第299話 城防衛戦

※前回言っていた話数を間違えていました。すみません。正しくは272話です



「それはマジか!? 自分も飯を食いたいが為に嘘ついているんじゃねぇだろうな!?」


 唖然と驚いてばかりではいられないのでクリスに確認をとる。


「嘘なんてつきませんっ!! そんな事をすればマグナブリル様にもっと怒られますっ!!」


 クリスが天敵であるマグナブリルの名前を出して言うからには真実なのであろう。


「わかった!!! 俺が城壁に昇って確認してくる!! クリスとフィッツは万が一の為に領民を城壁から出ないように指示誘導を行え!!」


「はひぃ!」


「分かりましたっ!! イチロー様!」


 俺は二人に指示を与えた後、飛行魔法で城壁の上に飛び乗ろうとすると、背中に急に重みを感じる。何かと思って振り返ると、シュリ、ポチ、カローラの三人が俺のマントにしがみ付いて、俺の飛行魔法に相乗りしようとしていた。一言文句を言いたくなったが今はそんな悠長なことをしている場合ではない。


「振り落とされるなよ!」


 その一言だけ告げて城壁へと舞い上がる。そして城壁の上にすたっと着地すると、遅れてドタドタと三人の着地する音が響く。


「あるじ様! あれじゃ!」


 シュリが指を差しながら声を上げる。その方角を確認してみると、森や繁みの中から、わらわらと数えきれないぐらいの魔獣が姿を現して、クンクンと鼻を鳴らし、こちらの城目掛けて進行を始めている。


「あれは先日、集落で倒した魔獣の群れか…アイツら、本体は人目のつかない森や繁み伝いにここまで来てやがったのかっ!!」


 こんなことなら、最初に現れた時に、山狩りでもするべきだったと後悔の念が頭を過ぎる。しかし、過ぎた事を考えていても仕方が無い。今の状況をどうすべきかを一番に考えるべきだ。


 俺は即座に城内に向き直って、大声で指示を飛ばす。


「魔獣の群れが現れた!!! みんな城内から一歩も外に出るな!!! 後、城門は固く閉じろぉぉぉ!!!!」


 あれだけの数の魔獣、一部でも城内に侵入したら大惨事になる。


「イチロー殿!!!」


 マグナブリルがアルファーと共に、城壁の上に飛んでくる。


「マグナブリルか!!」


 アルファーと共に城壁の上に着地したマグナブリルは魔獣の群れを確認して、ぎょっと目を大きく見開く。


「こ、これほどの群れとは… イチロー殿のお力でなんとかなりますかな?」


 想像していた以上の数の群れに、事態を重く見たマグナブリルはいつもより真剣な面持ちで俺を見る。


「いや…さすがにこの数はなんとも言えん…」


 そもそも、勇者や勇者パーティーなどの冒険者の対魔族に対する役割は、リーダーやボスなどの指導者を暗殺したり倒すのが目的の個人戦特化の舞台であって、このような群れなどの集団戦をするのは軍隊の役目だ。しかも冒険者は敵地の奥深くまで進行する攻撃戦がメインであり、拠点防衛などはなおさら軍隊の役目だ。


 なので、一人一人の力量が優れていても、数多くの人々を守るには人手が足りない訳である。


「では、城の中に籠り、籠城に徹しますかな?」


「いや…この城はもともと王の別荘みたいな城で、籠城やそもそも戦う事に向いていない、それに籠城は援軍が来ることが前提のやり方だ」


 イアピース本国からの援軍が来るかどうか分からない状況では、判断できない。もしかするとイアピース本国でも魔獣の進行が始まっているかもしれないからだ。


「では…どうなさるのですかな?」


「そうだな…アイツらが城に向かわないように陽動しながら、間引いていくとするか…」


「もしかして、イチロー殿御一人で向かわれるお積りなのですか!?」


 マグナブリルは目を見開いて、驚いた顔をして声を上げる。


「いくらなんでも、そんな無理はしねぇよ、ちゃんとお前らもついてきてくれるんだろ?」


 俺はそう言って、シュリ、ポチ、カローラの三人に笑顔を向ける。


「もちろんじゃあるじ様、ここで引き下がる様なわらわではないぞ!」


「ポチは大好きないちろーちゃまについてく!」


「フフフ…前回は家畜相手でしたが、私の魔眼の本来の使い方をお見せしますよ…」


 シュリ、ポチ、カローラの三人は心強い言葉を返してくれる。


 その言葉に唖然としていたマグナブリルはぐっと瞳を閉じてから、再びゆっくりと瞼を開き、覚悟を決めた顔を俺に向ける。


「分かりました、イチロー殿… 本来であれば、領主自ら先陣を取られるのを御止めするべきでありますが、ここはイチロー殿に頼る以外に道はございませぬ!」


 これで魔獣の対応は決まったのだが、側に控えていたアルファーが声を上げる。


「キング・イチロー様! 私達は王を守るのが務め! 共に戦います!!」


「いや、お前たちは城の防衛を勤めてくれ、いくら俺達が陽動を勤めても、敵全体を引きつけ続けるのは無理だ」


 そこへ、遅れてやってきたアソシエ達も合流する。


「では、私たちも防衛に回ればいいのね? イチロー」


「回復魔法は私に任せて!」


「ネイシュも頑張る!」


 三人も覚悟を決めた顔する。


「すまねぇな、三人とも…それで、子供たちは?」


 こんな時に私情を言い出すのはなんだが、三人に尋ねる。


「私たちの子供たちの事なら、マリスティーヌちゃんとディート君、それとエルフたちが領民と一緒に守ってくれているわ」


「なら、後ろの心配をせずに思う存分戦えるな!!」


 俺は胸の前で、両拳をガチっと合わせる。


「じゃあ、イチロー! やっちゃいなさい!」


「頑張って! イチロー!」


「ネイシュ! イチローが返ってくるのを待ってる!」


「あぁ! 行ってくる!」


 俺は三人の声援を受けて、城壁の上から飛び降りて、場外へと降り立ち、その後に三人も…ポチはフェンリルの姿に戻っているが、続いて着地する。


 こうして地上に降りたって、改めて敵である魔獣の群れを見ると、魔獣の群れに埋め尽くされていて地平線が見えない。一体どれだけの数いるんだよ…


「それで、あるじ様よ…実際の勝率はいかほどのものなのじゃ?」


 シュリが俺の隣に進み出て、魔獣の群れを見定めたまま尋ねてくる。


「討ち死にしないかとかの話しだったら、その心配はないな、無理だと思ったら最悪飛んで逃げればいい… だが、城を守り切れるのかと聞かれると正直自信が無いな… あまりにも数が多すぎる」


 城を四方八方から攻められたら、俺達だけでは人手が少なすぎる。


「それでも城を守らねばならぬのじゃろ? どうするのじゃ?」


「そこは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する」


「具体的には?」


「疲れたら一時城で回復しつつ、ちまちまと敵を間引いていって、敵の数が減って逃げ出してくれたらって思っている」


 俺の言葉にシュリは呆れたような溜息をつくが、すぐに真顔に戻る。


「行き当たりばったりの計画じゃが、今はそれぐらいしか打つ手はなかろうて…」


「だが、相手の出鼻ぐらいはくじいておきたいよな」


 俺はニヤリと笑いながら敵を睨みつける。


「そうじゃのう、わらわはドラゴンブレスで奴らを薙ぎ払ってやるとするか」


「フフフ、私は魔眼で奴らを一斉に魅了してやりますよ…でも、集中しなければならないので、ポチ、私の足になって」


「わぅ!」


 カローラはポチにまたがり、それに答えるようにポチが吠える。


「では、先ずはわらわからじゃ!!」


 シュリはポンっとシルバードラゴンの姿に戻り、ブレスを履くために大きく息を吸い込む。


「シュリ!! 敵を薙ぎ払え!!」


「おぅ!!!」


 俺の掛け声と同時に、シュリはカーバルで使ったビームの様な収束ドラゴンブレスを吐き出し、言葉通りにビームで敵を薙ぎ払っていく。


「おぉ! スゲーな!!!」


 気分は巨神兵を従えるクシャナ殿下の気分である。


「じゃあ、俺も行くぜ!!! ミストストーム!!!」


 ロンドンのような1メートル先も見る事の出来ない濃厚な霧の嵐が一気に敵を包み込んでいく。


「からのぉぉぉぉ!!! サンダァァァストォォォーム!!!!!!」


 俺から放たれて扇状に伸びる雷は、濃霧の中の濡れた敵に当たると、まるでシナプス細胞のように付近の敵に連鎖的に広がっていき、プスプスと感電していく。


「よしっ!! 効いてる効いてる!! このまま前進していくぞ!!」


 本来であれば、敵に追いつかれないように、魔力が続く限り、引きながら撃ち続けていけば、完勝することも出来るかもしれないが、今は防衛戦で、俺の背後には守るべき城があり、引き撃ちすることはできない。


「フフフ…見るがいい…選ばれし者だけに与えられた闇の力を… 暗闇より出でる根源の闇を…いま解放せん!!! The eyes of fascination perception!!!」


 カローラが今まで胸に秘めてきた中二力を全開に魔眼を解放させる。


「ウォォォォォオ!!!!」


「ん? あれ?」


 しかし、魔獣たちに変化はなく、その様子にカローラは首を傾げる。


「どうした! カローラ!」


「イ、イチロー様!! こいつ等、既に誰かに魅了されて操られてますっ!!」


「なるほど…そう言う訳だったのか…」


 普段これ程までに群れをつくらない魔獣が、こんな軍隊の様な群れをつくるはずがなかったが、その理由が誰かによって魅了され操られているのなら納得できる。


「カローラ! 魅了無しで戦えるのか?」


「何を行ってるんですか、私は鮮血の夜の女王と呼ばれたヴァンパイアですよっ!」


 ムスッとしながらそう言うと、カローラの背中から、濃厚な漆黒の濃霧が吹き出し、その闇の濃霧が、先っぽに手の生えた何十本もの触手を作り上げていく。そして、その何十本もの触手がまるでバリスタで打ち出された槍の様に魔獣に伸びていき、その身体を掴み上げる。


「グォオォ!!!」


 掴み上げられた魔獣は痛みの咆哮を挙げたかと思うと、パキュッと音を立てて握りつぶされ、まるで夜に咲き乱れる赤い華のように、血が飛び散る。


「ねっ?鮮血の夜の女王の名前は伊達じゃないでしょ?」


 そう言って、妖艶で病んだ笑顔を俺に向ける。


「ふっ、そうだったな… 最初に対峙した時もそれに苦しめられたんだったよな…」


 カローラの戦力に安心した俺は、魔獣の群れに向きなおる。


「じゃあ、行くぞ!!! 敵を出来るだけ多く! 出来るだけ城から遠くに引きつけるぞ!!!」




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