第261話 元気になったイチロー

「フフフ、この迸るパワー、漲る性欲! 俺様! 完・全・復・活!!!」


 俺は脱衣所で全裸で仁王立ちをしながらガッツポーズをとる。


「…あるじ様…湯冷めするぞ、さっさとパンツを履けパンツを」


 シュリは髪の毛をワシワシと拭きながら、ジト目で俺を見る。


「おぅ、そうだな…俺のマイSONを晒していては、また再び目覚めるやもしれぬ…でも、パンツを履くその前に…」


 俺は硬く絞った手拭いで、パシンッ!と股間を叩く。


「風呂上がりにはこれをしないと」


「なんじゃ? それは? それも風呂の女神捧げる儀式か?」


「ん、まぁ、そんなものだ」


 しかし、ここ最近、ゴーレムトラクターの運転で魔力を使い過ぎてネガティブになっていたのもあるが、風呂の時間割制になったのもあって、風呂にゆっくり入ることができなくなっていた。そのせいで精神的な回復が出来なかったのであろう。


 だが、今回は満足いくまで風呂に入ることが出来、更に一応女のシュリと一緒に風呂に入った事で、女性分の出汁を吸収することができた。


 そういう事で俺は完全復活した訳である。やはり、一日の終わりには女と一緒に思う存分風呂に入らないとダメだな… 今後も他の男性が入り終わった後に誰か女を誘って思う存分風呂に入る様にしよう。


 俺はほっこりした顔で脱衣所をでる。


「新しい風呂場はどうでした… と聞くまでもなく、とても満足そうな顔をなさっていますな、イチロー殿」


 脱衣所の前で待ち構えていたロレンスが、ほっこりとした俺の顔を見て、笑顔を浮かべる。


「あぁ、久々に満足できる風呂を満喫できたよ、これもロレンスや皆のお陰だな」


「では、我々も完成した風呂を楽しむとするわね」


「僕もルイーズちゃんをミリーズさんに預けてきたらお風呂に入りますね」


「おう! 入れ入れ! いい風呂だぞ!」


 ビアンとディートにそう声を掛けると、俺は風呂上がりと言えばアレが飲みたくなって、食堂へと向かう。


「おい、カズオ、コーヒー牛乳作ってくれコーヒー牛乳! シュリも飲むか?」


「わらわも頂こう」


 食堂のカウンターからカズオに声を飛ばし、隣のシュリもコクコクと頷く。


「あっ、旦那、コーヒー牛乳ってことは、風呂上がりでやすね、それならキンキンに冷えたやつをお持ちしやす」


 厨房の奥にいたカズオはそう答えると、カーバルから買ってきた魔式冷蔵庫の中から、牛乳の入ったガラスのピッチャーを取り出して、俺とシュリの為に二杯のコーヒー牛乳を作り始める。


「旦那、コーヒー牛乳は甘目がよかったんでやすね?」


「おう、そうだ、普段はブラックだがコーヒー牛乳は甘い奴で頼む」


「わらわも甘目で頼むぞ、カズオ」


 カズオは俺達の返事を確認すると、砂糖ではなく冷蔵庫から予め作り置きしていたガムシロップを取り出して、コーヒー牛乳に注いでいく。


「はい、できあがりやしたぜ、旦那、シュリの姉さん」


 カズオはトレイに乗せて俺とシュリの分のコーヒー牛乳を運んでくる。


「おぉぉ!! これだこれ!! やはり風呂上がりにはキンキンに冷えたコーヒー牛乳だよなっ! いいかシュリ! コーヒー牛乳を飲むときはな、腰に手を当てて、口を付けた後、少しづつグラスを傾けて最終的に斜め45度の角度で飲み干しようにするんだぞ!」


「なんじゃそれは、それも風呂の女神の儀式か? まぁ、あるじ様が元気になったから付き合うとするか」


 俺とシュリは食堂のカウンター前で、二人して、腰に手を当ててコーヒー牛乳を煽り始める。



 ごきゅごきゅごきゅ…ぷはぁぁぁ!!!



 コーヒー牛乳を飲み干した俺とシュリは、二人して満足した顔をしながら空になったグラスを掲げる。


「やはり、風呂上がりにはコーヒー牛乳だよなっ!!」


「あるじ様の言われた通りに飲み干したが、身体にしみわたる様じゃのぅ!!」


 俺とシュリの奇行に、食堂にいる皆の視線が集まるが、このコーヒー牛乳の美味さの前にはそんな事は気にならない。


「旦那、随分と満足して頂けたようでやすね」


 カズオは、そんな俺達の奇行を嬉しそうな顔で見る。


「あぁ! 最高のコーヒー牛乳だったぞ! カズオ! 褒めて遣わす!」


「これなら毎日飲みたいのぅ~ まぁ、難しいが…」


 となりでそう漏らしたシュリの言葉が引っかかる。


「ん?難しいってどういう事なんだ?」


「あ~ それは言い難い話ですが、あっしから説明致しやす」


 俺の問いにカズオが説明し始める。


「元々、ここの牛乳はカローラ嬢が飲む分の牛しかいなかったんでやすが、段々人が増えてきたもんで、全員分を賄えなくなってきてるんでやすよ」


「えぇ!? そうだったのか?」


 俺はカズオの話に目を丸くする。普段から牛乳はあまり飲む方ではないが、いつも気兼ねなく飲んでいて、制限が掛かっている事すら知らなかった。


「へぇ、それは旦那がここの主ですから、旦那に遠慮しろなんてことは誰もいいやせんよ」


「ということは、俺がガブガブと気兼ねなく飲んでいる横で、皆は言葉を押し殺して我慢していたという事か…」


「いや、そこまではありませんが、毎日何名かは我慢することがありやしたね」


 うーん、これは由々しく看過できない問題だ。たかがミルクを飲むことが出来ない事ぐらいと人は言うかも知れないが、食べ物、飲み物の恨みは思った以上に恐ろしいし、後に引く。すぐさま、不変不満を上げるものは少ないと思うが、表面に出てきたときは手遅れの場合がある。


 実際、冒険仲間などで、リーダーだけが良い物を食ってパーティーが食い物の恨みで解散したとか崩壊したとか聞いた事はなんどもある。だから、ロアンと冒険していた時も、追放されてから、カズオやシュリ、カローラ、ポチと冒険していた時も、俺は分け隔てなく皆と同じ食事をとってきた。ここでその信念を曲げる訳にはいかないな。


「よし、先送りにしていた畜産、特に牛の飼育を始めるぞ!」


「そいつは嬉しいでやすね、牛乳だけではなく、乳製品全般が、時々誰か買出しに行くときに頼んでやしたが、乳牛が増えればここで生産できるようになりやすし、助かりやす」


「それであるじ様よ、いつからはじめるのじゃ?」


 俺の畜産計画推進発言にカズオもシュリも好意的だ。


「ん~ 畑もひと段落ついたから、明日でも街にいってみるか…」


「えっ!? 早速明日行くのか?」


 俺の発言にシュリは目を丸くする。


「思い立ったら吉日だからな」


「でも牛舎にはそんなに数を入れる事はできんぞ? 餌の準備もあるしのぅ」


「まぁ~ なんとかなるだろ!」


「やれやれ…あるじ様の元気が戻ったのは良いが、行き当たりばったりの所までもどってしまうとはのぅ…」


 こうして、明日、牛を街に買いに行くこととなった。




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