第292話 篭絡していくイチロー

「アシヤ領生誕祭に向けた準備も着々と整っておりますな、特に懸念されていた人手不足も解消されつつありますので」


 マグナブリルは、報告しながら、カローラの側に控える、元骨メイドのホノカをチラ見する。元骨メイドと言っているのは、現在では、ディートが開発してくれた錬金素材のお陰で受肉化出来ているからだ。


 他の骨メイド達も着々とヤヨイの様に受肉化していき、生前と同じような身体を取り戻して、再び性の喜び…じゃなくて生の喜びを知って有頂天外して小躍りしながら大喜びしている。


 まぁ、俺の悪だくみがあって、材料の製作をディートに任せて、実際に受肉化する作業は俺が担当し、その時に致せるように『例の穴』を作成した。また、その時、ついでにヤヨイ以外の骨メイドは俺に対しての好感度が高くないので、みっちりねっとり俺式性教育をしてやり、正しく性の喜びも知らしめてやった訳である。


 なので、受肉化したメイドは以前と違って、俺にメロメロ状態になった訳であるが、カローラの側近中の側近であるホノカ、ナギサ、ヒカリの三人だけは、カローラに対する忠誠心が高く、未だ俺には屈していない。


 今現在もその時の事を思い出してか、顔を赤らめながら俺を睨んでいる訳であるが、俺自身は『くやしい…!でも…感じちゃう!』の姿を見ているので、これはこれで俺の嗜虐心を煽るので大満足だ。カローラが普通の顔をしている所を見ると、カローラには何もしゃべっていないのだろう… また、今度、カローラから離れた時に色々してやろう…


「どうかされましたか? イチロー殿」


 頬を赤らめながら俺の睨むホノカをニヤニヤと眺めている俺に、マグナブリルが声を掛けてくる。


「いや、何も…」


 俺は咳ばらいをして誤魔化しながら答える。


「では、話をつづけますぞ… また先日の魔獣盗伐が功を奏して、我々にとって、思いがけない効果をもたらしておりますな」


「具体的には?」


「やはり、イチロー殿自ら被害者一人も出さずに魔物を討伐したのが大きいですな、民とっては税を取るだけで民を守りもしない領主と違って、先ず民第一に考える領主としての噂が広まっております。あの時、偶然では御座いましたが、純白の貴公子のような装いも功を奏して、イチロー殿自身の人気もうなぎ上りでございます」


 確かにあの時は、俺史上一二を争うカッコ良さだったからな…


「イチロー殿が倒したあの魔獣は、あの後、皮や頭骨を回収して、今は集落のシンボルになっているそうで、あの集落に訪れた者がそれを見て、各地にイチロー殿の良い噂が広まっている様ですな」


「回収しようとも思ったが、そのままにしておいて良かった」


 あれぐらいの魔獣は魔族と戦う前線ならいくらでも倒せるしな。


「そうですな、後、イチロー殿の噂以外に、意外な副産物もございますな」


「どんなものなんだ?」


「それは蟻族のメイドについてでございます」


「蟻メイドの事?」


 あの時DVDとVHSの二人を同行させたが、一般人にどの様に思われたのか気になるな。


「はい、蟻と同じような瞳をしておりますが、元々、人間と同じような姿をしておりますので、今回の一件で、高い評判を得ておりますな、なんでも、人々が言うには、戦うメイドというものが大層凛々しく見えたそうで… イチロー殿とは別の意味で憧れの存在になっておりますな」


「あぁ、蟻族は元々顔に表情が出ないし、指示に忠実で坦々と任務をこなすから、それがストイックに見えて、カッコよく思われたんだな」


 マグナブリルは俺の言葉に同意を示す様にコクリと頷く。その後、次の報告をする為に、書類に目を落としたマグナブリルであったが、珍しくマグナブリルが眉をしかめて困惑したような顔をし始める。


「どうした? マグナブリル、何かマズい内容の報告でもあるのか?」


「いえ、どの様に判断をすれば良いのか分からない報告がございましてな…」


 少し困惑した顔をしながらマグナブリルが顔を上げて答える。


「先日の一件で、修道服を来たマリスティーヌ嬢がかつ丼なるものを炊き出しとして振舞った事により、『かつ友教』なるものが広まっているとの噂があるようです…」


 あまりの内容に、肩肘をついて報告を聞いていた俺は、腕を滑らせそうになる。


「なんじゃそれは!?」


「はい…なんでもあの時振舞ったかつ丼なるものが、美味くて元気の出る食べ物で、それを修道服のマリスティーヌ嬢が振舞ったので、そのかつ丼が聖体または聖餐と呼ばれるようになり、『かつ友』になればそれを口に出来るという噂が広まっているのです…」


「…マジかよ…」


 マリスティーヌの奴、20世紀少女のともだちの様な事をやり始めるんじゃないだろうな… こえーよ…


「まぁ…何はともあれ、イチロー殿、蟻族、マリスティーヌ嬢が、それぞれに民心を掴まれたようですので、これで棄民たちを領民へと編入させる統合政策も上手く行きそうですな、また、予定しておりましたアシヤ領生誕祭への参加も予定以上の人数が見込まれます」


「それは嬉しい悲鳴と言った方が良いのかな? まぁ、人手は何とかなりそうだし、食材についても初期に植えたジャガイモや玉ねぎがそろそろ収穫できそうだから、それも使えるな、また、牧場から拾ってきたヴィクトル爺さんが、消費しきれない牛乳をせっせとチーズやバターの乳製品にしてくれているから、それも出せるな」


 カーバルで稼いだ莫大な金があるから良いものの、未だ収入の無い現状では、あまり出費を増やしたくないから大助かりだ。


「偶然なのか、将又、最初から考えての事なのかは知りませんが、この地で作られたものを生誕祭で振舞うのは良いやり方でございますな、もしも前者であるのなら、イチロー殿は相当な運気をお持ちの様ですな」


「どうだ凄いだろ!って自慢したいところではなるが、こればっかりは、協力してくれた仲間のお陰だからな、畑はシュリがいなければどうしようもなかったし、人員に関してもカローラが骨メイドを使わせてくれなければ、人手が足りない所だったし、ディートやビアン、ロレンスたちが色々作ってくれなければ、色々な事が行き詰っていただろうな… 皆に足を向けて寝られないから立って寝ようかと考えてるぐらいだ」


 自分で自覚はしているが、俺はそんな上等な人間ではない。好き勝手気ままに生きているただの人間だ。まぁ、転生する時に身体が再構築されたらしく、常人よりかは遥かに高い魔力を持っているがそれは身体的な事であって、特に優れた人格者と言う訳ではない。そんな俺にみんな良くついてきてくれるものだ。


「良い心がけですな、常人であれば、思いあがって傲慢になったり、傍若無人になったりするものでございますが、そう言ったものは大抵、今までの運気を失い落ちぶれていくものです… イチロー殿も今のお気持ちをお忘れなきよう…」


 そうして、朝の会議が終了となった。


 会議が終わった俺達は、解散となり、それぞれの場所に戻っていくわけであるが、俺も移動する為に扉の所へ行くと、カローラにつき従う、ホノカの後姿があった。


 俺はその後姿を見て、何気に尻を掴んでみる。するとホノカはビクリと肩を震わせ、肩越しに振り返って、赤面した顔でキッと俺を睨む。


 だが、ケツを掴む俺の手は振り解かない。



 これ…いけるんじゃね?

 


 俺はそんなホノカの耳元に顔を近づけ…


「今晩な…」


 そっと小さく囁く。するとホノカは拒否も承諾もせず、ただ無言で俺から顔を背けて耳まで赤くして項垂れる。


「ホノカ、さぁ、行くわよ」


「は、はいっ! カローラ様っ!」


 カローラに呼ばれたホノカは、結局、俺の言葉を先送りにするようにカローラの後に続いていった。


 その後姿を眺めながら、俺は今後が楽しみだと思っていた。








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