第253話 出産シーズンを迎えるイチロー周辺

「イチロー兄さん!! 戻られましたか!!」


 城に辿り着き、俺が城の中に入るといの一番で、ディートが俺を迎えて声を掛けてくる。


「おぅ! ディートか? それで、ネイシュの… ってか、ディート…その姿はどうしたんだ?」


 声を掛けられたので、ディートに視線を向けると、ディートの姿がいつもと異なる。紐をたすき掛けをしており、ディートの背中で何か小さなものが動いている。


「あぁ、これですか… これはネイシュさんが産気づかれた時に、念のために回復魔法が使えるミリーズさんとマリスティーヌさんと僕が呼び出されたのですが、その時にミリーズさんも産気づかれて…」


「えっ!? ミリーズも産気づいたのか!?」


 ディートの話の途中だが、俺は驚いて声を上げてしまう。


「は、はい! それで、ミリーズさんのお子さんのルイーズちゃんを一時的に預かったら、妙に懐かれて離れてくれないんですよ…」


 そう言って、愛想笑いを浮かべる。ディートのその言葉に身体を傾けて、ディートの背後を見てみると、嬉しそうな顔で背負われている。


「おぅ… マジで懐かれてんな… それで、ネイシュとミリーズの様子は?」


 俺は体勢を元に戻してディートの尋ねる。


「はい、ネイシュさんもミリーズさん、そして、アソシエさんも無事に出産を終えました」


「えっ!? アソシエまで産気づいて出産したのか!?」


 俺は更に驚いて目を丸くする。三人仲良しだからって、一緒に揃って出産する必要ないだろ!? まぁ、自分でコントロール出来るわけないから、ただの偶然のはずだが…


「はい…ネイシュさんとミリーズさんの出産を終えた後、一応念のためにアソシエさんの様子をフィッツさんが見に行ったら、既に一人で産み終えていたそうです」


「一人で産み終えていたって、犬猫じゃねぇんだから…アソシエの奴こえーことするな…」


「えぇ、フィッツさんも驚いておられましたよ、でも母は強しって言うのはこういう事だったんですね」


 しかし、一人で産み終えたの凄い事だが、アソシエは一人で随分と心細い思いをしたんだろうな…ちゃんと労ってやらないと…


「それで、三人は今どこにいるんだ? それぞれの部屋か?」


「いえ、またアソシエさんの様な事があっては大変なので、空いていた客室にベッドを運び込んで一時的な病室として、三名にはそこで休んでいてもらってます」


「すぐに案内してもらえるか?」


「わかりました! こちらです!」


 ディートは早歩きで三人のいる部屋まで案内してくれる。そして、ディートが『この部屋です』と指差してくれた部屋に、俺は勢いよく扉を開けて中に入る。


 俺が部屋に入ると、俺が盛大に立てた音で、一瞬、皆目を丸くして驚いていたが、俺だと分かると、表情を次第に崩していき微笑みを浮かべる。


「イチロー!!」


 一番最初に声を上げたのはネイシュであった。


「おぉ、ネイシュか、済まなかったな、ネイシュの大変な時に側にいてやれなくて」


 そういって、ネイシュの側に歩み寄り、赤子を抱えるネイシュを、肩に腕を回して赤子ごと抱き締めてやる。


「イチロー… ネイシュ、嬉しい…イチローがこんなに優しくしてくれるなんて…」


 普段、ネイシュに冷たい態度をしている訳でもなく、今も別段優しくしている訳ではないのだが、ネイシュがこんなに俺の抱擁を喜ぶのはやはり、出産時に俺が立ち会っていなかった事の心寂しさからくるものであろう。ホント、悪い事をしてしまったな…


「こんなことぐらいで喜んでもらえるならいくらでも抱き締めやんよ」


「エへへ、イチロー、ありがとう…それより見て! イチロー、イチローの赤ちゃんだよっ! 今度も女の子だよ」


 そう言って、ネイシュ似の赤子を俺に見せる。


「おぉ~ ローシュに引き続き、なんだかネイシュに似ているな~」


 俺の遺伝子…弱すぎ? ネイシュに負けてる!? まぁ、女の子ならネイシュに似ている方がいいか。


「コホン!!」


 俺がネイシュに構っていると、一人に構いすぎと言わんばかりに、咳払いの声が響く。咳払いの方角に視線を向けると、少し頬を染めたアソシエが、ジト目で俺を睨みながら自分も構って欲しそうにそわそわしている姿が見える。流石、ツンデレ資格第一級を持つ女だ(俺認定)


「イチロー、私はいいから、アソシエの所に行ってあげて」


 ネイシュが俺を袖をつまんで小声で囁いてくる。


「すまんな、ネイシュ、また後で…」


 俺も小声で答えて、ネイシュの頭を撫でるとアソシエの所に向かう。


「お、遅かったじゃないのっ」


 そわそわしながら上目遣いで俺を見てくる。アソシエは一人の心細い環境下で子供を産んだのだから、その内心は酷く不安だったはずだ。だから、思いっきり甘やかしてやろう(キリッ)


「アソシエ~!!」


 俺は大げさに声を上げ、両腕をガバっと広げてから、ぎゅっとアソシエを抱き締める。


「ちょ、ちょっと! イチロー!」


 アソシエとイチャイチャする時は、爽やかイケメン状態で接するのだが、今日は趣向を変えて、ラヴラヴ前回モードで接してみる。ちなみにラブラブモードとラヴラヴモードは異なるものだ。


「アソシエ~ 一人きりで子供を産んだんだろ? 寂しかっただろ? 心細かっただろ? その分、いっぱい甘やかしてやるかなぁ~ ほれ、ちゅちゅちゅ!」


 今までと違う俺の求愛行動に、アソシエは最初は目を丸くして驚いていたが、我に返って恥ずかしがって声を上げる。


「ちょっと、イチロー! や、やめなさいよっ! そ、その…するなら、ちゃんとしてよ…」


 そういって、瞳を閉じて、俺に可愛い唇を突き出してくる。こういう所かデレで可愛いな…


 俺がその唇にちゅっとキスをしてやると、その俺達の姿を見て、ミリーズがクスクスと笑い声をあげる。


「アソシエったら、結構甘えん坊さんなんですね。でも、一人で頑張ったのですから、今日ぐらいは思う存分甘えたいですよね」


「うぅぅ~…」


 漸く皆に、自分がデレている所を見られている事に気が付いたアソシエが、顔を真っ赤にして顔を覆う。


「そんなに恥ずかしがるなよぉ~ 二人きりの時はもっと恥ずかしい事をしているんだから、それよりも今度の子供は男の子なのか女の子なのかどっちなんだ?」


「…女の子よ…馬鹿ッ…」


 アソシエは顔を真っ赤にしながらそう答えた。


 そして、今度は最後に残ったミリーズに向き直る。


「ミリーズ、ネイシュが産気づいた時に駆けつけてくれたようだな、自身も大変な時にありがとう」


「いきなりどうしたのよ、イチロー… ネイシュの時もアソシエの時もそうだったけど、なんだかイチローらしくないわよ?」


 普段のほほんとしているわりに、こういう時になんか鋭いんだよな~ミリーズは…


 俺は城でティーナの出産する所に立ち会って、漸く出産の大変さを分かったから、ミリーズ達を労おうと思ったのだが、結局、出産する場には間に合わなかった。なのに、ティーナの出産に立ち会って、その大変さが分かったって事を言っても良い物だろうかと考える。


「いや、前回も立ち会えず、今回も立ち会えなかったので、皆には悪い事をしたなと思って、罪滅ぼしのつもりで優しく接しているんだよ」


 俺はティーナの事は言わずに、出産に立ち会えなかった事に罪悪感を感じている事を告げる。


 俺がミリーズにそう告げると、ミリーズから俺に腕を伸ばして胸元に引き寄せて、俺を抱き締める。


「フフフ、イチローらしくない事を言うから、どうしちゃったのかなっておもったら、そんな事を考えていたんですね… イチローも可愛い所あるんですね」


 あ…ありのまま、今、起こった事を話すぜ!

 俺はミリーズを甘やかそうと思ったら、いつのまにか甘やかされていた

 な…何を言っているのかわからねーと思うが

 俺も乳に挟まれて何も分からなかった…


 頭が気持ちよくてどうにかなりそうだった…

 膝枕とか抱き枕だとか、そんあチャチなもんじゃ断じてねぇ


 もっと気持ちいいものの片鱗を味わったぜ…


 

 俺がそんな気持ち良い体験をしている頃、マグナブリル爺さんは待ちぼうけをしていた。






 



 


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