第281話 祭の進捗
朝の領主としての事務仕事の時間、マグナブリルが俺に一枚の地図を手渡してくる。
「イチロー殿、これが領民の大体の分布図です」
「へぇ~ いつの間にかこんなの作っていたんだな」
俺は手渡された地図をマジマジと見ながらマグナブリルにそう答える。
「えぇ、その為に文官を増やしましたし、またDVD殿たちが空を飛べるので、仕事が捗りましたよ」
魔法だけで飛行する人間とは違って、蟻族たちは翅があるから一日中飛んでも大丈夫だからな、こんな仕事には向いているだろう。
「それで大体の人口はどれぐらいなんだ?」
「流民ばかりですから多くないですな、凡そ1000~2000人の間ではないかと」
これは1000~2000か… 多くはないといっているが、イメージが掴めんな… 現代日本の1億人の人口で、結構ぎゅうぎゅう詰めって感じだけど、江戸時代や戦国時代には1000万の人口しかなかったという話だから、こんなものなのか?
「では祭りの宴は2000人分用意しないとな」
「いえ、首都のイアピースの生誕祭などの祭りでも、それぞれの仕事があって人口の半分も来ません、イチロー殿の場合は領民からすれば敬意を払う存在にはまだなっていないので、更に来ないでしょうな、なので500も用意すれば十分かと」
最初2000人と聞いた時は頭が痛くなりそうだったが、500人なら安心できる。まぁ、それでも結構な人数であるが…
「でも、それだけしか来ないなら、祭りで人を集めて布告の意味をなさないんじゃないか?」
「人は噂をする生き物ですから、噂が広まる程度に人が集まれば十分ですよ、後、念のため、この辺りで行商をする者にも声を掛けましたので、彼らが布告の広めてくれるでしょう」
そんな所まで手を回しておいてくれたのか、流石は文官だな。
「ただ話は異なりますが、声を掛けた行商人があまりよくない噂をしておりましてな」
「なんだ?」
「この領内で殺人が良く起きているそうで、行商に回った家族が一家全員殺されている事もあるそうです」
その話を聞いて俺はコゼットちゃんの事を思い出す。
「ユズビスの街の方でも、野盗が流れ込んできてそんな事があったからな…」
やはり、早急に治安維持の事を考えないとダメだな。
「この城の近辺はカローラ嬢の悪名がまだ轟いている事と、イチロー殿お陰で、治安は良い方ですが、地方では治安が悪いようですな。ただ、イチロー様の聞いた話と私の聞いた話では、少し違いがあるようですな」
「違いとは?」
「それは、野盗の手によるものではなく、魔族の手によるものかもしれないと…」
俺はその言葉に耳を疑う。
「この辺りの魔族は一掃されたんじゃなかったのか?」
「いや、どうも野盗のように流れの魔族が来ているのではないかと言われております」
「となると、普通の衛兵では手に負えないよな…」
シュリやカローラ、ポチ…ついでにカズオは今は大人しくしているが、アイツらクラスが敵だった場合、一般の兵ではまったく歯が立たない。俺の様な冒険者や勇者でないと対処できない存在だ。だからこそ、どこの馬の骨か分からない連中でも、冒険者や勇者となれば、兵を抱える国家でも厚く遇される理由はここにある。
一般兵では対処できない魔族を冒険者や勇者が倒し、魔族の雑兵を一般兵が処理していくという棲み分けができているのだ。
「今はまだ散発的なものですので、こちらが体勢を整えて兵を巡回させて、情報を集めてからでないと対処は難しそうですね」
「仕方ない事だが、なんだか歯がゆいな」
今まで冒険者として、好き勝手に魔族側を攻撃していた俺が、一つの地に落ちついて、守るものが出来て防衛側に回ると、魔族の煩わしさが良く分かる。
そんな苛立ちを覚える俺の姿を見て、マグナブリルがふっと笑う。
「どうやら、イチロー殿も領主の心構えが分かってきたようですな」
「あぁ、今までの俺にとっては魔族なんて出会った時に、強いか弱いか、倒せるか倒せないかの判断だけだったからな、守るべきものが出来て始めて煩わしさを感じたよ」
俺は素直に思ったことを口にする。
「イチロー殿、そのお気持ちを忘れずに… 今は魔族ですが、敵は魔族だけとは限りませんので…」
マグナブリルは先程の少し穏やかな表情とは打って変わって、真剣な表情で言ってくる。確かに魔族のように殺して話が終わる敵なら楽なのであろう… もし、殺す事の出来ない敵だったら… 俺はマグナブリルの言葉に答えるのをさけた。
「さぁ! お茶の時間ですよ!」
そこにさっきまでソファーで本を読んでいたカローラが声をあげる。
「さっさと、お茶とお菓子を食べて昨日の雪辱…いやゲームを楽しみましょう! 今日はクリーチャーメーカー2 ドラゴンバスターで遊びます!」
おい、お茶の時間って自分で言っておいて、さっさとお茶とお菓子を食べてゲームをするって言い始めたぞ…
「そうですな、空気が重くなりましたので、気分転換が必要ですな… それではお茶とお菓子…そしてゲームにしましょうか」
おい、マグナブリルもカローラの話に乗るのかよ…
………
……
…
その後、カローラは雪辱を晴らすことが出来ず、再びマグナブリルに大敗する事となった… あの爺さん、マジで強いな…
そんな感じで今日の事務仕事は午前中で終わったのであった。
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