第242話 一応の和解
「なぁ~ もういいだろ? そろそろ、機嫌なおせよ~カローラ…」
俺は、骨メイド達に神輿の様に担がれて、椅子の上で、どこぞの聖帝様の様にふんぞり返っているカローラを見上げながら、そう告げる。
「あ~~~~ 聞こえませんねぇ!!」
すると、カローラはニヤニヤ笑いながら、耳に手を当てて言い放つ。聖帝スタイルでいくのかと思ったら、獄長でくるのかよ…
「聞こえてるだろ? もう一週間も立つんだぞ?」
「一週間経っても許されないものは許されないんですぅぅぅ!! 私はあのせいで、閉所恐怖症と暗所恐怖症になりかけたんですよ!? ヴァンパイアなのに!! 棺で寝る事のできないヴァンパイアがどれだけ恥ずかしい思いをすると思っているんですか!?」
鬼宇宙人が出てくる棒金持ちぼっちゃんの様になりかけていたのか…
「でも、そもそもカローラは棺で寝てないじゃん… だから、気にする事はないだろ?」
「気にするんですぅぅ~~~!」
カローラが小学生みたいな返し方をしてくる。
「お前もしつこいなぁ~ そんなんじゃ、新弾のクリーチャーメーカーでも負け捲っているから、新しいゲームを買って来たけど…渡せないな…」
そう言いながら、俺は収納魔法の中から、とあるゲームをカローラにチラ見せする。
「あっ!! それは私が前からやりたかった『迷宮エンパイア』!?」
俺がチラ見せしているのは、いつもやっているカードゲームではなく、TRPGといわれているゲームのルールブックだ。ゲーム好きなくせにカローラがあんまりにも負けるので、勝ち負けのあまりないゲームを探していた所に漸く見つけたのだ。
これなら、対戦するのではなく、チームプレイになるので、カローラがダークエルフやディートに気を遣われながらゲームをする事も、シュリやマリスティーヌからフルボッコにされる事も無いだろう…
「ほれほれ、そんな高みの見物をしていたら、パーティーに混ぜてもらえないぞ? ディート、マリスティーヌ、シュリ、ダークエルフたち、キャラクターシートを配るぞ! なんと、今回シナリオを作ってゲームマスターをしてくれるのは、あの有名人気作家のハルヒさんだぞ? こんな機会、もう二度と訪れないぞ?」
「ぐぬぬ… はぁ… 分かりました… ナギサ、ホノカ、ヒカリ、ユイ…降ろして… イチロー様との対立はもう終わりにするわ…」
最初は悔しそうに、次に諦めたように、そして、最後は納得した顔をして、カローラは自信を神輿の様に担いでいた骨メイド四人に声を掛ける。声を掛けられた骨メイド達も、カローラの意思に背いてまで、俺に対抗するつもりは無いらしく、素直にカローラを降ろして、空の神輿を担いで去っていく。なんだか、コントの終わった後を見ている気分だ…
そんな骨メイド達の姿が消えるのを待ってから、改めてカローラに向き直り、少し頭を下げる。
「ほんと、済まなかったな… まさか、あんなになるとは思ってなかったんだよ…」
「別に構いませんよ…私も、骨メイド達の手前で仕方なくやっていたんですから…」
以外にもカローラはやれやれと言った感じで答える。
「そもそも、私はイチロー様に討伐された身ですから、何をされても文句は言えない立場です。それに私を看病してくれたミリーズさんにも『そろそろイチローを許して欲しいのだけれど…』と笑顔の圧力を受けていましたからね…」
一番の天敵である聖女ミリーズに言われたら、従うしかねぇわな…しかし、聖女に看病される吸血鬼って…立場ねぇな…
「まぁ、そう言ってもらえるとこちらも助かるわ、これで漸く風呂場の新築の話を進められるしな」
「風呂場の新築? その件と私との和解がどう関係するんですか?」
俺の言葉にカローラが頭を捻って、首を傾げる。
「新しい風呂場を新築するに当たってな、前の風呂場の湯元を使わせてもらおうと思ったんだが、湯元がどこになるのか、どう繋がっているかが分かんないだよ」
「いや、それは私も分かりませんが…」
カローラも直接知らない事は分かっていたので、そこは問題ではない。
「この城を奪った時に、色々な書類とかあっただろ? その中に城の設計図とかもあるんじゃないのか?」
「あぁ、そういうことですか、この城を乗っ取った時に、後からイアピースの討伐隊が送られてくるかも知れないので、脅迫するために残しておいた書類の中にあるかもしれませんね…」
今は幼女の姿をしているが、元々は成人のヴァンパイアだし、実家からニート生活をしていたのを追い出されただけあって、こういう自分の生活を守る事に掛けてはすげー頭がまわるんだよな…カローラは…
「城の設計図は、暗殺を恐れた領主が、城の設計図を作ったものを殺して口封じする場合があるぐらいの、重要書類だ。必ず重要書類の中にあるはずだ」
「あ~ 私が死んでしまう普通の人間なら、確かにそうしますね…」
やはり、カローラ…恐ろしい子…
「それで、見せてもらえるか?」
すると、顎に手を当てて少し考え込んでから答える。
「イチロー様だけなら、書類を見せてもよろしいです。それ以外の者はダメです」
そう言って、骨メイドの様に身体の前にバツ印を作る。
「本当は担当のロレンスにも見てもらった方が良いが、重要書類だから仕方ねぇな…」
「では、ついてきて貰えますか?」
カローラがそう言うので、カローラの後について、城の中を歩く。この方向なら執務室か…やはり、そう言った重要書類は執務室に隠しておくものだな…
「執務室か…カローラにしては結構安直な所に隠してんだな」
「ふふふ、そこはちゃんと考えてますよ、イチロー様」
カローラは、そう答えると、執務室に入ってから、扉に鍵を掛け、外から見られないようにご丁寧にカーテンまで閉める。
「見ていてください、イチロー様、一番下の引き出しは二重底になっていて、その下に隠しているんですよ…」
クックックッと悪い顔でニヤつきながら、重要書類の中から城の設計図を探し出して、俺に渡してくる。
これ本人は隠しているつもりでも全然隠せてないパターンの奴か… オカンの掃除レベルで簡単に見つけられて、机の上に置かれるレベルの奴だな…
「あ、ありがとうな…カローラ、ちなみ、お前が家にいた時に、隠しておいた本が机の上に置かれていた事ってあるか?」
「えっ!? どうしてイチロー様がその事を知っているんですか!! 私の忘れたい過去なのに!?」
まるで初めて手品を見る子供の様な顔をしてカローラが驚く。
「いや…なんとなく、そんな事があるんじゃないのかなぁ~って思って…… 今度、ディートに収納魔法を教えて貰えよ… カローラの場合はそれがいい…」
そう言いながら、城の設計図に目を通しておく。ロレンスに直接見せる事が出来ないので、俺が湯元の経路を覚えて、説明できるようにしないといけない。
「えっ!? イチロー様はあの収納魔法教えてもらったんですか!? 誰にも知られたくない本を隠したい放題じゃないですか!!」
ブルータ…いや、カローラよお前もか… って、確かこの世界にもBL本があるんだったな…
「ディートにゴマすったら教えてもらえると思うぞ」
俺は設計図に目を向けて風呂場の湯元を辿りながら答える。
「ぐぬぬ…姉より優秀な弟妹は存在してはならないというのに…ディートまで、私を超えようというの…」
歯ぎしりをするカローラを横目に設計図を見ていると、とある事に気が付く。
「ここの風呂って、城の外の山まで伸びてるぞ…もしかして、天然の温泉だったのか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます