第291話 アレがないのなら魔改造すればいいじゃない(マリーアントワネット風)

 俺はドタドタと猛烈な速度の早歩きでディートの部屋へと向かう。


「ディートっ!!」


 俺が扉を開けて中に入ると、ディートは口の前に人差し指を立てて、しーっと静かにするようにとポーズを取る。


「あまり、大声を出さないでください… 先程、ルイーズちゃんが眠った所ですから…」


「お、おぅ…そうか…すまない…」


 俺はこの部屋に来るまで保っていた気勢を削がれて、詫びを入れる。


 しかし、ここ最近、ディートがルイーズを負ぶっている姿ばかり見て、母親であるミリーズがルイーズの面倒を見ている所を見ないのだが、大丈夫なのか? といって、俺自身もあまり面倒を見ていないから、人の事は言えた口ではないが…


「それで、血相を変えて走って来られたようですけど…どうかされましたか?」


「どうかしましたかって、ヤヨイと致そ…」


 そこまで言いかけて、俺にしては珍しく理性が働いて、発言を止める。


 危ない危ない… まだ青少年のディートに対して大人の男女の営みついて話してしまう所であった。

 俺が血相を変えてディートの部屋まで駆けてきた理由は、ヤヨイの城内を練り歩いて身体の動かし方を練習する名目のデートの後、デート後のお決まりである、男女の営みをする為に、俺の部屋へとヤヨイを連れ込んだわけであるが、服を脱がせていざ致そうと思ったところ、俺にとっては肝心なあそこが無かったのである。


 ここまでお膳立てしておきながら、最後の最後でお預けを喰らって、俺は『がーんだな 出鼻をくじかれた』どころの騒ぎではなく、我を忘れてディートの所へ掛けて来た訳である。


 しかし、ディートの部屋に来て、別の意味でルイーズの存在に出鼻をくじかれた事により、俺は冷静さを取り戻した訳である。


 普通に考えて、幼気な少年であるディートが、女性器の完全再現など出来るわけないわな… 流石に骨メイドの身体を受肉するのに必要だから、女性器を見せて欲しいと謂れてほいほい見せる奴なんて…ちょっとマリスティーヌならOKを出しそうだが…まぁ、スジすらないつるつるの所を見ると、そこまで作る事は全く考えていなかったのだろうな…


「ヤヨイさんがどうかされたんですか?」


 ヤバイ…なんて答えたらいい…流石の俺でもヤヨイと致そうとしたらあそこが無かったなんで言えないしな… でも、あそこまで出来が良ければ致したいし… どうする俺!? この際、強引に切れ込みを入れて致すか? いやいや、ディートがここまで拘って作ってくれたものに対して、そんなこんにゃくに切れ目をいれるような事は出来ない。


 また、よく考えれば、ディート自身にあそこ作れっていうのもなんだよな… 例えて言うなれば、バソダイさんに対して、ウミナ先輩をキャストオフできるようにして、乳首とスジを付けてって言うぐらい無粋な行為だよな…


 こういうのは、モデラー側が、迸る性欲を原動力に、魔改造するから意味があるものだよな… よし! この手で行こう!


 俺はあるアイデアを思いついたので、ディートに向き直って答える。


「ヤヨイが身体を動かす練習をしていて、不意に転んで怪我をする場合があるだろ? その時に人間と違って自然治癒はしないから、修繕方法を聞いておきたいんだよ」


「それなら、僕に言って下されば、修繕しますよ」


「いやいや、何度も何度も怪我をする度にディートの手を患わせる訳にはいかないし、今後、他の骨メイドもラブド…いや受肉化させたら、とてもディート一人では手が回らなくなるだろ?」


 魔改造できるように、製作方法を聞き出さなくては…


「確かにそうですね…では、良く怪我をするであろう、皮膚の製造方法のメモを作っておきますね」


「いや、ちゃんと皮下脂肪と、筋肉のレシピも頼む」


「えっ!? 皮下脂肪は兎も角、筋肉のレシピもですか!? 結構、難しい製造方法ですよ?」


 ちゃんと筋肉部分の魔改造も出来なければ、あれする時にキュッと締まらんだろ… 絶対に…絶対に必要だ。


「あぁ、頼むっ! 絶対に覚えて見せるからレシピをくれっ!!!」


 俺はディートに詰め寄って、手を握って頼み込む。


「そこまでされるとは… イチロー兄さんはよほど、ヤヨイさんに生前のような人生を送ってもらいたいと思いなんですね…分かりました!! 僕も頑張って分かり易いレシピをつくりますよ!!」


 すまんな、ディートよ…お前は俺が良心に基づいてヤヨイの為に頑張っていると思っているが、100%俺の性欲の為なんだ…すまぬ…すまぬディートよ…


 そんな感じに俺が心の中でディートに対して謝罪を述べていると、部屋の外の廊下が騒がしくなってくる。



 ドタドタドタドタ!!!



「なんだ?」


「なんだか、誰かが集団で走っているみたいですね」


 あまりの騒がしさに、俺とディートと二人して、扉の方に向き直った瞬間に、部屋の扉がけたたましく開け放たれ、カローラを筆頭に骨メイド達が姿を現す。そして、無言で険しい顔しながら、ズカズカと集団でディートの部屋の中に入ってくる。


「どっ、どうしたんだよ…カローラ、そんな血相を変えて…それにルイーズが眠った所だから静かにしてもらえないか?」


 俺が最初にディートに言われた内容と同じことをカローラに告げる。


「…イチロー様… ヤヨイに何をしたのですか…」


 カローラが凄んだ顔で尋ねてくる。


「何をしたって…まだ脱がせただけで、それ以上の事は何もできていないのだが…」


「いや、そっちの事じゃないです! ヤヨイの姿の事ですっ!」


 おっと、失敬失敬、意識がそっちの事だけに集中していたわと言いたくなったがぐっと堪える。


「あぁ、ラブド…いや受肉化させた事だな?」


「そうです! それです! どうしてヤヨイなんですか! 他のメイド達がヤヨイだけ受肉化している姿を見て、混乱してパニック状態になりかかっているんですよっ!」


「いや、なんでヤヨイが受肉化したら、他の骨メイドがパニックを起こすんだよ…」


 訳の分からない理由に、俺の方が困惑しながらそう答える。


 すると、カローラの後ろにいた骨メイドが、身をかがめてカローラに耳打ちをする。


「えぇ~… それを私が話すの?」


 何か耳打ちされたカローラは嫌そうな顔でそう答えるが、骨メイドは力強くコクコクと頷く。その強い決意の現れに、カローラは折れてこちらに向き直る。


「…やはり…骨盤輪…なんですか…」


「は? 何の事だよ、骨盤輪って…」


「やはり、骨盤輪を捧げないと受肉化させてもらえないのですかって、きいているですよっ!」


 カローラが顔を赤くしてそう声を上げると、周りにいた骨メイド達が、一斉に羞恥に打ち震えながら、俺から顔を逸らしつつ、スカートをたくし上げて、俺に骨盤を見せる仕草をする。



 ブッ!!



「思い出した!! 骨盤輪ってその事かよ!!!」


 俺はカーバルに出発する前の事を思い出す。


「だから、前にも言ってたけど、骨盤輪を使って致すつもりはサラサラねぇよぉっ!!! そもそも流石の俺のマイSONでも骨盤輪は広すぎるわっ!!」


 俺が反論すると、骨メイドは自分自身で反論せず、またカローラに耳打ちをする。


「じゃあなんですか! 手ですか!? 口ですか!? それとも肋骨を使って奉仕すればいいんですかっ!!」


 もうカローラはやけっぱちになって声を上げる。


「だから、俺は骨と致す趣味はねぇっていってるだろっ!! なんだよその肋骨で奉仕ってのは!!」


「…えっ? そうなの? ナギサ…そんな事をするの?」


 再び骨メイドから耳打ちされるカローラは、知らなかった方が良かった話を聞かされたような顔をしてこちらに向き直る。


「お、男の人は…その胸で…あれを擦ってもらうのが好きだとか…」


 カローラは恥ずかしそうに説明する。


「あほかっ!! それはぷるんぷるんとした乳があっての話だっ! だれがまるで洗濯板のような肋骨で擦ってもらって喜ぶ奴がいるかよ!! 気持ちいどころか痛いだけだろぅがっ!」


 俺はあまりの馬鹿馬鹿しさに大声でカローラの言葉に返す。



「ぷぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


「あー… あんまりにも皆さんが大声を上げるものだから、ルイーズちゃんが起きちゃったじゃありませんか…」


 ディートが困った顔をしてルイーズをあやしながらぽつりと述べる。


「す、済まん…ディート、ルイーズ…」


 とりあえず、ディートの部屋での言い合いは起きてしまったルイーズの泣き声によって、一先ずお開きとなった。


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