第297話 料理を楽しまないと

※現在、色々イラストを描いている所です~シュリが多めですが、ご希望があればコメント頂ければ…


 式典の堅苦しい演説などが終わり、自由に料理を楽しむ会食の時間が始まった訳だが、俺は、飲み物の入ったグラスを転がす様に弄びながら思索に耽っていた。


 あの状況下で皆をまとめ上げたマリスティーヌのやり方は上手いとは思うが、あの『かつ友』なるものを続けさせても良い物であろうか… マジで20世紀少女のともだちじみてきやがった… かと言って、大々的に演説した後では、もう止めろとも言い難い状況である。


 俺がそんな浮かない顔をして佇んでいると、アソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人がやってくる。


「どうしたのよ、イチロー、そんな浮かない顔をしてっ! 辛気臭いわよ」


「折角の生誕祭ですから、もっと笑顔をみせないと」


「イチロー元気出すっ!」


 俺の姿を見かねて、アソシエ、ミリーズ、ネイシュの三人が声を掛けてくれる。


「いや、さっきのマリスティーヌの演説を見て、変な方向にいかないかちょっと心配なんだよ」


「あぁ、その事ね、それなら大丈夫よ」


 そう言ってミリーズがコロコロと笑う。


「マリスティーヌちゃんは、元々道徳心が高いし、食べること以外の欲望はあまりないから、誘惑にも乗らないし、他人に誘導されそうになっても、先程の様にちゃんと考えた上でやり返す事もできるわ、それに私もちゃんとついているから安心してイチロー」


 食べること以外はって… まぁ、ミリーズがそう言うのなら心配しても仕方ないか、ミリーズとマリスティーヌを信じてやるか。


「イチロー、迎賓の対応は私たちがしておくから、イチローは少し気分転換でもしてらっしゃいよ」


 アソシエも俺に気を使って言葉を掛けてくれる。


「今日はイチローの領地の生誕祭! イチローが楽しまなきゃダメ!」


 ネイシュも俺の手を取って励ましてくれる。


「そうだな、一応主役の俺が辛気臭い顔をしてたらダメだな! ちょくら回って上手い料理をたらふく食ってくるか!!」


 俺は三人に見送られながら、ビュッフェ形式で食事が提供されている会食の場へと向かう。


 今日は朝から忙しくて、何も食ってなかったから辛気臭い思考になってしまったんだと思う、だから腹いっぱいに食べて、ポジティブ思考に戻さないとな!


 するとデザートのチーズケーキを肉メイドに多量に持たせたカローラの姿を発見する。


「おっカローラ」


「あっ、イチロー様」


「お前…そんなにチーズケーキを食うのか?」


「いや、これは領民の子供たちに食べさせようと思ったからですよ」


 カローラから意外な言葉が帰って来たので、俺はほぉ~と声を上げて感心する。あのカローラが子供たちを気にかけて、その様な事をするとは、カローラも成長するものだ。まぁ、身体の方は全く成長しないが…


「ふふふ、こうしてお菓子で子供たちを釣って、カードゲームの相手をさせるんですよ… 教えるふりをして勝ち星を増やせますからね…」


 お茶の時間の度にマグナブリルにカードゲームを挑んでは、黒星を増やし続けているからな… でも、その行きつく先が、初心者狩りとは… 全く成長していない… 安西先生もビックリだよ… 感心して損をしたわ。


「カローラ、程々にしろよ…程々にな…」


「分かってますよっ イチロー様、では行ってきますね~」


 そう言って、カローラは子供たちの方へと向かっていくが…分かってないだろうなぁ…


 そんなカローラの後姿を見送っていると、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


「あるじ様よ!」


「いちろーちゃまっ!」


「旦那ぁ~!!」


 声の聞こえた方角に振り返ってみると、料理を提供する一画に、シュリ、ポチ、カズオの三人が俺に向かって手を振っている姿があった。カズオはカウンターテーブルの向こう側で、いつもの様に料理をしているようだが、シュリとポチは今日はおめかしをしている様だ。

 ポチは普段は汚れてもいいようなスモッグを来ているのだが、今日は可愛らしいエプロンドレスを着こんでおり、シュリの方は、田舎の農作業をするおばちゃんが来ている作業着から、レースの施されたパステルグリーンのワンピースドレスを着こんでいる。しかも普段はきっちりと胸元をしまい込んでいるが、今日の衣装はばっちり胸の谷間が見える。


 エロス、エロッサー、エロリストでナイスだ!


 そんなシュリの胸元を見たくて三人の所へ歩み寄っていく。


「三人とも、こんな場所でどうしたんだ?」


「…あるじ様よ、わらわの胸元ではなく、皆の顔を見て話すがよい」


「おっと、そうだったな、すまんすまん、思わず見惚れちまったわ」


 そういえば、先日の乳首の一件以来、なかなか再チャンスが巡って来なくて、未だに揉めてないんだよな…


 そう思いながら顔を上げると、幾つも寸胴鍋が並んでおり、カズオが意味ありげな笑みを浮べている。


「新じゃがと新玉ねぎが収穫できたのでな、カズオに美味しい料理にしてくれと頼んでおったのじゃ」


「イチローちゃま! いちろーちゃま! ポチも収穫てつだった!」


「そうかぁ~ ポチも手伝ってくれたのかぁ~ えらいぞポチ~」


 そう言って、俺はわしわしとポチの頭を撫でてやる。ポチは元の姿でも人の姿でも、変わらぬ可愛らしさだ。


「で、どんな料理を… ん? もしかして、この香りは!?」


「ふふふ、気づかれましたか?旦那… 前に仰っていたものをあっしがアレンジして作って見たんでやすよ、一杯いかれますか?」


 もしこれが事実であれば、あの料理をこの異世界で食う事ができる!!


「勿論! 頼む!」


「へい! では一丁入りやす!!」


 カズオは俺の注文に景気よく答えると、てぼに生麺を入れて寸胴のお湯で茹で始める。そして、砂時計をひっくり返して、その間に、どんぶりにかえしを入れて、その上に、トロトロのスープをざるで濾しながら注ぎかえしとスープを混ぜる。その後、砂時計を見て、ゆで上がった麺を湯を切ってからどんぶりに入れて、スープと馴染ませる。その上に、ネギ、味玉、そして、チャーシューを乗せる。


「旦那!出来上がりやした! ラーメンでやす!」


 そう言って、カズオはほかほかと湯気の上がるラーメンを俺に差し出す。


「Oh! グレート!!! 天上天下一品のラーメン、そのまんまじゃねぇか!!! すげーなおい!!」


 俺は受け取ったラーメンに、早速箸を突っ込んで、啜り始める。


「うぉぉぉ!! マジ! マジでスゲー!!! 味もほぼ完璧に再現出来ている!! どうやって再現できたんだ!?」


「へい、最初に牛乳を使って作って見たんですが、旦那が言っていたようなものにはならずに困っていたのでやすが、シュリの姉さんがじゃがいもと玉ねぎを持ってきてくれた時にピンと閃いたんでやすよ」


「えっ!? じゃあ、このスープってただ鶏ガラを煮込んだだけじゃなく、じゃがいもと玉ねぎをペースト状にしていれているのか?」


 俺はレンゲでスープをすくって味を確かめる。


「それだけでは濃厚な上手さは出てこないので、ミンチにした鶏むね肉と鳥皮を更にペースト状にして混ぜ込んでいるんでやすよ」


「なるほど! それでトロトロで濃厚な美味さが出ている訳か!!」


 そう答えると、俺はずるずると音を立てて、がむしゃらにラーメンを食べ続ける。


「うむ…なにやら、あるじ様の食べる姿を見ていると、わらわも食べたくなってきたのぅ」


「ポチもたべたいっ!」


「なんだ、お前たち、まだ食ってなかったのかよ?」


「わらわの作ったじゃがいもと玉ねぎを、まず初めにあるじ様に召し上がってもらいたかったのでのう、まだなのじゃ」


 シュリのこういう所は健気で可愛いな。 


「じゃあ、食え食え! 自分で作った作物がこんな美味いラーメンを食わなきゃ勿体ないぞ!」


「じゃあ、カズオ! わらわもラーメンじゃ!」


「ポチも!!」


 二人は明るい笑顔でカズオに注文する。


「へい! ラーメン二丁でやすね? 旦那! 他にも唐揚げとチャーハンが出来やすが、どうされます?」


「おぉ!! 唐揚げとチャーハンまで出来るのか!? 勿論、注文するぞ! シュリやポチの分も頼むぞ!!」


「へい! 分かりやした!!」


 こうして俺達は会場の一画で、ラーメンと唐揚げ、チャーハンを楽しんだ。







 

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