第287話 ジーク! アシヤ!
「諸君、あなた方は棄民と呼ばれている人々です。あなた方は、今まで社会から孤立し、生活の糧を得ることができない状況に置かれていました。しかし、私たちはあなた方を領民として受け入れることを提案します」
俺は顔と視線を全体を見渡すように動かしながら述べる。
「領民とは、この国を支えるために貢献する人々です。私たちは、あなた方が持つ技能や能力を活かし、新しい生活を始めることができる場所を提供します。私たちは、あなた方を拒絶することではなく、受け入れ、支援することで、より強く、より団結した国家を築くことができると信じています」
そして、両手を広げて、身体の前ですくいあげるように掲げていき、抱締めるような仕草をする。
「現在、私たちは、魔族の侵攻に対して戦い続けています。その中で、愛する伴侶や子供、大切な家族、親しき友人を失った人が多くいる事でしょう… 掛けがえの無い人や物を失う事は、この胸に大きな風穴を開けられたように、悲しく辛く大変、耐えがたき悲しい事です…」
悲しみに眉を顰めながら、耐えがたい苦しみに胸を掻き毟るような仕草をする。
「しかし、私たちだけでは国を守ることはできません。あなた方の力が必要です。あなた方が領民として国を支えることで、私たちは魔族との戦いに打ち勝つことができます」
先程とは打って変わって、人々の心を突き刺すような決意に満ちた瞳で顔を上げる。
「もし、あなた方がこの提案に賛同してくれるのであれば、私たちはあなた方を領民として迎え入れます。そして、あなた方が自分たちの力を発揮し、新しい生活を始めることができるよう、全力で支援します。
私たちは、あなた方が領民としてこのアシヤ領を支えることができることを信じています。あなた方も、この領地を守るために貢献することができます。あなた方を受け入れることで、私たちはより強く、より団結した領地を築くことができます! 諸君とこの地の安定こそが、使者全ての最大の慰めとなるのです!」
闘志に満ちた瞳で、開いていた両手をぐっと握りしめて、熱く語る。
「さぁ! 立てよ!領民! 悲しみを復興に変えて! ここより、諸君の新しい未来が始まるのだ!!!
青き清浄なる領地のために! ジーク! アシヤ!!」
俺は、皆を先導するように、天高く拳を突き上げて声をあげた。
暫くの沈黙ののち、一人の激しい拍手が響き渡る。
「素晴らしぃ!! 誠に素晴らしい!!」
そう声を上げて、俺に激しい拍手を送ってくるのは、マグナブリルだ。
今、何をやっているのかと言うと、祭り、正確にはアシヤ領生誕祭の時に俺が領民に呼びかける為の演説の練習を執務室でしていたのである。
最初は俺が書き上げた原稿を読んで貰うだけにしようと思ったが、それでは面白くないので、ティーナがくれた『麗し』の服装まで着込んで、マグナブリルの前で本番さながらに演説した訳である。
「いやはや、最初、原稿をイチロー殿ご自身で作られると申された時は心配しておりましたが、ここまでの素晴らしい内容の文章を作られるとは、このマグナブリル、イチロー殿侮っておりました… 誠に申し訳ございませぬ…」
そう言ってマグナブリルが深々と頭を下げてくる。
「えっ、そんなに良かったか? マグナブリルは、国王やカミラル王子の演説の文章を作ったり、その演説している姿も見ているんだろ? にわかの俺なんかより、よっぽどそっちの方が貫禄あるんじゃないのか?」
「いや、国王にしろカミラル王子にしろ、壇上の上でダラダラと棒読みで原稿を読み上げるだけで、聞いている人々の心を動かさないし、原稿作っている私も作りがいが無いしで散々な有様です…」
「お、おぅ…そうだったのか…」
しかし、棒有名ロボットアニメの金字塔に登場するギレソ総帥の演説を真似てみたんだが…それがマグナブリルに大ウケだとは… マグナブリルはそっちの気質があるのか? だとするとちょっとヤベーな…
「私も良かったと思いますよ、イチロー様、その白い衣装ではなく、黒い衣装だったらもっと様になっていましたね」
そう言うのがマグナブリルと一緒に俺の演説を聞いていたカローラだ。カローラも結構中二特性を持っているから、ギレソ総帥とか好きそうだな… まぁ、俺も好きだけど… 確かにこの白っぽい『麗し』の服装より、黒っぽい軍服みたいな衣装の方が合いそうだな、今度、余裕が出来たら仕立ててみるか。
「ん?あれ?」
そんな時、突然カローラが素っ頓狂な声を上げる。
「どうしたカローラ?」
俺の演説に何か気になるところがあるのかと尋ねてみる。
「いや、先日イチロー様から頂いたアクセサリーのネックレスが…」
そう言って首からぶら下げたネックレスを見つめる。
一応断っておくが、俺は幼女のカローラに、普通の女の子の気を引くためのアクセサリーのプレゼントしたりはしてない。俺はとある物が俺が持つにはあまり相応しくないので、俺の秘書を自称するカローラに預けていただけだ。
一応、預けた時にその事情を説明したはずなのだが、ネックレスの様なプレゼントを貰ったと思って、浮かれて話を聞いていなかったのだろう。
「いや、それはお前に上げたプレゼントじゃなくて、お前に管理を任せている魔道具だぞ? ネックレスの形はしているが… それでどうしたんだ?」
このネックレスは先日、ディートが話していたエクス・ガレリキュラータの魔石を使った、緊急時の連絡装置になっている。ディートが早速数を集めてくれて、マグナブリルの文官たちが各集落に片割れを配り、緊急事態にはその魔石を割って連絡するように作ったものである。
それに異変が生じるという事は、まさかの事態が起きた可能性があり、俺は少し緊張しながら固唾を呑む。
「ちょっと、何か違和感を感じたので…あっ! あぁ~あ… 突然、魔石の一つが割れちゃいました…」
事態を把握していない、カローラはお気に入りのアクセサリーの魔石が割れて、残念そうにしょぼくれる。
「割れたって!? どの石だ!!」
そんなカローラと違い、俺は真剣な表情でカローラに詰め寄り、予想外の俺の反応にカローラは驚いて目を丸くする。
「えっ!? えっ!? えっと… ここにあった石です…」
そう言って、アクセサリーを俺に差し出す様に見せて示す。
「ここか… マグナブリル! 地図を!!」
「はい! ここに!!」
マグナブリルも事情を知っているので、素早く地図を取り出して見せる。
「この集落か… この距離なら飛行魔法でぶっ飛ばしても、十分魔力が持ちそうだな!」
俺は地図で緊急事態の知らせがあった場所を確認すると、地図から顔を上げて、部屋の中にいる人物を確認する。
「DVD! VHS! 俺に付いて来い!! 飛翔して目的地に向かうぞ!!」
メイドとして控えていたDVDとVHSに伴を命じる。
「はい! キング・イチロー様!!」
二人は空気を察して、すぐに敬礼で答える。
「マグナブリルは、後発隊を組織して後を追ってきてくれ!」
「分かりました!」
「じゃあ、行くぞ!!」
俺は剣を携えて、執務室の窓から目的地へ向かって飛翔したのであった。
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