第298話 なんだか懐かしいな…
※第271話のシュリのカードの挿絵を加えました。よろしければご覧ください(ニヤリ)
「いつもは汁はあまり飲まんじゃが、この汁は残すのが勿体ないほど美味いのぅ!」
シュリがレンゲでラーメンのスープを飲みながら声をあげる。
「この唐揚げも美味しよっ!」
ポチも美味しそうに唐揚げを頬張ってニッコリと微笑む。
「旦那ぁ! 餃子も上がりやしたぜ!」
そう言って、カズオがほかほかに焼き上がった餃子を運んでくる。
「うぉぉぉ! ラーメンにチャーハン、唐揚げに餃子って、我儘満腹セットじゃねぇか!!」
ラーメンだけでも、すげー嬉しいのに、ラーメン屋に行ったら注文したくなる三種の神器である、チャーハン、唐揚げ、餃子の三種まででてくるとは、大したものだ。
現代日本にいた時には金額的に別に高い物ではないが、量的に食い切れる量ではないので、中々頼むことが出来なかったセットだ。そのセットを現代日本ではなくまさか異世界で食べる事になるとは思いもしなかった。
俺はその我儘満腹セットをシュリとポチの三人でガッツいていると、先程デザートのチーズケーキを出汁に、子供たちをカードゲームの初心者狩りに言ったはずのカローラが、落ち込んで項垂れながら、トボトボと歩いている姿を見つける。
「おい、カローラ、どうしたんだ? 領民の子供たちとカードゲームをしに行ったんじゃなかったのか?」
カローラに声を掛けると、俺の声に気が付いたカローラは、涙目になりながらこちらに掛けてくる。
「ちょっど! ぎいでくだざいよ!! イチローざまぁぁぁ!!!」
俺にしがみついたカローラは、一気に涙やら鼻水やらを吹き出して、泣き声を上げ始める。
「ちょっ、おま…一体何があったんだよ…」
あまりにも憐れなカローラに姿に俺は困惑して尋ねる。
「あのごどもだぢ…わだしのじらない定石やら専門用語をづがって、みんなでわだじをふぐろだだきをずるんでずよっ!」
「なんだ、じゃあ、子供たちは初心者なんかじゃなく、熟練プレーヤーだったので、返り討ちにあって来た訳か…」
「ぐ…ぐやじい…」
可哀相で気の毒な姿ではあるが、カローラの当初の目的が初心者狩りをするつもりだったことを知っているので、なんというか…掛ける言葉が思い浮かばない。そんな俺はカズオに向き直る。
「すまん、カズオ、カローラにもラーメンを作ってやってもらえないか?」
「へ、へい…分かりやした…」
カズオはなんともいえないような顔で返事をして、ラーメンを作り始めた。
………
「なんですかこれ!? ホワイトソースとはまた違った濃厚な味ととろみ… めちゃくちゃ美味しいですよっ!!」
先程まで、涙と鼻水でぐちょぐちょに泣いていたのは嘘のように、カローラは必死でラーメンをガッつく。
「そういって下さると、あっしも嬉しくなりやす!」
メイドに調理を任せて、俺達と一緒にラーメンを食うカズオも、カローラの美味しそうに食べる姿を見て、目じりを下げている。
そんなカローラとカズオ、アツアツの餃子を食べて口をはふはふさせているシュリとポチの姿を見て、俺も目じりが下がってくる。
「なんじゃ、あるじ様、そんな年寄が孫を見てほっこりするような目をして?」
俺の視線に気が付いたシュリが、声を掛けてくる。
「ん? いや、こうして旅を始めた五人が勢ぞろいするのは久しぶりだなって思ってな」
「そういやそうですね、あっしは食堂におりやすから、それぞれ個人個人は毎日三食顔を合わせておりやすが、五人全員は久しぶりでやすね」
カズオが箸を止めて俺の言葉に返す。
「そうじゃのぅ、わらわも畑仕事ばかりして居ったから、カローラと会うのは飯の時にたまに会うか、後は風呂の時ぐらいじゃな」
「ポチもおなじ~」
「私は、元々外の作業には向いていませんからね、かと言ってトラクターの魔力供給するのはもう御勘弁させて頂きたいです…」
シュリ、ポチ、カローラの三人がそれぞれの事情を語っていく。
「シュリもポチも畑の手伝いありがとな、カローラはトラクターの事は正直すまんかった…あそこまで悲惨な事になるとは思わなかった」
当時は大変だったが、今思い返すとちょっと笑ってしまう。
「しかしあれだな… 今の生活も良いが、昔の様に馬車で勝手気ままな生活も楽しかったな…」
イアピース軍の追手から逃げ回ったり、ウリクリでプリンクリンを倒しに行ったり、ミケの故郷にいったりハニバルに言ったりしたことを思い出してポツリと呟く。
「確かに、毎日の様に何か問題が起きていたが、それが面白くもあったのぅ」
「ポチはもりでひとりでいたときよりずっとたのしい~!」
「あっしは、慣れない軍の隊長なんてやってましたからね、今思えば肩の荷が降りたってかんじでやすね」
「私も集めていた本を読み切った所でしたからね、まぁ…それで街に新しい本や他の物を手に入れに行った時に、まだ勇者パーティーだった頃のイチロー様達に殺されかけたんですけど… 今は大手を振って買いに行けるので、気が楽ですね」
俺に関わったせいで皆の人生を大きく変えてしまったが、おおむね好意的に受け取ってもらえている様で、少し安心する。
「あれだな、今の領地経営の仕事が終わったら、またここの全員で集まる機会を作りたいな、まぁ旅の様な大がかりな事は難しいけど、街に買出しぐらいならいいかもな」
「ポチはみんなで狩りをして外で食事がしたーい!」
ポチがそういって身体を使って大きく声を上げると、弾みで水の入ったグラスをたおしてしまう。
「あっごめんなさい…」
テーブルの上に流れた水が、俺の所まで届いて、袖を濡らす。
「気にするなポチ、それよりも何か拭くものはないか?」
俺は周りをキョロキョロと見渡して何か拭くものを探していると、一人の少女が近づいて来て、ハンカチを差し出す。
「イチロー様、これをお使いください」
「ありがとう、お嬢さん…ん?」
清楚で可愛い娘さんに声を掛けられたので、俺は即座にイケメン爽やかフェイスで答えるが、その娘さんの姿に見覚えがあり、思い出す様にその顔を見つめる。
「あれ? もしかして、フィッツか?」
「はい! そうです! 私…何かおかしくありませんか?」
普段は衛兵姿で全く着飾っていないフィッツであるが、今日は落ち着いた感じの清楚なドレスを来ており、髪型も顔もおしゃれに整えており、見間違えるほど可愛らしくなっていた。
「いや、おかしいなんて事は全然ないぞ、それよりもどこかのお姫様のように綺麗で可愛らしいぞ」
「あっ、ありがとうございますっ! イチロー様にそう言って頂けると安心です」
俺の言葉にフィッツは頬を高揚させて、はにかみながら微笑む。
うーん、ハニバルから連れ帰った時は、まるで少年の様に痩せた感じだったが、いい感じに女らしい丸みを帯びて来たな…そろそろ収穫の時期か?
「しかし、よくこんな祭りの日にあのクリスが当番を代わってくれたな」
一応、門番の仕事は蟻メイドが手伝いをしてくれる事もあるが、フィッツとクリスがメインの担当となっている。今日の様な食べ放題の日に食欲魔人のクリスが門番の担当を引き受けてくれるのは意外だ。
「あ~ それは、マグナブリル様が来られまして、クリスさんに食欲を我慢する鍛錬だとおっしゃって、今日の担当をクリスさんに変更されたんですよ」
フィッツは少し気まずそうな顔で答える。
「あぁ…先日のポチの件が尾を引いているのか…」
まぁ、クリスにはそれぐらいのお仕置きが必要だよな… いくら何でも幼女姿のポチから食事を強請るのはやりすぎだ。
そんな事を考えていると、バタバタと騒がしい足音が響いてくる。なんだよまた揉め事かと思い視線を向けていると、先程まで話をしていた当の本人であるクリスがこちらを目掛けて走ってくる。
「イッ、イチローどのぉぉぉ~!!!!」
「なんだよクリス!? 腹減って我慢できなくなったのか?」
今日のクリスは以前の様に獣臭くはなく、姿も正装鎧を着こんでいるので汚くはない。が、クリスにしがみ付かれるのは何かやだ…
「いや…それもありますけど…そうじゃないんですよっ!!!」
クリスはチラリと俺達が食べていたラーメンや唐揚げを見て涎をたらした後、は!っと気を取り直して真剣な顔を俺に向ける。
「魔獣が… 魔獣が現れたんですっ!! しかも群れで!!! もう数えきれないほどの群れで、この城にむかってきているんですよぉぉぉぉ!!!」
クリスの発言でその場にいる者が全員、驚きのあまり言葉を発することが出来ずに唖然となった。
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