪である前に、戦国武将であったノブツナ爺さんは、やはり魔族の不可解な軍事行動とも呼べない活動に俺と同じく違和感を感じていたようだ。あの武田信玄からの侵攻を防ぎ切ったのは伊達じゃないな…


「うむ、わしも何かの陽動じゃと考えておったのじゃ、だからハニバルの件についてはいきなり軍を動かさずに、わしが先に様子を見て判断するように女王に進言したんじゃよ」


 なるほど、ノブツナ爺さんは軍を動かす前の状況確認の密偵の様に行動していたのか、そうなるとプリンクリンの時もそんな感じだったのかな? まぁ、プリンクリンは男性を有無を言わせず従属させる魔法が使えたので相手が悪すぎたが…



「しかし、ホント驚く話だよな… 今まで魔族の組織的な大規模侵攻が無かったのは、対魔族連合直属の特別勇者チームによって、魔族軍の主力がその本拠地であるローラスに釘付けされていたからって… 普通なら信じられないな…」


 俺がロアンから説明された話はこうだ。今まで魔族が大規模侵攻をしていなかったのは、対魔族連合の特別勇者チームが、魔族の主力を押さえていたからであって、俺のような一般勇者は、そこから抜け出した物や、何らかの方法で元々人類に対して反感を持つ者を扇動・又は洗脳して暴れ出した者を倒していたにしか過ぎない。そして、俺達のような同業者でもその存在を知らされていなかったのは、魔族側の妨害工作を避けるためで、本部の天幕に掛けられていた盗聴防止魔法や、俺が入室する前に交わした契約魔法もその一環らしい。 

 また、今回、俺の領地に魔獣の群れが来た事や、カイラウルが陥落したのは、カイラウル方面を防衛していた特別勇者が倒されてしまった事にあるそうだ。

 

「そうだね…それにあまり気持ちのいい話でもないな… 僕たちが真剣に戦っていたのに、対魔族連合やその特別勇者からすれば、役に立っていると思い込みながら親の手伝いをする子供のように見られていたんだよな…」


 ロアンはそう言って、俺が説明会の時に見た、悔しそうな険しい顔をする。なるほど、俺はその時のロアンの表情を見て、俺の事に怒りを覚えていると勘違いしていたのか…


「まぁまぁ、ロアンよ、そこまで我々の行いを卑下することは無い。その特別勇者とやらにとっては取るに足りない敵であっても、実際一般人にとっては敵うはずもない恐ろしい存在じゃ、一番手柄ではないものの、誰か倒さねばならない列記とした人類の敵じゃ」


 そんな自嘲するロアンにノブツナ爺さんは年長者としての配慮の励ましの言葉を掛ける。


「剣聖ノブツナ様、確かにそうですね… 特別勇者にとっては取るに足りない存在でも、一般人には脅威の存在、その一般人を守ることが僕たち勇者の使命… 自分が特別勇者ではないからと言ってその使命に変わりはありませんでしたよね… 先程の発言は軽はずみな物でした、それを気づかせて頂いてありがとうございます! ノブツナ様!」


 ロアンの言葉にノブツナ爺さんは納得したようにうむと頷く。ロアンの奴は基本内罰的だけと、こういうところは単純で前向きなんだよな。


「それで、今回俺達が招集されたのは、その魔族にやられた特別勇者の代わりに、魔族軍本体と戦うってことでいいのか?」


「いや、それが明言されていないが、そうでは無いようなんだよ…」


 ロアンが怪訝な表情をして語る。


「そもそも、魔族軍の本体をその特別勇者とやらが押さえておったと言う話じゃが、なんとも要領を得んのぅ… その特別勇者が個人なのかそれとも集団なのかは解らぬが、どうやって個人や冒険者の様な集団で、組織的な軍隊を押さえておったのかその方法が解らぬしな… その特別勇者の代わりをせいと言われても互いの事も知らぬ者同士では、特別勇者が討たれる軍団相手では話にならぬ」


 ノブツナ爺さんもロアンと同じ怪訝な顔をする。


「えっ!? 俺達をわざわざ戦地に送り出すのに、何をするのか説明されていないのか?」


「あぁ、そこは軍事秘密という事で話してもらえなかった。なんでも現地に到着して、そこにいる応援に来た特別勇者から任務内容を聞かされるそうだ」


「なんだかやけに情報漏洩に気を使っているな…っていうか使い過ぎのような気もするが…」


 俺はロアンの言葉にそう返す。


「そこは今回討たれた特別勇者とやらが、情報漏洩の為に討たれたのやもしれぬ、だから気を使っておるのじゃろ」


「なるほど、そう言う事か… それならあの契約魔法も納得できるな」


 そして、その後、三人一様にして黙り込む。これ以上は情報が無さすぎてなんとも判断できないからである。


「旦那ぁ、そろそろ飯時でやすが、お客人もご一緒なさりやすか?」


 そんな所にカズオが飯の事で声を掛けてくる。


「あぁ、そうだな、現状で考え込んでもいいアイデアは思い浮かばんからな、ノブツナ爺さんもロアンも飯食っていくだろ?」


「おぉ、ご相伴に預かろう」


「…オークの作る食事か…」


 ノブツナ爺さんは素直に俺の申し出を受けるが、ロアンは眉を顰める。


「心配すんなってロアン、カズオの作る飯は美味いぞ! 騙されたと食ってみろ!」


 そう言う訳で、俺はノブツナ爺さんやロアンと一緒に飯を食う事になった。




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