第278話 仕事終わりの夜食

「はいっ! 旦那ぁ! カッテージチーズたっぷりのワイルドハンバーグでごぜいやす!」


 カズオが俺の前に差し出したハンバーグプレートには、カッテージチーズを底が見えなくなるほどたっぷりと盛ってチーズハンバーグだ。しかも焼きたてほやほやで、ジュージューと直接脳に食欲を刺激するような音を立てている。


「うっはぁ~! マジ美味そう!!!」


「こちらがパンと旦那にはライスでしたね、どうぞ」


 そういって、籠に入った沢山の、芳ばしい小麦が沸き立つ焼きたてパンと、ほっかほかのご飯を用意してくれる。


「おぉぉぉぉ! ちゃんと俺の好みを分かっているじゃねぇか!! カズオ!!」


「へい、旦那はここで一二を争う米好きですからね」


「ん? 一二を争うって、俺以外にも米好きがいるのか?」


 そう言いながら、俺はナイフでハンバーグを切り開く。すると、切り分けたハンバーグの断面から、美味そうな肉汁がトロトロと溢れだしてくる!! 


 すげー! やっぱ、カズオスゲーよ!! 肉汁たっぷりハンバーグ!!

 これだよ! これ! 俺の追い求めていた理想のハンバーグ!!

 その理想の(肉の)ワンピースはここにあったんだ!!


 俺は恐る恐る切り分けたハンバーグのワンピースをフォークで突き刺し、周りに広がる白いカッテージチーズの海に、たっぷりとワンピースを浸して口の中に放り込む!!


 じゅわじゅわわぁぁ~~~ とろとろとろ~~~~!!!


 ハンバーグの肉汁とカッテージチーズが、口内で共にメロディーを奏で、それがハーモニーとなって口の中に広がっていく!!!


「うまいぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」


 もし仮に俺が、ミス味子に出てくる味帝だったら、今頃、口からビームを発射して、城の壁に大穴を開けていた事であろう。それぐらいに美味かった!


「これっ! ただのカッテージチーズじゃないな!? もしかしてバターたっぷりのベシャメルソースとブレンドしているのかっ!?」


「へい、旦那ぁ、よくお分かりで、しかもその中には濃厚なコンソメスープをドーピングしておりやすので、ハンバーグに負けないソースとなっておりやす!」


「という事は、ドーピングコンソメ・カッテージチーズ・ベシャメルソース!!って訳か!! 略してDCCCBSだな!!」


「イチロー様、何言っているのか分かんないです、でも美味しい~」


 目の前に座るカローラも、このハンバーグの味に瞳に星を浮かべるように感動しながら食べている。俺もカローラに負けていられない! 


 ハンバーグというものは、口の中に肉汁の味が広がっている間にご飯をカッコまなくてはならない!


「ハフ!ハフハフ! ハフゥゥゥ!!」


 ほっかほかのご飯も口の中に広がり、先程のハンバーグ、そしてDCCCBSと混然一体となり、口内に極楽を築き上げていく!!!


「うはぁぁぁぁぁ!!! 美味い! 美味すぎる!!!」


………


……



「ふぅ… 食った食った…」


 俺は食後の満腹感を堪能しながら食欲の賢者タイムに耽っていた。


「ふぅ~ 私も久々に一杯食べましたよ」


 目の前のカローラも、元々幼女のイカ腹をさらに大きく妊婦の様に膨らませて、満足そうにお腹をさすっている。カローラもなんだかんだいって、ハンバーグを食べ終わった後に残ったDCCCBSにパンを浸してモキュモキュと食っていたからな…


 ってか、やっぱりおかしいよな… こんなに食っているんだから、さっさと元のエロむっちむち状態に戻ればいいのに… でも、まぁいいか… 今は難しい事は考えず、この満足感を心行くまで堪能しよう…


「ご満足いただけたようでやすね」


 そう言って、俺達に自信作を堪能してもらったカズオも満足そうに食べ終わった皿を片づけていく。


「お前の料理は最高だったぞ! カズオ、ありがとな、そう言えば食べる前に言っていた俺とタメを貼る米好きって誰なんだ?」


「あぁ、そりゃぁマリスティーヌの嬢ちゃんでやすよ、米の消費量に関しては、旦那とタメをはりやすね…ありゃ…」


「なるほど、マリスティーヌか… でも、アイツの場合は米好きっていうよりも、かつ丼好きじゃないのか?」


 あいつは目を離すと、いつの間にかかつ丼を作っているからな…


「へい、でも最近は卵とごはんも気に入ったようで、朝は卵掛けご飯、昼食夕食の時に揚げ物を見かけたら、自分で勝手に卵とじにして丼物にしてやすね」


「なんか、本当に筋金入りになったな…」


 マリスティーヌの何があそこまであいつをそうさせているんだよ…


「最近では丼物に関しては、あっしよりも腕がいいかもしれやせん…」


「えっ! カズオが負けそうなのか!? あいつ、そうまで進化しているのか!?」


 一体、何を目指しているんだよ…


「へぃ… だから、今度、マリスティーヌ嬢ちゃんの丼物を食事に出そうかと考えておりやす。その時を楽しみしてくだせい」


 カズオに厨房を任されるほどとは、恐れ入ったわ。


 カズオはそう言うと食べ終わった食器をカートに載せて、厨房に戻ろうとする。そのカズオの背中を見て俺はある事を思い出して、カズオを呼び止める。


「おい、カズオ、ちょっといいか?」


「へい、なんでしょう、旦那ぁ?」


 カズオはカートを押すのを止めて振り返る。


「今度、この城で近くの領民を呼んで祭りをする事になったんだが、その領民を持て成す料理を作ってもらう事はできるか?」


 立場上一方的な命令をする事はできるが、それはバカのする事だ。事前連絡もせず突然に命令しても、一般ハイオークであるカズオは物理法則まで変えて命令を実行することは出来ない。事前に色々準備や下ごしらえが必要なはずである。


 その事前準備や下ごしらえに必要な時間と人員、そして材料を聞いておかないといけない。


「一体、どれ程の人数分を用意すればいいんでやすか?」


「今はまだ正確な数を把握していないが、100人単位でくると思うぞ、まぁ、全員が全員来るって訳はないから多くて1000人ぐらいなんじゃないか? まぁ、とりあえず祭りの宴が必要って事を先に伝えておこうと思ってな、大体の人数が把握できたら報告するよ、で、出来そうか? 出来るのなら何日前に数を決めて欲しいとか、人員はどれだけ必要なのか言ってくれ」


 すると、カズオが難しそうな顔をして頭を捻る。


「もしかして、出来ないのか?」


「いえ、そうじゃありやせん、調理に関しては骨メイドの皆さんもいるので、人手も多分大丈夫でやすね、材料に関しても日持ちのしない物だけ気を付けていればいいでやすし…」


 人材も材料も大丈夫。でも、カズオはまだ奥歯に物が挟まったような言い方をする。


「食器が足りやせん…」


「えっ? 食器?」


 俺は意外な言葉で驚いた。



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