第309話 巻き添え

「えっと、俺の番だな、祝祭のカードを使って鍛冶のカードを使い山場から三枚のカードを引く」


 俺は自分の山札から三枚のカードを引いて手札に加える。


「それから、改築のカードで職人のカードを破棄して、先ずは属州一枚ゲット、その後金貨二枚を出してさらに属州ゲット! これで属州は無くなったなゲームセットだ」


 ゲームが終わった事を告げると、皆、ふぅと溜息をついて前のめりの状態から背もたれに身体を預ける。


「計算しなくても俺の勝ちだとは思うが、一応計算するか?」


「いや、計算しなくてもあるじ様の勝ちだと分かるので、別にしなくてもよいぞ、しかし、このゲームに関してはあるじ様は強いのぅ…クリーチャーメーカーの様に勝てん…」


 そう言ってシュリは手札を場に投げ捨てる。


「いやいや、シュリは毎回金貨をため込むから、結構ハラハラさせられるぞ、ってか、金貨を溜める事に走らずに勝利点カードを買う事に走れば、何回が俺に勝てたと思うぞ」


「そこは、なんというかドラゴンであるわらわの本能で、どうも金貨に目がくらんでしまってのぅ…止められんのじゃ…」


 これ、金貨カードも勝利点に組み込まれるゲームシステムだったらシュリに勝てないだろうな…


 そんなシュリの隣では、悔しそうに手札を見つめるカローラの姿があった。


「ぐぬぬ…」


「ぐぬぬって、悔しがっている様だが、カローラ、お前は銅貨とか屋敷とか細かいカードを抱え込みすぎなんだよ、もっとデッキを圧縮していけよ」


「でも、折角手に入れた銅貨や屋敷を捨てるのは勿体ないじゃないですかっ!!」


 うーん、気持ちを分からなくもないが、だがカローラの場合はため込みすぎだろ… 普段の生活でも本やカードゲームなど収集癖があるのを見受けられるが、どんどん物が弾って言ってるんだよな…

 今は、肉メイド達が甲斐甲斐しく世話してくれているからいいが、もし肉メイド達がいなければ汚部屋状態になってるんじゃないか?


 まぁ、兎に角、目的を間違えているシュリや、弱すぎで相手にならないカローラでは、このカードゲームは俺のワンサイドプレーになるからやってられないな…


 旅の道中で暇つぶしの為に始めたカードゲームであるが、面白いげーむではあるが、初めてすることもあり、シュリとカローラ相手では話にならなかった。恐らく、マグナブリルとディートをメンバーに加えて始めればかなり面白い事になるであろう。


 そんな事を考えていると、シュリが声を掛けてくる。


「あるじ様よ、そこのテーブルの奥の置物が光っておるぞ?」


「ん?」


 シュリに言われてテーブルの御者台側に置いてある魔道具に視線を移すと、嵌められた魔石が光っているのが目に入る。


「あぁ、これは俺が出立する前にディートが渡してくれた連絡用の魔道具が連絡を受けた合図だ」


「ほう、ディートがそんな便利な物を作ったのか」


「あぁ、何か困ったことがあれば、ディートが便利な物を作ってくれるからいいな」


 俺の中でディートの存在は、なんだか猫型ロボットえもんか、オゲレツ大百科のオゲレツ君みたいになってきているな… しかし、ディートがオゲレツ君だとすると俺はメンチ助か?


「で、どんな連絡が来たんですか?」


 いつの間にか先程のカードゲームを片づけて、いつものマジック・ザ・プレイ王のカードを準備しているカローラが聞いてくる。


「多分、クリスがこの馬車に乗っていて一緒にカイラウルに行くことになった事の返事だろうな、シュリ、ちょっとクリスを呼んできてくれ」


 丁度テーブルの手前側にいるシュリにクリスを呼ぶように頼むと、シュリは少し眉を顰めるが、素直にソファーから降りて戸棚へと向かっていく。


「クリス、起きておるか? お主に用事じゃぞ?」


 シュリが扉を開けて声を掛けると、クリスはいつもの様に、戸棚の中で膝を抱いて体育座りをしながら居眠りをしていた。


「これ! 起きろクリス!」


 シュリは居眠りをしているクリスの頭に軽くチョップを入れる。


「ふぇ? ご飯ですか?」


「お主は、本当に寝る事と食う事しか考えておらぬのじゃの…」


「確かに、門番の仕事もせずに狩りに勤しんだり、壮行会の肉を摘み食いしたりとホント、フリーダムに生きてんな…」


「で、今日のご飯は何ですか?」


 クリスは眠気眼を擦りながら、とぼとぼと俺のいるテーブルの所までやってくる。


「飯じゃねぇよ、お前がこの馬車に逃げ隠れていた事を城に連絡したから、その返事が来たんだ」


「ひぃぎぃっ!」


 俺がそう言った途端、寝ぼけいたクリスは背中に冷や水を掛けられたように、ピンと背筋を伸ばし、字ずらだけはうすい本のクリムゾンコミックに出てきそうな言葉をカエルが踏みつぶされた時のようにあげる。


「という事は…も、もしかして…私がここにいる事はマグナブリル様に…バレてしまったのですか?」


「まぁ、そう言う事だな… いい加減、怒られる事を覚悟しろ、ずっとマグナブリルから逃げ続ける訳にはいかんのだし」


 俺がそういうと、クリスはそう言う手もあるなという顔をする。


「お前、マグナブリルから逃れるために野生化したら、今度は放っておくからな、城の飯を与えてやらんからな、まぁ、とりあえず、城からの返信を見るぞ」


 俺はそう言うと、魔道具のスイッチを押して起動すると、テーブルの上に返信の内容が表示される。

 この魔道具の原理としては、紙に書いた手紙をやり取りするようなものではなく、定められた位置の画像を送信するだけの物で、つまり固定カメラに写した映像を送るファックスの様な物だ。勿論、紙のやり取りは出来ないので、表示する時はテーブルの上に表示される。


「えっと、なになに?」


『マグナブリルでございます。イチロー殿からのクリスの保護…いや確保の連絡をお受け取りいたしました。こちらでは、また山の中に隠れているものと思われていましたが、まさか出征に向かう馬車の中に隠れているとは… 帰り次第、きつく説教をしたいと存じます』


「ひぃゃぁぁぁっ!!!!」


 マグナブリルの返信を見て、クリスが豚の様な悲鳴をあげる。一々うるさい奴だ…


「イチロー様、まだ続きがありますよ?」


「あっ、ホントだ、どれどれ?」


 カローラに指摘されたので、続きを読んでみる。



『追伸:尚、イチロー殿には、壮行会後の夜の事について、お話がございます。』



「うわぁ! 俺までクリスの巻き添えをくらってるじゃん!!」


「いや…あるじ様のあれは巻き添えではないと思うぞ…」


 シュリが呟きで突っ込みを入れる。


 その時、外の御者台にいるアルファーの声が響く。


「キング・イチロー様! 前方に数多くの人や馬の集団がいます!」


「あぁ、予定の集合地点に到着したようだな」


 とりあえず、帰ったらマグナブリルに小言を言われる事は忘れて、俺は表の御者台に向かったのであった。




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