第282話 ディートの血液型
午前中の事務仕事が終わって、昼食をちゃちゃっと済ませた俺は、昨日の粘土が気になって、粘土を均したシュリの家庭菜園のある場所へと足を運ぶ。
辿り着いた家庭菜園の場所はぱっと見た感じには人の姿は見えないが、農具小屋の中から声が聞こえるので、恐らくそこで作業をしているようだ。
小屋の中を覗いてみると、マリスティーヌとコゼットちゃん、そして、ディートが食器作りにいそしんでいる様であった。
「どうだ? 作業は順調か?」
俺は作業している皆に声を掛けてみる。
「あっ、イチローさんっ! どうですか!! 私の丼は!!」
マリスティーヌはそう言って、粘土で作った丼を俺に見せてくる。
「おっ! いい形じゃないか!! これなら丼物にぴったりだ!」
今までかつ丼などの丼物を作ってきたが、実は問題があったのだ。それは、本当の丼を使っている訳でなく、深いスープ皿を使って丼物を持っていたのである。だから、ご飯と具のバランスが非常に悪かった。
だが、この丼茶碗があれば、完璧な丼物を作ることが出来る。こうなってくると丼物に使う丸い底の椀形(わんなり)の丼だけではなく、麺類に使う円錐になった平形(ひらなり)の丼も欲しくなってくるな。というか、久々にラーメンを食べたくなってきたな… 今度作ってみようかな…
「マリスティーヌさん、今は自分の器を作るのではなく、宴に使う皿を作らないとダメですよ」
ディートがチマチマと神経質に皿を作りながらマリスティーヌに注意する。
「ちょっとぐらいいいじゃないですかぁ~」
そう言ってマリスティーヌが口を尖らせる。
「ディートの方はどうだ? 順調か?」
几帳面に皿を作っているディートに声を掛ける。
「…難しいですね…」
ディートは眉を顰めながらそう答えるが、ディートの手元に出来ている皿を見る限り、中々良い物が出来ている。
「そうか? 見る限り良い物が出来ている様に見えるが…」
「これ一枚ならそうかも知れませんが、宴に使う食器ですので、皆同じにしないと… 同じ形、同じ大きさにするのが非常に難しいんですよ」
ディートはそう答える。
ディート、その几帳面さ…お前、A型か?A型なのか?
その点、マリスティーヌはO型かB型か?
「二人ともイライラしないで、楽しく作りましょう」
そんな二人にコゼットちゃんが笑顔を作る。コゼットちゃんは良い方のO型だな。となるとマリスティーヌはB型か?
「しかし、時間が掛かりそうだな…魔法でちゃちゃっと形を整形する事は出来ないのか?」
ちまちまと皿を作っているディートに声を掛ける。
「一度試してみましたが、魔力を浪費するだけで、あまり効率は上がりませんでしたね… 大雑把な形を作るのには向いていますが、繊細な形で、しかも大量生産となると手でやるのと大差ないです」
「そうか…一度試していたのか…」
恐らく、ディートのこだわりが、時間が掛かる理由だろうな…
「かといって、こんなに時間を掛けていては、終わりませんね…」
ディートはそう言うと、すくっと立ち上がって収納魔法から科学実験で使うような容器を二つと食堂で使っている皿を取り出す。
「一体、どうするつもりなんだ?」
なんだか実験の準備の様な事を始めるディートに声を掛ける。
「ちょっと、大量生産するための方法を試してみようと思いまして」
そう言って、水をギリギリまで満たした容器の中に、食堂の皿を入れて、溢れだした水の量を計測し始める。
「なるほど、なるほど、これだけの量と…」
もしかしてこれって、皿の体積を計っているのか?
次にディートは皿の直径を計って、計算を始める。
「イチロー兄さん、ちょっと手伝ってもらえますか?」
「お、おぅ、なんだ? 何を手伝えばいい?」
すると、ディートは粘土の山を指差す。
「この粘土をこのお皿の直径の円柱にしてもらえますか?」
そう言って、定規を渡してくる。
「分かった、魔法でやればいいんだな?」
俺はディートに言われるがまま、粘土の山の一部をA型のディートをイラつかせないように、定規で計りながら円柱を作っていく。
俺が円柱を作っている間、ディートの方では、容器になにやら薬品を擦り切れまで流し込んで暫くした後皿を押し付けている。あれってもしかして、皿の型取りしているのか?
「よし、出来たぞ」
「次はこの長さで円柱を切り分けて貰えますか?」
そう言って、長さの書いたメモを渡される。ミリ単位で長さが掛かれている… マジA型だな…
剣かナイフで切り分けようと思ったが、それだと正確な長さに切れそうに無いので、同じく魔法を使って慎重に切り分ける。
「ここか? ここで良さそうだな… 慎重に…慎重に……… おっし、何とか切り分けたぞ」
俺は風魔法で小さなかまいたちを作って慎重に円柱の粘土を切り分けた。
「ディートできたぞ、これでいいか?」
「ありがとうございます、こちらも準備が出来ましたので早速試してみましょうか」
そう言って、ディートは先程作っていた型を地面に置き、俺の切り分けた粘土のその中に置いて、更にもう一つの型を被せる。
「じゃあ、試してみますよ」
そう言って、ディートは型の上に乗って立つ。そして、暫くしてから型から降りて、型の横を覗き込む。
「あぁ、僕では体重が足りませんね… イチロー兄さん、乗ってもらえますか?」
「俺か? 分かった」
ディートに代わって今度は俺が型の上に乗って見る。すると足元に微かに粘土が潰れるむにっとした感触が伝わってくる。
「どうだ? ディート、いけそうか?」
型の横を覗き込むディートに声を掛ける。
「あともうちょっと…もうちょっとだけ重さが欲しいですね… ちょっと、コゼットちゃんを抱きかかえながら乗ってもらえますか?」
「えっ? 私ですか?」
突然、指名された事でコゼットちゃんが目を丸くする。
「済まないが協力してもらえるかな? コゼットちゃん」
俺はコゼットちゃんにサラサラやらしい…じゃなくて優しいお兄さんフェイスで腕を広げて声を掛ける。コゼットちゃんはまだまだ収穫は先だからな…
「コゼットちゃん、嫌だったら私が代わりましょうか?」
少し困惑しているコゼットちゃんにマリスティーヌが声を掛ける。
「べ、別にい、嫌じゃ…ないですよ…ちょっと恥ずかしいだけです…」
おぉ!? なかなかいい反応~ 将来が楽しみだな~
俺はそんなはにかむコゼットちゃんをお姫様抱っこをして型の上に昇る。
「オッケーです! イチロー兄さん! 隙間が埋まりました!! もう降りても大丈夫ですよ」
「…もうちょっとこのままでもいいだぞ?」
「なんのことですか?」
もうちょっと、はにかむコゼットちゃんを抱えていたい俺はディートに声を掛けるが、真顔で返されてしまう。しょうがないか…
俺は素直に型から降りて、優しくコゼットちゃんを地面に降ろすと、ディートは早速型の蓋を開けて中の粘土を確認する。
「どうだ? ディート」
「見て下さい! まったく同じものが出来ましたよ!」
ディートは食堂の皿と、今出来た粘土の皿を並べて見せる。するとそこには全く同じ型の皿があった。
「おぉ! スゲー! 全く同じじゃないか! これですぐにでも量産が開始できるな!!」
「いえ、まだです」
以外にもディートは真顔で答える。
「えっ? どうしてだ?」
「まだ、水分含有量を考慮した上で色々と試さなければなりませんし、型の耐久性もそこまでありません、またもっと楽な方法で圧縮成形する方法を考えなくてはなりません」
…やっぱり、ディートは完全なA型だと思った…
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