第312話 謝罪

「未来の可能性の検討って、もしかして、カイラウルの事や我々勇者の在り方について、イチローなりに考えていたのか?」


 ロアンは先程チラ見した時の様な険しい表情ではなく、ずっと考え込んでいる様に見えた俺の事を少し心配するような表情に見える。


 やっぱり、メンバーを孕まされてパーティーが崩壊させられた事をロアンが怒っているなんてことは、どうやら、俺の思い過ごしの様である。やはり、ロアンはいい奴だ。


 さて、今そのロアンに俺がカイラウルやその奪還作戦に参加する勇者の事を考えていたのかと問われている訳だが… ロアンから逃げ出す事ばかり考えていたので、指揮官の説明を全く聞いていなかったので、状況がさっぱり分からない。

 では、適当に誤魔化して答えるか? いや、ロアンはそんなその場しのぎの嘘を見破るのが得意だったから、すぐにバレるな… そもそも、説明会が終わって皆が退出したというの、わざわざ俺の前にいたのには何か理由があるんじゃないか?

 …もしかし… 俺の謝罪を待っているのか? ロアンは律儀な性格だから、俺の謝意を確認してから行動するつもりなんじゃないのか? 


 俺が謝罪すれば許す… 謝罪がなければ、悲しみの向こうへ送る… そうに違いない!


 俺はサッと顔を上げロアンを見る。その姿は金髪碧眼の爽やかイケメン風で相変わらずであるが、俺と別れた時と比べて、少しやせた感じがあり、装備も細かい傷が増えていかにも苦労を重ねた感じがする。


 そんな風にロアンの姿を無言で確認していると、俺の仕草にロアンが片眉をあげる。


 いかんいかん…座ったままで謝罪なんて誠意が伝わらない…悲しみの向こうに送られてしまう…


 俺はそう思うとサッと立ち上がる。すると、俺より一回り小柄なロアンの少し見下ろす形になる。


「…ロアン…」


「なんだよ? イチロー」


「とりあえず、すまん…」


 俺はロアンに頭を下げながら謝罪をする。


「…なにがだよ…」


 そんな俺にロアンは少しムッとした表情をする。いかん、これは謝罪が足りない証拠だ! しかも、何に対しての謝罪か説明しろと言っているのだ。


「い、いや…その… アソシエ達のことを孕ませてしまっただろ? あれはわざとじゃないんだ…その… 大事な息子のマイSONを失うような事があったから、俺、スゲー落ち込んでいて… それをミリーズが再生させてくれたから、嬉しくてつい、ちゃんと使えるか試したくなって…」


 俺が謝罪内容を説明していく度に、ロアンの表情が段々険しくなっていく…


 マッマズい!! これはもしかして説明が足りてないのか? それともミリーズは仕方ないとしても後から来たアソシエ達の孕ませてしまった事に関して怒っているのか?


「いや…ミリーズでマイSONがちゃんと使える事は分ったんだが、その後アソシエ達も孕ませてしまった事は、仕方なかったんだっ! 復活したマイSONが復活させてくれたミリーズだけに反応するのではないかと思って、他でも検証する必要があってだな…それにアソシエもネイシュも潤んだ瞳で見舞いに来てくれたから、土産を持たせないといけないとおもってだな…」



「もういい!!!」


 

 ロアンは大声を出して、俺の謝罪内容説明を遮る。…もしかして…失敗した? 悲しみの向こうへ送られるのか…俺は…


 すると、ロアンは剣を抜かずに、脱力しながらハァと溜息をつき、頭をかく。


「イチロー…別に君に謝罪して貰う必要はないよ…」


「へぇ?」


 俺はロアンの言葉に拍子抜けした声をあげる。


「ミリーズが君の所から戻った時に、ある程度事情は聞いたからね… イチローのイチローがあんなにイチローしているなんてって…」


「なんだ?それ?」


 俺の俺が俺しているってどういう意味だ?


「僕の口からそんな事を言いたくない! そもそも、一度目ならまだ知らず、二度目に至っては本人の責任だし、そして、冒険者として魔族と戦う事よりも、女として子を産み育てる選択をした彼女たちを責める法はないよ… 人として当然の選択だと思う… だから、僕は彼女たちを責められないし、君を責めようとも思わないよ… ただ…」


 ロアンは言葉の最後を少し悲しそうというか悔しそうというか、微妙な表情をする。


「僕にパーティーリーダーとして冒険者である彼女たちを繋ぎ止めるカリスマが無かっただけだよ…」


 ロアンは肩を落としながら自嘲気味にそう語る。


 そうだった、ロアンは様々な問題が起きても他人のせいにするような他罰的な人間ではなく、自分のせいと捕える内罰的な人間で、底抜けのお人好しだった… 俺もロアンのそんなお人好しのいい奴だったから、パーティーに誘われた時に承諾したんだったな。

 それまでの俺は中二病の発作を起こしていて、孤高の一匹狼の俺カッケー!って思っていたんだが、ロアンの熱意に撃たれて他人と冒険することになったんだよな…

 恐らくあの時、ロアンが誘ってくれなくて、人と繋がる事を学ばなかったら今の俺は無いだろうな… そう考えると、今の俺があるのはロアンのお陰ともいえる。


 そんな恩人でもあるロアンが今、パーティーメンバーを失った事を思い返して、肩を力なく落として落ち込んでいる…


 ここは一発、俺が励ましてやらないとな…


「ロアン…」


「…なんだ?イチロー」


 俺は満面の笑みを浮べながら、ロアンの肩に手を置く。


「どんまい!」



 イラッ!



「君にそう言われると滅茶苦茶腹が立つな…」


 ロアンはムッとした顔で俺を睨む付ける。


「えぇ~ 励ましてやろうと思ったのに…」


「いや…励まされるどころか、久しぶりに人に対しての殺意が芽生え始めたよ…」


「ははは…」


 俺は強張った顔で愛想笑いをしてロアンの肩から手を離す。


 まぁ、ロアンが自分の責任だと思っていても原因は俺だもんな…


「ところでイチロー、君はちゃんと指揮官の説明は聞いていたのかい?」


 ロアンは話を切り替えて、ムッとした表情から真面目な顔で聞いてくる。


「………」


「やっぱり…君の事だから、僕の姿を見た事で先程の言い訳をずっと考えていたんじゃないかと思っていたらその通りだったか…」


 ロアンは呆れたように溜息をつく。


「…すまん…」


「すまんじゃないよ、イチロー! 猛省してくれ! 君は時々重要な時に妄想をする癖があるからいい加減に直せよ!」


「えっ!? 俺ってロアンのパーティーにいた時から妄想していた事ばバレバレだったの!?」


 俺は怒られて反省するよりも、俺の妄想癖がロアンにバレていた事に驚く。


「あぁ… 君が時々、ただの妄想だけではなく、いかがわしい妄想をして口から垂れ流しにしていた事はよくあったよ… 皆、大人だったから聞かないふりをして触れずにいたが…」


 なにそれ! めっちゃ恥ずかしい!! 俺のあんなことやこんなことを考えていたのが全てバレバレだったのか!? くぉぉぉぉぉ!!! マジでめちゃくちゃ恥ずかしいじゃないかっ! 穴があったら入れた…入りたい…性的じゃなくて…


「だから、口に出すなってイチロー… それと、説明会の話をこれからするから、今度はちゃんと聞くんだよ」


 ロアンは少し口角を上げた表情で行ってくる。


「少しよいか?」


 そんな所に、俺達の様子をずっと見ていたノブツナ爺さんが声を掛けてくる。


「他の皆はもう、カイラウルの前線の駐屯地への出立の準備をしておる。話の続きは移動しながらにせぬか?」


 ノブツナ爺さんの提案で話の続きは移動しながら俺の馬車で行う事となった。




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