第267話 男でもキモイ物はキモイ
俺は母屋のザっと見て回るが、めぼしい物は見当たらず、日用品な個人的な持ち物だけであった。見るべきもののない俺はすぐに母屋を出て、爺さんに声を飛ばす。
「爺さん! ここは引き払う事になるから、身の回りの物を整理しろ! 日用品に関してはこちらで準備するから持っていかなくていい!」
爺さんにそう告げて、俺はシュリを見る。
「シュリ、済まんが爺さんたちの荷物を運ぶのを手伝ってやれ、収納魔法を使っていい」
「あいわかった、ほれ、爺さん、小娘よ、行くぞ、手放したくはない大事なものを選ぶのじゃ」
シュリが爺さんと孫娘を連れ立って母屋の中に入っていく。
「俺はサイロにでもいって飼料を運ぶとするか…DVD、VHS! 手伝ってくれ!」
現代日本で言っていたら勘違いされそうなセリフで、荷馬車に待機していた蟻族を呼び寄せる。
「キング・イチロー様、私たちは何をどうお手伝いすればよいですか?」
「収納魔法で家畜の餌を運ぶから、お前たち二人は俺の腕の中に飼料をなげこんでいってくれるか?」
そういって、二人の前で両腕を使って輪を作って見せる。蟻達は俺の腕の輪を見た後に、サイロに詰まれている藁束を見る。
「分かりました、何とかしてみます」
そう言って、蟻達は腕からハニバルでの戦闘の時に使っていた鎌を伸ばして、藁束を俺の腕の輪に収まる大きさに切って、そのまま鎌で突き刺して運んでくる。
「では、キング・イチロー様、飼料の藁束を入れますよ」
「おう、やってくれ」
藁束は俺の腕の輪の中にすっと入っていくが、途中から、藁束の中がもぞもぞと動き始める。
「ん? なんだ?」
ちゅ!ちゅちゅ!
藁束が完全に輪の中に収まる前に、藁束から押し出されるようにネズミが飛び出してくる。
普段ならネズミぐらい何とも思わないのだが、収納魔法を使って動けない状態で、突然、目の前に現れたネズミに流石の俺でも驚く。しかも、ネズミの方も突然の事態だったらしくて、俺の顔目掛けて飛び跳ねてくる。
「ひぃっ!!」
俺は咄嗟に首を捻ってネズミとのキッスを避けるが、その様な事をしらないもう一人の蟻メイドが藁束を突っ込んでくる。
「ちょっ! まっ!」
最初の一個目は確認する為にゆっくりであったが、二回目からは勢いよく放り込んでくる。
ちゅ! ちゅちゅちゅ!!
「うぉっ! どんだけネズミがいるんだよっ!!」
一個目とは異なり、数匹のネズミが藁束から押し出されるように飛び出してくる。
「ひぃぃぃ!!!」
本当なら収納魔法の為の腕の輪を解いて逃げ出したいが、収納している途中で魔法を解いたらどんな事が起きるか分からないので、必死に輪を維持し続ける。
しかし、不思議なもので、例えば、突然姿を現したゴキを適当な物で叩き殺すのは躊躇なく行う事が出来るが、ゴキが自分に向かって飛んできたときは女の子の様にビビってしまう。今回のネズミも同じだ。
二個目が収納されるのを確認すると、俺はすぐさま腕の輪を解いて、身体に纏わりついたネズミたちは慌てて叩き落とす。
「ひぃっ!! キモッ!! うぉ!! 離れろ!!」
俺も突然の事で叩き落とすのが精一杯で、ネズミたちを始末することは出来ず、叩き落とされたネズミたちは、すぐさま藁束の中へと戻っていく。
「どうかされましたか!? キング・イチロー様!!」
慌てて取り乱す俺の所に蟻メイドが駆け寄ってくる。
「いや…藁束の中にネズミがいたらしくてな…飛び出してきたんだよ…」
本来なら女の前でカッコ悪いところなど見せたくない俺であるが、今回ばかりはマジで驚いた。
「イチロー兄さん! 声がしましたけど、どうかされましたかっ!?」
俺の声を聞きつけたのか、ディートもサイロの入口に姿を現す。
「ディートか… いや、収納魔法で藁束を回収しようと思ったんだが、藁束を入れる時に、藁束から押し出されるようにネズミが飛び出してきたんだよ…」
収納魔法を開発したのはディートなので、正直に状況を伝える。
「あぁ…なるほど、藁束の中にネズミが住み着いていて、収納魔法に収まらずにとびだしてきたんですね…」
「ってことは、ネズミは住み家の藁束を動かされたから出て来たんではなくて、収納魔法から弾かれたのか!?」
道理で、飛び出す様に出てきたはずだ…
「えぇ、開発の時にも生物を収納することは出来ないかと、実験していたんですが、どうも動物になると良くない影響があるようなので、収納出来ない設定にしておいたんですよ」
あーよく考えたら、収納魔法に生物を入れる事が出来たなら、誘拐し放題だよな…でも、良くない影響ってなんだろ…ちょっと怖いな…
まぁ、そんな事はおいといて、藁束の収納について考える。ディートがいるなら設定を変えてもらってネズミごと収納することも可能かもしれないが、城にネズミまで持ち帰ることになるな… なら、ネズミが飛び出すのを我慢して収納しつづけるか?
俺はとりあえず生体探査魔法を使ってサイロに詰まれた藁束を見てみる。
「うわぁっ!!」
「どうされたました?」
突然に声を挙げた俺にディートは首を傾げる。
「いや、今生体探査魔法を使ってここにある藁束を見てみたんだが…そこらかしこにネズミらしき生体反応が…20や30ってレベルじゃねぇぞっ! 数えきれないぐらいにいるじゃねぇかっ!!!」
生体探査魔法を使っている俺の目には、普段の視界にサーモグラフィの様な画像が重なった状態に見えており、藁束の中で無数のネズミが蠢ている様子が見える。
正直、そのネズミの数に鳥肌が立ってくる。
「キング・イチロー様、飼料の収納をつづけますか?」
そんな俺に蟻メイドが真顔で尋ねてくる。
「ダメだ! ヤメ! ギブアップッ!!」
正直、これだけの量のネズミが飛び出してくるのを我慢しながら収納していくのは俺には出来ない。
「そうですね…その方が良いですね、ネズミは悪い病気を運びますし…」
ディートもそう告げる。
ヤベッ! さっき触ってしまったから変な病原体が付いているかも…城に戻ったら風呂に入って身体を洗わないと…
「お客さん」
そんな所へ、騒ぎを聞きつけてオーナーまでやってくる。
「持ち帰ろうとした飼料がネズミにやられている様だな」
「あぁ、魔法を使って見てみたが、ちょっとやそっとの数じゃねぇ…悍ましい量だ…」
「じゃあ、今回の件のおまけとして、ある程度の飼料はうちでサービスするよ」
オーナーが気前よく言ってのける。
「おぉ! それはマジで助かるな」
「良いって事よ、お客さんにはうちのマーベル牧場としても個人的にも助けてもらったからな」
まぁ、俺が関わらなければ、完全に不良債権になっていた案件だからな。それと個人的にも爺さんの事を何とかしてやりたいとも思っていたのだろう。
「じゃあ、ここは終わりにして、母屋の様子でも見に行くか」
俺は引き払う為の身辺整理をしている爺さんたちがいる母屋へと足を向けたのであった。
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