第247話 あんなのが義父になるのか…

 国王サーラブルグとの謁見が終わった後、俺はカミラル王子の部屋の応接の間に通されて、国王と謁見での緊張を開放するように、ソファーに身を委ねていた。


「なんだよ… あの国王は…マジヤバイ… 滅茶苦茶恐ろしい事言うじゃねぇか… カミラル王子はあの国王の息子なんだろ? 何とかしろよ…」


 ティーナ姫に手を出したとは言え、威嚇、恫喝、脅迫など滅茶苦茶脅された事をカミラル王子に愚痴る。


「何を他人事のように言っているのだ… ティーナとの婚姻が済めば、お前にとっての義父になるのだぞ? 恐ろしいと思うのなら、お前自身も考えて何とかしてみろ」


 カミラル王子も緊張していたのか、服を少し緩めながらそう答える。


「あぁ…そうか俺の義父になるのか… しっかし、あんなサイコパスみたいな事をいうのが義父になるのか… 王様ってものはもっと義理人情の厚い人格者だと思っていた…」


「なんだ?それは… そんな王など、童話の中にしか出て来んぞ」


 俺の言葉にカミラル王子は何を言っているんだという顔をする。


「えぇ…マジで?」


「あぁ、大抵の王は、我が父上の様に、肉親の愛情よりも損得勘定を優先させる結果至上主義者だらけだぞ? まぁ、今回、あそこまで義理人情を欠いた言動をしたのは、謁見したのが我々身内だったからだ」


 こわっ! 王族こわ! 


 俺はあまり見てこなかったが、女性向け作品などで宮廷内の陰謀とかあるが、あれは女だけの話ではなく、空想の話でもなく、実際の現実の話だったのか…


「まぁ、実際、お気楽極楽でやっていたら、あっという間に他国や部下に国を乗っ取られるわな… それでなくても魔族との戦争の最中だ、無能な王では困る… でも、娘に対してまであんなことを考えていたのか…」


 背もたれから身体を起こして、頭を抱える。


「父上があのような人間だからこそ、私が妹を可愛がっていた理由がわかるだろう? 腹黒くなく純真無垢に育っていたと言うのに…どこぞの男が…」


 そう言ってカミラル王子はギロリと俺を睨む。


「えぇ~ まだ、恨んでいるのかよ…」


「当然だろ、でもまぁ…今は私も…そして、イチロー、お前もティーナを守る側の人間だ。歯向かわなければ大丈夫などと生温い事を考えていると、見限られて、ティーナを取り上げられると思え」


 カミラル王子の目は最初は俺を睨んでいたが、言葉の最後には、同志を見る目になっていた。確かに、カミラル王子の言う通り、あの国王なら、生娘は無理でも王族の娘を欲しがるものはいくらでもいる…とか言い出しそうだからな…


 しかし、ティーナからの懇願はあったとはいえ、カミラル王子が俺に目を掛けるようになって、協力してくれるのはこういう理由があったからか…


 もし、俺に価値無し、ティーナを生娘に戻すという事になれば…想像するも恐ろしい事に…その時の事を考えて… これは益々カミラル王子に頭が上がらなくなってしまったな…


「分かった…努力する…」


 俺はカミラル王子にそう答える。


「努力するだけではダメだ、結果を残せ。それが上に立つ者、ティーナを護っていく者の使命だ」


 そういって、ふんっと鼻を鳴らす。確かにそうだが、率直に言われると腹が立つな…


「とは言っても、イチロー、お前は今まで、戦うのが専門の人間であって、人や土地を治めるのが専門の人間ではない」


 そう言うと、カミラル王子は、首を捻って後ろの御付きの者に視線を向ける。


「マグナブリル殿を呼んできてくれ」


 そう告げると俺に向き直る。


「以前、文官を渡すと言っていたが、担当者の選定と口説き落とすのに時間が掛かった。だが、あるものが、最後にイチロー、お前自身を品定めしたいと言い出してな」


「仮にも王女の婿を品定めしたいとは、えらく気位の高い人物だな」


 品定めされる側にとっては、あまり良い気分ではないのでそんな事を言ってみる。


「あぁ、先代の宰相を勤めたマグナブリル・アルトマイヤーという男だ。元侯爵の貴族であったが、父上が病を理由に政務を私に任せた時に、爵位と役職を返上して、隠居生活をしていたものだ」


「元宰相の侯爵って…そんな高官を俺に回してくれるのかよ…」


 紹介される人物の凄さに、俺は少し驚いて目を丸くしながら口を開く。


「あぁ、現役時代には、あの父上に対して物申せる所を信用して、お前の事を頼んだのだ。それ以外の者では、お前のいう事より父上のいう事を聞くだろうからな」


「あの国王に物申すって…えらい度胸のある人物だな… 身内の者を人質に取られなかったのか?」


 あの国王なら、幼馴染だろうが、親友であろうが、遠慮なく脅して威圧してくるはずだ。


「その点に関しては、マグナブリル殿は、肉親も妻も早くに亡くして、その後も再婚もせず、子もいなかったので、自分の身一つだったので怖い物がなかったのであろう… そんなマグナブリル殿だからこそ、父上は重く用いたのであるがな…」


「なるほど…宦官の様な存在だったのか…」


 それなら、王から見れば権力を簒奪される恐れも低いし、当人にとってもやれるものならやって見ろって感じだな。


「そんなマグナブリル殿が、父上が政務を退いたのと同時に、爵位や役職を返納して隠居したのは、父上とのやり取りに疲れていたのもあるが、マグナブリル殿が若輩者の私を操って国を牛耳るのではないかと父上に思わせない為であろう… だが、そんなふうに引退させるには勿体ない人材だ。棺桶に入るまで働いてもらわないと困る」


 カミラル王子もやはり、あの国王の息子だな… ティーナに関する事には人情味を出すが、それ以外の事は結構酷い事を言う…


「でも…最後に俺を品定めしてから決めるのだろ? もし、お眼鏡にかなわなかったら…どうするんだ?」


「マグナブリル殿から最低保証の人材を紹介するとは言われているが… 是非とも気に入られるように努力する事だな…でないと、父上の手の者がお前の領地に蔓延ることになる…」


 そんな言葉を真顔で言ってくる。…アカン…これマジで言ってるやつだ…



 コンコン…



 俺がカミラル王子の言葉にビビッていると、部屋の扉がノックされる。


「カミラル王子、マグナブリル殿が到着されました」


「うむ、入ってもらえ」


 部下の言葉にカミラル王子がそう答えると、部屋の扉が開かれて、華奢な老人が姿を現す。


「カミラル王子、このマグナブリル、参上いたしました…」


 その人物はカミラル王子に対して、恭しく頭を下げて挨拶をするが、その目はギラギラととしていた。




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