第289話 後始末と目的

「イチロー殿、集落の中を見て回りましたが、怪我人はいるものの、幸いな事に死者は出ていないようです。その怪我人の治療もマリスティーヌ嬢がすませてくれました。その他の物的被害も調べてきましたが、この家以外は大した被害はでていないようですね。」


 集落の中をぐるりと回って調べてきたマグナブリルが報告してくる。


「そうか死者が出ていないのは幸いだったな」


「はい、イチロー殿が全力で駆けつけて下さったお陰ですな、倒壊した家に関しては、こんなこともあろうかと、支援物資も運んでおりましたので、倒壊した家屋の資材も利用すれば、簡易住居を作る事も可能です。また、現在は民を落ち着かせる為に、炊き出しを行っておりますので、民心もすぐに落ち着く事でしょう」


 そういって、集落の中央を見てみると、怪我人の治療が終わったマリスティーヌがせっせとかつ丼を作っている… ホント、ブレねぇな…どんだけかつ丼が好きなんだよ…


「うまい! なんだこれは!!」


「ホント! 美味しいわ! こんなの食べたことが無い!」


 しかし、炊き出しを受ける民の評判はすこぶる良いな。


「でしょ!? これでもう貴方たちも『かつ友』です! 世界にかつ友の輪を広げていきましょうっ!!」


 喜ぶ人々の姿に、マリスティーヌがドヤ顔で声高らかに語る。


 アイツ…この世界に何を広めようとしているんだよ… 異世界版、空飛ぶスパゲッティーモンスター教みたいなのを広めるつもりかよ…まぁ…人々と仲良くやっている様ならいいけど…


 そんなマリスティーヌの事はほっといて、俺は倒した魔獣に目を向ける。


「咄嗟の事だったんで、上半身のところで切り落としてしまったが、勿体ない事をしたな… 頭を切り落としていたら、そのまま毛皮が使えたんだが…」


「この様な恐ろしい魔獣ですのに、随分と余裕な発言ですな」


 魔獣の死体を検分している俺にマグナブリルが声を掛けてくる。


「うーん、一般人からすれば、確かに太刀打ちできない恐ろしい魔獣だが、俺の様な冒険者からすると、そんな大した敵じゃないぞ」


「そうなのですか?」


「あぁ、なんせ所詮、獣だからな、基礎能力が人間以上であっても、それは一般人と比べてだし、人型と比べて道具や魔法は使わないし、剛毛といっても金属鎧から比べたら、生身と大して変わらん」


「流石は勇者といった見解ですな。それでどうなされますか? 死体を持ち帰りますか?」


「いや、集落に引き渡して、被害が出た者か復旧の足しにしてもらえばいいだろ」


 身体全体の毛皮が取れれば、敷物にしたかったが…


 そこへ残敵の捜索にでていたDVDとVHSが戻ってくる。


「キング・イチロー様、只今戻りました」


「おう、お疲れさん、それで他の魔獣はいたか?」


「いえ、他の魔獣の姿はありませんでしたが、森の方まで足を延ばして捜索したところ、他の魔獣もいた痕跡がございました」


「やはり、他の魔獣もウロウロしているのか… でも、たまたま集落を襲ったのはこの一頭だけだったという事か…」


 なんか奇妙な話だよな… 他にも魔獣がこの地に侵入してきているのに、集落を襲ったのがこの一頭だけだなんて… 


 前にも感じた事だが、そもそも魔族の侵攻計画が散発的で無計画すぎる。本来なちゃんとっした侵攻計画を立てて、重要拠点を落として回りながら占領していけばいいのに、どうもやり方が、思いがけない所に突発的に魔族が現れるって不自然なやり方なんだよな…


 これは魔族を率いて指示する奴がバカなのか、それとも何か明確な目的があってそんなやり方をしているのかどちらなんだろうか…


 前者ならバカのお陰で今のところは人類が劣勢に立たされていないからいいが、もし後者であれば、そのうち、とんでもない事を起こしそうで怖いな…


「何か問題でもございましたか?」


 魔族の行動について考え込む俺を見て、マグナブリルが声を掛けてくる。


「なんでも…いや、そうだな…マグナブリルにも意見を聞いてみるか」


 ぼんやりとした俺の思い過ごしのような話をするのはどうかと考えたが、そうでない場合の事を考えて、マグナブリルに話す事を決める。


「前から思っていたんだが、魔族の進攻ってなんだか奇妙に感じないか? 本来であれば、ちゃんと組織的に行動して、戦略的に重要拠点を落としていけばいいのに、やっていることが、どうもテロリストやゲリラみたいな、散発的や突発的な行動が多い。やり方が奇妙なんだよ」


「それは私も感じておりました。人類側の私がこんな事を言うのもなんですが、もっとちゃんと攻めるべきだと思っておりましたな。愚かな者が采配をしているのなら、こんなこともあるかと思いますが、魔族軍ほどの規模を持つものがそんな愚かな者だとは思えないので、明確な目的があっての事だと、私は考えております」


 やはり、魔族の進攻方法が奇妙と思っていたのは俺だけではなく、マグナブリルも同様に考えていたようだ。


「それで、魔族の目的がわかるか?」


 俺の言葉にマグナブリルは、すぐに答えず、一度考え込むように、少し視線を下げてから、顔を上げて俺を直視する。


「陽動…もしくは時間稼ぎですな…」


「…確かにそれならしっくりと来るな、散発的・突発的に人類の生存権で問題を起こして、人類にその対処をさせて、時間を稼ぐというか、あるところまで目が向かないようにしているというかそんな感じだな… で、なんの為の陽動・時間稼ぎかが分かるか?」


「いえ、そこまでは分かりませぬ…」


 マグナブリルは、もし分けなさそうに、少し項垂れる。


「ただ…」


 マグナブリルがぽつりの発する。


「ただなんだ?」


「はい、今までの散発的・突発的な事態の状況を俯瞰的に見てみると、ある事が浮かび上がって来るのです…」


 もともと怖くて厳つい顔のマグナブリルが勿体ぶっていう姿に、恐ろしさを感じて俺はごくりと唾を呑む。


「行っている行動の規模からして、人類側の被害が妙に少ないのですよ…勿論、イチロー殿勇者や国の軍の活躍のお陰もありますが、それでも、もっと被害が出る方法をとれたはずなのに、人的被害が思ったよりも少ない… まるで、業と人的被害を押さえるようなやり方ですな…」


「確かにそうだな… カーバルの事件なんて死者一人も出なかったしな…」


 タイミング的に俺や爺さんたちがいたから、死傷者が出るのを防げたとも言えるが、本気で人類側に被害を与えるのなら、俺や爺さん達のいない所や、引き離す方法をとればいいだけなのにそれをしなかったのは変だ。


「この辺りに陽動・時間稼ぎをする目的の真の理由がありそうですな…」

 

 そこから先は、情報が少なすぎて、憶測の上の憶測にしかならないので、二人とも話を続けようとは思わなかった。ただ、何か恐ろしげな物を感じ取っていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


今日は私の誕生日、

出来ればプレゼントとして、ブクマやいいね、評価が欲しいです…




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