第272話 カード戦争の傷跡
※近況ノートにシュリのカードイラストをうpしました。
「爺さん、これで大丈夫か?」
「えぇ! 部屋の大きさも設備や道具の設置も完璧でじゃ!」
爺さんの牧場から持ち帰った、乳製品を加工するための設備や道具を設置した部屋を前にして、爺さんは嬉しそうな顔をする。
「じゃあ、早速で悪いが、作業に取り掛かってもらえるか? ここままでは消費しきれない牛乳が腐っちまう」
「わかりましたっ! 拾って頂いた恩は、私の乳製品作りで返します!!」
爺さんは両手で俺の手をガッチリと握って、少し曲がり気味の腰を更に90度の曲げで俺の感謝の気持ちを告げてくる。
「じゃあ、DVD、爺さんについて仕事手伝ってやってくれ」
「分かりました、キング・イチロー様」
とりあえず、蟻メイドをつけておけば爺さんの仕事をすぐに覚えてくれるだろう。安定して大量生産できるようになれば、良い資金源になるかもしれん。
さて、予定よりも早くに乳製品加工室の設置も終わったし、家畜の世話も暫くの間はケロースに任せておけば良いだろう。
ん~ 中途半端に時間が余ってしまったな…時間はお昼の三時を回ったぐらいだろうか…
ちょこっと、コゼットちゃんの様子でも見に行くかな?
そう考えた俺は一先ず食堂に行ってみる。だが、コゼットちゃんの姿はない。隣の談話室にマリスティーヌと一緒にいるかも知れないと思って談話室にも行ってみる。だが、コゼットちゃんもマリスティーヌの姿もなく、ムスッとした顔をするカローラの姿があった。
「カローラ、コゼットちゃんを知らないか?」
「ここには来ていませんね… 私がお昼を食べに行った時に、マリスティーヌが手を引いて何処かに連れて行きましたよ」
カローラは俺と入れ違いで食堂に来たのか。
「マリスティーヌが? 一体、どこで何やってんだろ?」
「なんでも、『かつ友』による『かつ動』を始めるって言ってましたよ」
「なんじゃ?そりゃ… まぁ、『かつ』という言葉がついているからかつ丼の事か、豚肉か豚自体の事で何かやってんだろうな」
子供たちだけで仲良くやっている様なら、俺が顔を出さなくても大丈夫そうだな…
「それより、イチロー様、ちょっといいですか?」
考え事をしていた俺の袖をカローラが摘まんで引っ張る。
「なんだよ、カローラ? カードの対戦か?」
「いや、まだ新しいカードを加えたデッキを作っていないので対戦するつもりはないです、それよりもこの雑誌を見て貰えますかっ!」
そう言ってプンプンに怒りながら、俺に雑誌を突き出してくる。
「えっと、月刊ニューカードージュ?」
何かあの雑誌とあの雑誌をカードを混ぜて邪教の館で合成事故でも起こした様な名前だな… まぁ、とりあえず、カードゲームやその他のボードゲーム系の雑誌のようだな…
俺はそんな事を思いながら、パラパラとページを捲っていく。
「イチロー様! 後ろの方のページの買い取り表を見て下さいよっ!!」
「買い取り表? そんな物もあるのか…」
カローラに言われた通り、買い取り表をページを捲って探す。
「うぉっ! マジで!? マジでこの金額なのか!? スゲーなぁ~!!」
俺は買い取り表に大きく記されたとあるカードの買い取り金額に度肝を抜かれる。
「なんで…なんで私のカードより…シュリのカードの方が買い取り金額が高いのよ…」
カローラが俺に見せたかったものとは、昨日カローラが見せてくれた、湯上りシュリのカードの買い取り金額の事だった。
その金額なんと金貨200枚!! 日本円にして2000万!? めっちゃ高騰してんじゃねーかっ!!
確か能力的にはそんなに大した事は無かったから… イラストだけでそこまで価値が高騰したのか…
カーバルのあの爺さん、学園長を辞めてもイラストレーターで十分食っていけそうだな… あっ… 買い取り表の下の方に新しいカローラのカードの買い取り金額が書いてある…えっと、金貨2枚…20万円か… 普通に考えたら高額カードだが、シュリのカードの前では霞んで見える。
なるほど、シュリとカードの買い取り金額にかなりの差をつけられたので、カローラの奴はイライラしていたのか… 少し慰めの言葉でもかけてやるか…
「まあカローラのカードも買い取り表に載ってんだから…大健闘じゃん」
「ダブルデジットのどこが大健闘なんですかっ!」
カローラは怒りをあらわに声を上げる。
「私は…自分のカードを引き当てた時…今度こそシュリに勝ったと思った… クリーチャーメーカーでの雪辱を漸く果たせると思ったのに…」
カローラがわなわなと震えながら、ダンとテーブルを叩く。
カローラの奴…カーバルに行く時に、シュリに散々負かされた事を未だに根に持ってんのかよ…
「私の新作カードが金貨2枚… それなのに、シュリのカードが…ダブルデジット…二桁違う金貨200枚ですよっ!?」
そして、カローラは俺にしがみ付いてすすり泣き始める。
「折角勝ったと思ったのに…私も…私も風呂に入って振り返ればよかったんですか…」
知らんがな…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シュリのカードを引き当てたというのに悲しむものがいる一方で、同じ時間、ウリクリのカードショップにて…
「うっ…うっ…」
一人の筋肉質の男が震える手でカードパックを開こうとしている。
「引くな!」
そこへ壮年の騎士団長が姿を現す。
「ラソボー! 引くな!」
筋肉質の男はキョロリと落ち着きのない瞳で騎士団長を見る。
「よく聞け! ラソボー! お前の持っているパックはカーバルの新弾ではない! そのパックを捨てろ!」
騎士団長は神経質になっている筋肉質の男に脅えることなく、その前へと近づく。
「前回の16弾を200パック引こうが、お前の望むカードは出てこない… 終わったんだ…もう終わったんだ」
「何も終わっちゃいない!! 何もだ!!」
騎士団長の言葉に筋肉質の男は目を剥いて声を上げる。
「俺にとっての戦争(レア引き)はまだ終わっちゃいないんだ!! あんたが、今回のシュリちゃんはエロカワだ! 絶対に手に入れるべきだっていうから、俺はそれを信じて引き続けた!! だが、この様だ!!」
筋肉質の男は怒りをあらわにして流暢に語り出す。
「そして、出てきたカードを見てみたらイチローばかり… もっとカードを引くために、買い取って貰おうとしたが、使えないとか女の子じゃないとか悪口の限りを並べて買い取り拒否された!!! あの店員はなんだ! 俺の思いを知ってて喚いてるのか!?」
「前回のイチローが強すぎたんだ、弱体化は仕方なかったんだ!」
「そんな事は俺には関係ねぇ! カード対戦には礼節ってもんがあった! お互いのレアカードを褒め合ったものさ…」
「君は騎士団の人間だ、恥をさらすな」
騎士団は男に同情しつつも坦々と述べる。
「俺も対戦では、プリンクリンのカードも持ってた、ティーナ姫のカードも持ってた! 金貨100枚もするカードを自由に使えた! でも、エロカワシュリのカードを引くために全部うっちまった! もう、駐馬場の代金も払えないんだぁーっ!!」
筋肉質の男は、手に持っていたパックを投げ捨てる。そして、嗚咽を漏らしながら力なくへたり込んでいく。
「うぅ…惨めすぎる… プリンクリンもティーナも…どにに行ったんだ… いいカードだった… 今じゃ何もねぇ!! イチローばかりだ… 団長、刻印されし者を知ってますか? どこ探してもあいつの余った右足しか見つからねぇんだ… 他の所は頭も左手も右手も…左足も股間も… 全部売っちまったんです…ずっと毎日使って来たのに…」
筋肉質の男はすすり泣き、嗚咽を漏らし、その体格とは反対に弱々しく声と身体を振るわせる。
そんな筋肉質の男に騎士団長は何も言わず、肩に優しく手を乗せ肩を抱く。そして、抱き寄せるように男を立たせると、騎士団へと戻っていった。
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