第270話 お前には馬の心はないのかっ!!

「おっ、お帰りなさい! イチロー様」


「おぅ、只今、フィッツ、夜明け前から門番の仕事をしてくれているんだな」


 城門の所まで辿り着くと、夜明け前から門番をしてくれていたフィッツが駆け寄ってくる。


「イチロー様の帰りが遅いので、お待ちしておりました」


「そうだったのか、済まない事をしたな…」


 現代日本の様に携帯電話のような物があれば、遅くなることを連絡できたのだが、フィッツには気の毒な事をしたな… しかし、自称門番長はどこいったんだよ…マグナブリル爺さんに言いつけるぞ…


「それよりも… 家畜がまるで人間の様に整列して並んでいるんですが…これはどうやっているんですか?」


「フフフ…それは私の力によってよ…」


 俺が答える前に、カローラが牛のディアナに乗りながらドヤ顔でやってくる。カローラの奴、以前ディートやマリスティーヌの姉貴分になろうとしたが、ゲームでボロ負けしてマウントがとれなかったので、マウントがとれそうなフィッツにマウントを取りに来たようだな…


「へぇ~!! 凄いですねっ! まるで家畜の女王様みたいですよっ!!」


 フィッツは悪意など無く純粋にカローラを褒めているだけだが、はた目から見ると煽っている様にしか聞こえないw


「うっ…ん…まぁ…そうね… 高貴な私を目の前にすると、家畜ですら平伏すのよ…ホホホ」


 フィッツの言葉にカローラはなんとか自尊心の崩壊を阻止して、貴族のお嬢様スタイルを貫く。


「ところで、イチロー様、この子たちはどうします? 私の魅了はまだしばらく続きますので、城の周りにでも休ませておきますか?」


「うーん、カローラの魅了が続いているのなら逃げ出す心配はないが、城の外だと野犬や狼に襲われる危険性があるな… とりあえず、城門の中へ避難させて、厩舎のあたりで休ませていたらいいだろ、王族の別荘みたいな城とはいえ、一応軍馬を繋いでおくための場所は広めにとってあるからな」


 家畜の待機場所を尋ねてきたカローラにそう答えると、今度は後ろの荷馬車に乗っていたDVDが話しかけてくる。


「キング・イチロー様、こちらの荷物は、どこへ降ろせばよいですか?」


「うーん、それはまだ設置場所を考えていないから、そのままにしておいてくれ、それよりも、馬車を玄関につけたら、馬車の中で寝ているおこちゃまずを部屋に運んで寝かしつけといてくれ、爺さんには中のメイドに聞いて適当な部屋をあてがってくれ」


「おこちゃまず…とは?」


「あぁ、ディートにマリスティーヌ、コゼットちゃん達の事だ」


 蟻達は、まだまだこういう言い回しには慣れていないようだな。


「では、ディアナ、城に凱旋いたしますわよ」


「んもぉ~」


 カローラが声を上げると、カローラの乗った牛が声を上げて、一列にならんで城の中へと進んでいく。


 これ、恐らく横からみたら、サザエさんのエンディングの家に入っていくシーンみたいになっているだろうな…しかも家畜の数が多いのでエンドレス状態で…


 俺はそんな事を考えながら馬車を玄関前につけて、おこちゃまずの事を蟻達にまかせて、俺自身はカローラだけでは心配な厩舎の方へと向かう。


 すると案の定、厩舎の主化しているケロースが苦虫を嚙みつぶしたような顔で、カローラとにらみ合っていた。


「イチロー殿!! これは一体、どういうことなのだ!! 神聖な厩舎に馬以外の動物を連れて来るとは!! 子豚の時は子豚用の小屋を作ったから我慢したものの、厩舎に小汚い馬以外のものを入れる事はまかりならん!!」


「私のディアナが小汚いですって!? なんと無礼な!! ディアナも何か言ってやりなさい!!」


「んもぉ~」


 ある程度、予想していたとは言え…何?このカオスな会話は…


 ちょっと面白い状況ではあるが、徹夜で早く眠りたい俺は、黙って見ている訳にも行かないので、ケロースに交渉するために声をかける。


「そんな事を言うなよケロース、一時的な事だから我慢してくれよぉ~」


「こればかりは、イチロー殿の頼みでも聞く事は出来んっ!!」


 いつもは俺の頼みごとをほいほいと聞いている様な言い方だが、ケロースは頑なに家畜を厩舎に入れる事を拒んでくる。ケロースがそんな態度をとって来るなら俺にも考えがある。


「…ケロース…お前、この前来た使者の馬に手を出しただろ…」


「…し、しらんな…」


 俺の言葉に一瞬ピクリと眉を動かしたケロースは泳ぐ目を俺に気づかれないように顔を逸らす。


「えぇ~ 本当に知らんのかぁ~ それならいいんだけど… なんでもあの馬、妊娠したそうでな… もし牝馬が産まれたら、色々な馬に種付けさせるって言ってたぞ」


「なっ!!」


 俺の言葉を聞いて、知らぬ存ぜぬを通そうとしていたケロースは驚愕して、目を見開いて俺に向きなおる。


「なんと非道で残酷な事をいうのだっ!!! お前には馬の心はないのかっ!!!」


 馬の心って…俺は人間だから人の心はあるけど、馬の心はねぇよ…


「ケロースが一時的に家畜を厩舎で引き取ってくれるっていうなら、産まれた仔馬を引き取ってくるが…どうだ、ケロース?」


 俺はニチャリと邪悪な笑みを浮かべた。


「くっ!! 外道目っ!! しかし、我が娘の為なら致し方あるまい… 分かった…家畜共を引き受けよう…」


 ケロースは憎々し気に俺を睨みながら家畜の受け入れを了承する。


「話がついたようですわね…では行きますわよ、ディアナ」


「んもぉ~」


 ケロースと話が付いたのを確認するとカローラは牛のディアナを厩舎に入れていく。


「しかし…受けいるとは言ったものの…本当に小汚い…いや汚い家畜共だな…」


 ケロースは厩舎に入っていく牛たちを忌々しそうな目で見る。確かに、カローラが跨っている牛のディアナは、俺が最初、水魔法で洗浄したからある程度綺麗にはなっているが、他の牛は牧場にいた時のままなので、かなり汚れている。


「おいしょっと、しかし、こう素直につき従ってくれると、他の子たちにも名前を付けて上げたくなりますわね… イチロー様、何か良い名前はないですか?」


 一緒に乗っていた骨メイドに抱かれて降りてきたカローラが俺に尋ねてくる。


「なんで、俺に聞くんだよ?」


「私はメイド達に名前を付ける時にストックを使い切ったので」


 なるほど、あれだけの人数の骨メイドに名前をつけていれば、ストックもなくなるわな。


「じゃあ、そうだな… ゆんゆん、直葉、ヘスティア、みくる、狂三、千穂、翼、操祈、蜜璃、美々、蛍、ぽぷら 、レム、ノエル、潮、龍驤…」


 俺はとりあえず名前をつける動物が牛なので、思いつく限りの巨乳キャラの名前を挙げていく。まぁ、一人巨乳でないキャラも混じっているが…


「なるほど、参考にさせて頂きます」


「じゃあ、俺は一先ず寝てくるから、後は起きてからにしよう…」


 家畜の件が一応落ち着いた俺は、城の玄関に戻って自室に戻り一先ず眠ろうと考える。すると、ディート、マリスティーヌ、コゼットちゃんのおこちゃまずに混じって、寝息を立てるシュリが蟻族に抱っこされて運ばれていく様子を目撃する。


「なんで、お前までおこちゃまずに混じってんだよ…」


 そんな独り言をすると、俺は自室へと向かった。








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