第283話 天啓を得たイチロー
次の日、俺が午前中の事務仕事を終わらせて、食器製作の様子を見に行くと、既に食器が流れ作業で作られるシステムが構築されていた。
具体的にどのような形になっているのかと言うと、ミンチ製造機の様な設備の中に粘土を入れてハンドルを回すと、昨日、俺が魔法で作っていたような粘土の円柱が出て来て、それを、茹で卵カッターの様な細い針金がついたもので一気に輪切りにしていき、その後たい焼き器の様な幾つも皿の型が作られた中に納めていき、最後はてこの原理で圧縮成形する流れになっている。
ディート一人でこの様な設備を作り上げるのは無理なので、恐らく、ビアンやロレンスの協力もあって完成したのであろう。ビアンもロレンスも自分の仕事の範疇には妥協を許さない性格だから、三人は気が合うのであろう… しかしながら、半日でここまで施設を作り上げるとは… 恐るべしA型ズ…
このままマリスティーヌとコゼットちゃんの二人が皿を製造していく姿を眺めているのも楽しいが、俺は本来の目的を思い出して、二人に声を掛ける。
「二人とも精が出るな」
俺の声に気が付いた二人は明るい笑顔で俺に向き直る。
「イチローさんじゃないですか、見て下さいよこれっ! どんどんお皿を作っていくことが出来ますよ」
マリスティーヌが汗を拭いながら答える。
「あぁ、見ていたけどすげーな、昨日は皿一枚作るのにかなり時間が掛かっていたからな」
「イチロー様、見て下さいっ! もうこんなに出来たんですよっ!」
コゼットちゃんも明るい笑顔で話しかけてくる。
「あぁ、コゼットちゃんが頑張ってくれたお陰だ」
そう言って、コゼットちゃんの頭をワシワシと撫でる。
「ところでディートを探しに来たんだが、姿が見えないようだけど、ディートはどこにいるんだ?」
コゼットちゃんの頭を撫でながらマリスティーヌに尋ねる。
「あぁ、ディートさんなら、他の食器の型枠を作る為にビアンさんの所にいますよ」
「そうか、じゃあ俺はディートに会いにビアンの所に言ってくるから、二人とも作業を頼んだぞ」
「はーい」
俺は手を二人に見送られながら、農具小屋を後にして、ディートのいるはずのビアンの鍛冶場へと向かう。
そして、鍛冶場に到着すると、ビアンとディートだけではなくロレンスまでいた。A型ズの勢ぞろいだ。
「三人揃って、何やってんだ?」
「あっ、イチロー兄さん」
「これはイチロー殿」
「あら、私に会いに来てくれたのね♪」
三人がそれぞれ返事を返してくる。
「今、他の食器の型枠を作っているんですが、タンブラーが上手く行くか心配だったので、皆さんと相談していた所なんですよ」
「なので、いっその事、木製で作ろうかという話になったのですが、私、一人では大量生産できないので、悩んでいた所なんです」
ディートとロレンスがそう付け加える。
「まぁ、切ったり掘ったり、削ったりを人力でやっていたら大量生産には向かんわな」
「えぇ、そこをゴーレムエンジンの様に魔力で何とかしようと考えたんですが、それだと魔力を使い過ぎて…」
俺の言葉にディートがそう答える。
「そこは、魔力を使わんでも、他にも風力とか水力とかあるだろ」
まぁ、ボイラーとかを作れば火力もいけそうだが、ややこしいので今は話さないでおこう。
「風力や水力… 風車や水車を道具加工の動力にする方法ですか… それはいいアイデアですね、それでイチロー兄さんは何の御用ですか?」
ディートから用事の事を聞かれなければ本来の目的を忘れる所だった。
「ちょっと、ディートに頼みごとがあってな…」
「えっ? 僕にですか? なんの御用でしょう?」
「いやな、午前中の事務仕事の時に、マグナブリル爺さんにある事を謂れてな…」
「マグナブリルさんにですか?」
そして、時は御前の事務仕事の時間に遡る。
「先日言っていた祭りの件だが、宴の準備は何とかなりそうだな、厨房を任せているカズオも料理に関しては大丈夫だと言っていたし、500人分の食器もなんとかなりそうだ」
「もう準備の確認をなされたのですが、イチロー殿は腰が軽くて助かりますな」
その言い方だとカミラル王子は腰が重かったのか? それとも国王の方か?
「ならば、もう一つお願いを申し上げてもよろしいでしょうか?」
マグナブリルが付け加えて言ってくる。
「なんだ?」
「実は給仕をするメイドの事なのですが…」
「骨メイドや蟻メイド達の事か?」
「そうです…」
そう言って、マグナブリルはカローラの側にいる骨メイドと俺の側にいる蟻メイドをチラリと見た後、コホンと咳払いをしてから話を続ける。
「私や私の部下たちは事前に情報を知っていたので、特に驚きも恐れ慄く事もございませんでしたが、畑仕事しかしたことのない、一般農民にとっては、イチロー殿のメイド達は少々刺激が強すぎるので、もう少し民たちが恐れ慄かない姿になる事は出来ぬでしょうか?」
確かにスケルトンや異形の物を見慣れている俺にとっては骨メイドも蟻メイドも、恐怖の対象にはならず、蟻メイドの至ってはエロの対象でしかないが、一般人にとってはビビるだろうな… 特にスケルトンなんて動く死体だから恐怖の対象にしかならんだろうな…
「蟻メイドの方は服さえ来ていれば目が昆虫みたいな複眼なだけだから、顔にレースでも掛けて誤魔化せばなんとかなるけど… カローラ、そっちの方の骨メイドはなんとかなりそうか?」
「いや、無理ですね… ゾンビやグールからスケルトンにする事は出来ますけど、逆に肉をつけるのは無理ですよ… 他の生物の肉を纏えば暫くは受肉できるかも知れませんが、本人も嫌がりますし、余計に怖がられるだけですよ…」
カローラはお手上げのポーズで答える。
「だよなぁ…」
「となりますと、蟻族のメイドだけで給仕をしてもらう事になりますが、それでは少々人手が足りませぬな…」
新しく人間のメイドを雇うって手段もあるが、ぶっちゃけて言うと、今の城はメイドが多すぎる… 元々の骨メイドも、元いた王族が嬲り者にする為に連れてきた女の子を飽きたら殺していって、それを繰り返していたので、カローラが骨メイドとしたときに、既に過剰な人数となっている。その上で、蟻族の成人メイドが10人と今後メイドになるであろう幼体と会わせるとかなりの人数となる。
そこに宴が終わった後も賃金を払い続けてメイドを雇う意味が無いし、臨時で雇うといっても、以前の悪評があるから人が集まらないような気がする。
「ちょっと、この件は保留にしてもらえるか? 何かいい方法がないか、考えてみる」
「分かりました、私の方でも何か良い方法が無いか考えておきますので」
そんな感じに、その時はメイドの話は終わったのであるが、その事をもやもやと引きずりながら食事をしていると、突如、神が俺に天啓を閃かしたのだ。
「そうだ! 骨メイドをダッチワイフ化すればいいじゃないか!」
食事中、突然立ち上がって声を上げる俺に、皆の視線が集まった。
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