第313話 ロアンの誤解
「ロアンもノブツナ爺さんも上がってくれ、これが俺の旅で使う馬車だ」
俺はそう言って、ロアンとノブツナの二人を馬車の中に案内する。馬車の運転は一先ずクリに任せるつもりだ。こんなときぐらいは働いて貰わないとな。
「随分と凄い馬車に乗っておるのぅ、まるで家のようじゃ」
そう言ってノブツナ爺さんが馬車の中に入ってきて、中ぐるりと見渡す。
「あぁ、元々イアピースの王族が旅行に使っていた馬車だからな、野外で快適な生活ができるようになっている」
次にノブツナ爺さんに続いてロアンの馬車の中に入ってくる。最初はノブツナ爺さんと同じで物珍しそうな目で馬車内を見回していたが、急にムスッとした顔つきになりだす。
「どうした? ロアン」
「イチロー…君は女ならなんでも構わなくなったのか?」
いきなりとんでもない事を言ってくる。
「一体、何の事だよ、俺は今も昔も女の好みは変わらんぞ? 基本的には、むっちりより、こう、あばらが浮いた感じのスレンダーに釣り鐘型の巨乳で…」
俺はボディーラインや乳の大きさを手の動きで表現しながら説明する。俺の説明にノブツナ爺さんは同意するようにうんうんと頷くが、ロアンは声を張り上げる。
「いや、僕はそんな具体的な体型の事を言っているんじゃない!」
そう言って、シュリやカローラ・ポチ達を指差す。
「なんだ! この年端のいかない女の子たちは!! 君はこんな幼い子供にまで手を出す様になったのか!!」
「いや、そいつらは…」
「しかも、この娘なんて、君が戦いながら目を付けていたカローラを幼くしたような女の子じゃないか… 相手が人外だから手を出せないといって、こんな幼い子を攫ってくるなんて…」
そう言って、どう反応すればいいのか困っているカローラを、膝をつき目線を合わせて慈しみの目で見つめる。
「いや、だから、ロアンが今、肩に手を置いて見ているのは、カローラ本人だぞ?」
「馬鹿を言うなっ! こんな可愛らしい女の子がカローラ本人…」
ロアンは俺に向かって怒鳴った後、再びカローラの顔をじっと見て何か気が付き始める。
「…もしかして…君はあのカローラ…なのか?」
「えっと、鮮血の夜の女王とよばれたカローラの事でしたら私の事です…今はイチロー様のしもべですが…」
「うわぁ!!!」
ロアンは肩に手を置いていた少女が、鮮血の夜の女王と呼ばれたカローラだと分かると、かりんとうだと思っていた物が犬のうんこだと分かった時の様に慌てて手を離す。
「こんな幼気な少女が…あの鮮血の夜の女王カローラだとは… はっ! するともしかしてっ! そこの少女はホルスタインキングかっ!!」
そう言ってロアンは今度はシュリを指差す。
「ちげーよ、こいつは破壊の女神と呼ばれたシルバードラゴンのシュリだ」
「人の事を指差すとは無礼な奴じゃのう… ちなみにあるじ様、ホルスタインキングとはなんじゃ?」
ロアンに指差されてムッとしたシュリは、俺にホルスタインキングが何かを聞いてくる。
「あぁ、俺とロアン達で倒したミノタウロスの親玉だよ」
「馬鹿なっ!! この少女があの破壊の女神シルバードラゴンのシュリナールだと!? うそだろ!! この少女は乳牛のような胸をしているではないかっ!!」
そう言って、ぼいんぼいんになっているシュリの胸を指差す。
「いやいやいや、シュリは俺がせっせと栄養を摂らせているから乳がデカくなったんだよ、それに俺達が倒したホルスタインキングはオスだっただろうが…」
俺達が倒したホルスタインキングは戦っている時から上半身裸で男の胸板しかなかったし、倒した後、素材として金玉を採取したのを忘れたのであろうか?
「じゃあ、そこの白髪の幼女は…もしかして…魔人キサイトなのか?」
「いや、ポチは普通のフェンリルだぞ?」
ポチの事を尋ねるロアンに普通のフェンリルである事を説明する。
「なんだ…普通のフェンリルか… って!フェンリルが普通なわけないだろ!! と言うか…イチロー…君のメンバーはどうなっているんだよ…」
カルチャーショックを受けたロアンは頭を抱え始める。
しかし、ロアンの奴、いい乗り突っ込みをするなぁ~
「どうでも良いが、先程から人を指差したり、わらわを乳牛と言ったり失礼な奴じゃな… 人間でなければ非礼を働くのが、勇者というものなのか?」
そんなロアンに先程から、酷いことを言われているシュリがプンプンしながら文句をつける。
「あっ…いや…すまない… ちょっと、混乱して非礼を働いてしまった…謝罪する」
ロアンは素直にドラゴンのシュリに謝罪する。
「ところで、そちらのノブツナ殿は、あるじ様が人事不省の時に話をしたことがあるが、この冒険者は何者じゃ?」
謝罪をされて少し機嫌を直したシュリがロアンの事を尋ねてくる。
「あぁそうか、カローラは実際に戦った事のあるから知っているけど、シュリはあったことがないんだよな、ロアンはお前たちと知り合う前に俺が所属していたパーティーのリーダーだ。フルネームはロアン・クラースだ」
シュリにロアンの事を紹介する。
「あぁ! あるじ様にそんなんだからパーティーの皆に捨てられるんだって、言われておった男か!」
ポンと手を叩いてシュリは思い出したように声をあげる。
「そんなんだから…パーティーに捨てられる…? イチロー… これは一体どういう事だ?」
ロアンは怖い顔をしてキッと俺を睨んでくる。
「いや…ちょっと待ってっ! 俺はそんな事を言ってないぞ!!」
俺はロアンに睨まれてタジタジになりながら言い訳をする。ってかシュリの奴、突然何を言い出すんだよっ!!
「いや、イチロー様は仰ってましたよ?」
ブルータス…じゃなくてカローラ…お前もか…
今度はカローラまでもが俺を裏切り始める。
「カローラまで何言いだすんだよっ! 嘘つくなよっ! だから俺は言ってないって!! ロアン…剣の柄に手をかけるのは止めような? なっ?」
「イチロー様、私は嘘言ってませんよっ!カーバルにいく時にやっていたゲームで仰っていたじゃないですかっ!」
嘘つきと言われたカローラは目を尖らせて、俺の言葉に抗議してくる。
「カーバルにいく時にやっていたゲームって… あぁ! あれの事かっ!!」
俺もカローラの話しで、あの時の事を思い出す。カーバルに着くまでの暇つぶしに、勝ったやつのお願いを聞くという事でやっていたクリーチャーメーカーの事か… 結局、シュリが全戦全勝して俺がなんどもなんども骨付きあばら肉を作る事になった話だな。
「…ゲームって何の事だ? 事情を教えてくれ」
俺を問い詰めても埒が明かないと思ったロアンはカローラに事情を尋ねる。
「えっと、このゲームをしていて、貴方のカードを使っていたけど、サイコロの出目が悪くてイチロー様が負けっちゃったんですよ」
そう言ってカローラはあの時遊んでいたクリーチャーメーカーを取り出して、ロアンに見せながら説明する。
「あぁ、そのカードゲームか… イチロー…いくらゲームで僕のカードを使ったから負けたといって一々、僕を貶めるのは止めてくれないか… ただでさえ、パーティーメンバー全員に辞められた事で、僕のパーティーがブラックパーティーだって噂が広まっているんだ…しかもこのゲームの最新版では、僕のカードは他の冒険者と一緒に使う事が出来ないって…修正されているんだよ…」
ロアンはマジで辛そうな顔でお願いしてくる。
「お、おぅ…正直すまんかった…」
そんなロアンに俺は頭を下げたのであった。
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