第240話 ちょっと、やりすぎた?


「おはようございます、イチロー兄さん」


 ゴーレムトラクターの駐車場に到着すると、先に来ていたディートが挨拶してくる。


「おぅ、おはよう、ディート済まないな、それで注文しておいた物は完成しているか?」


 俺は小脇に荷物を抱えながら、ディートに尋ねる。


「はい、ロレンスさんやビアンさんにもお願いして作ってもらいましたよ」


「で、どこだ?」


「ここですね」


 そう言って、ディートがゴーレムトラクターに新しく取り付けたボックスを指差す。


「一応、注文通りに作って取り付けましたが… 本当にこんな物でいいんですか?」


「大丈夫、大丈夫、中に入っていて貰うだけだから」


 そう言いながら、俺は小脇に抱えていた荷物をぺっと、ディートが新しく取り付けたボックスの中に放り込む。


「えぇぇ~ それはあんまりでは…」


 俺が荷物を投げ込むのを見て、ディートがドン引きする。


「別に死ぬわけでは…いや、吸血鬼だからもう死んでいるのか…まぁ、問題ないだろ」


「確かにカローラさんは吸血鬼ですが、それとこれとは別だと思いますが…」


 俺は、徹夜で一晩中読書をしていて朝に眠りについた、ニート生活を満喫しているカローラを、寝落ちしていた談話室から運んできて、ディートに新たに作らせたゴーレムトラクターの魔力供給ボックスに放り込んだ訳である。


「ディートは今までカローラが働いている姿は見たことがあるか?」


 俺は、ボックスに放り込まれても寝息を立てるカローラの姿を確認すると、ボックスの蓋を締めながら、ディートに尋ねる。


「い、いえ…見てませんね… ずっと本を読んでいるかゲームをしているかですね…」


「だろ? ディートでも研究を頑張って働いているのに、そんなディートに姉貴風を吹かそうとするカローラは働いてもらわないと困る。働かざる者食うべからずだ」


 そう言いながら、ゴーレムトラクターに乗り込み、エンジンをカローラを魔力供給源として起動させる。


「よし、動いた! じゃあ、俺は畑に行ってくるから、ディートはゴーレムエンジンの低燃費化の研究を進めといてくれ!」


「わ、分かりました… カローラさんの為にも出来るだけ早く開発します…」


 俺はゴーレムトラクターを畑に向けて走らせる。


「おっと、そうだ。またネガティブなった時にすぐ分かるように、歌いながら仕事をしていくかっ! 丘~をこえ~いこうよ~♪ 口笛~ふきつ~つ~♪」


 歌っていると、目的地である畑が見えてくる。


「空はす~み~♪ あおぞら~♪ はたけをさして~♪」


 俺は機嫌よく歌を歌いながら、トラクターのハンドルを回して、今日の開墾場所へすすんでいく。


「歌おう~♪ ほがらにぃ~♪ ともに手をとり~♪ ラララ ランランラン♪」


 前面の草刈り機が軽快に雑草や灌木を刈りこんでいく。


「ララ ララ あひるさん~♪ ふぁふぁふぁ♪」


 歌を歌っている事で、気分よくかつ軽快に仕事が出来るので、ガンガン畑を増やしていく。


「なんじゃ、あるじ様、今日はご機嫌に仕事をしておるのう~」


 俺が歌いながらトラクターを走らせているのを見て、ドラゴンの姿で仕事をしているシュリが声を掛けてくる。


「おぉ! 歌いながら仕事すると気分いいぞ! シュリも歌えよっ! ララ ララ 八木さんも~♪ めぇ~♪」


「いや、歌えと言われても、わらわはその歌をしらんぞ?」


 俺はそんなシュリの言葉を無視して歌い続ける。聞いていたらそのうち覚えるからだ。


「ララ♪ 歌声あわせよ♪ 足並みそろえよ♪ きょうは~♪ ゆかいだ~♪」


「…まぁ、聞いていたら、わらわも覚えられるか…」


 そんな感じで、俺とシュリは軽快に原野を開墾して、畑を耕し続ける。途中、歌っている歌がマンネリ化をするの防ぐために、『あるひさん』や『やぎさん』の部分を変えながら歌い続ける。


………


……



「ララ♪ ララ♪ ドドリアさん♪ 追うんですよ! ララ♪ ララ♪ ゴンさんも~♪ もうこれで終わってもいい…♪」


 そうして、昼食を取るのも忘れてトラクターで仕事を続けていると、いつの間にか日が傾いている事に気が付いた。ついでに歌詞の内容も少し、ネガティブになっている。


 俺は一度、トラクターを止めて、シュリに向けて声をあげる。


「おーい! シュリ! もう日が暮れて来たから、そろそろ帰るか!!」


「分かったのじゃ!」


 俺の声を聞いたシュリは、人化してトラクターの俺の横に座り、一緒に城へと戻る。


「あるじ様よ、今日は男湯が先の日のようじゃから、先に入ってくるがよい」


 門の所で、フィッツから今日の風呂時間を聞いたシュリが俺に声を掛けてくる。


「あぁ、今のこの城は女性陣の方が人数多いから、さっさと入って風呂時間を明け渡さないとな」


 俺はトラクターを車庫に収めると、風呂場へと急ぐ。


 現在の風呂場状況は、男性陣のネームプレートが風呂場前に掛けられており、入ったらそのプレートを裏返して、全員が入った事が確認できると、男湯時間の終了前であっても女湯になるように制度を作っている。


 ネームプレートを見るとどうやら、俺が最後のようだ。


「俺が最後か、さっさと入らねぇと怒られるな」


 大好きな風呂をゆっくり入ることが出来ない現状に、さっさと新風呂場に建築を急いでもらわないとダメだなと思いながら、身体を洗い湯に浸かる。


 風呂で身体をさっぱりさせると、今度は夕食を食う為に食堂に向かう。今日は気分ものって、昼食を食べるのも忘れて耕し続けたから、腹がペコペコだ。


「ん? 今日はクリームパスタとコロッケ、後はサラダか… 夕食にしては、ちょっとしょぼいな…」


 ビュッフェにならんだ料理の品数を見て、俺は少し愚痴を零す。すると、料理の追加に来ていたカズオが俺の言葉を耳にして、申し訳なさそうな顔をしながら今日の食事が、少し貧相な理由を告げてくる。


「すいやせん、旦那ぁ、今日は、骨メイドの皆さんがバタバタしていて、手をお借りすることが出来なかったんでやすよ…」


「そうなのか、なら仕方がないな、いくらカズオでも人手が足りないのはどうしようもないからな…しかし、骨メイドは何をバタバタしてんだ?」


「さぁ…あっしにはさっぱりで… 何かを探しているみたいですが…」


「そうか…まぁ、俺には関係のない事だろう…」


 そう答えると、ガッツリとクリームパスタとサラダを盛って、食事に取り掛かる。


「あっ、イチロー兄さん、もうお仕事が終わって食事をなさっているんですね」


 俺がパスタをガッツいていると、食事に来たディートが声を掛けてくる。


「おぅ、ディート、お前も今から夕食か? 俺もさっき風呂あがって、飯を食いに来たところなんだ」


 ディートは椅子を引き、俺の前の席に腰を降ろす。


「という事は、夕方まで作業なさっていたんですね。やはり、二人係で魔力供給すると一日作業することが出来るようですね。イチロー兄さんは問題なさそうですが、カローラさんは大丈夫なんですか?」


「…あっ…」


 そこで、俺は漸くカローラをトラクターの魔力供給ボックスの中に残したままである事を思い出す。


「ちょっと待って下さいっ! 今、あっ!って… カローラさんはどうしたんですか!?」


 ディートの顔色が変わる。


「…トラクターに忘れたままだった…」


「えぇぇ~!? トラクターの中に忘れてきちゃったんですか!?」


 ディートは立ち上がり目を丸くして驚く。


「いや…だって、帰って来た時に降ろそうと思っていたんだが、丁度その時に…風呂をさっさと入る様に言われて…」


俺は小学生みたいな言い訳を始める。


「そ、そんな事より、早くカローラさんの様子を身に行かないと!!」


「お、おぅ、そうだな…」


 俺は食事を始めたばかりだが、立ち上がって、急いでゴーレムトラクターの車庫に急いで走る。


 俺が車庫に到着すると、何故だかほんのりと酸っぱい匂いが漂ってくる。


 おかしい、耕していたんだから土臭い匂いなら分かるが、どうして何とも言えない酸っぱい匂いが漂っているんだ?


 しかも、ちゃんと締めていない蛇口のような、『ピチョン…ピチョン…』と水の滴る音も響いてくる。


 俺は薄暗い車庫の中をホラー映画の様な気持ちで、ゴーレムトラクターに近づいていく。


 すると、臭いも水の滴る音も大きくなってくる。


「もしかして、ゴーレムトラクターから?」


 俺は、身をかがめて、トラクターの下を確認してみる。すると、トラクターの丁度魔力供給ボックスの下辺りに液体が滴っているのが見える。しかも酸っぱい臭い付きだ。


 俺はゴクリと唾を呑み込み、魔力供給ボックスの蓋に手を伸ばす。



 ガチャリ・・・



 音を立てて蓋が開くと、中から、酸っぱい匂いがもわっと溢れ出てくる。


「くさっ!!」


 俺は思わず、鼻を覆う。


「ダ…ダレカ…イ、イルノ…」


 ボックスの中からか細い声が響く。その中を覗いてみると… 車酔いの為に吐しゃ物まみれになったカローラの姿があった。


「あ…これ、骨メイドにバレたらヤバい奴だ…」


 俺は小さく呟く。そうそうに証拠隠滅をしないと… 


 だがどうする? 自分のせいであっても、ゲロ塗れの幼女はちょっと触りたくない…


 先ずは、臭いを消す為に水でも掛けるか?


 そう思って、バケツを探そうと振り返った瞬間、骨メイド達の姿があった。


「い、いや…これはちゃうねん…」


 俺の言い訳が空しく車庫に響いた。


 

 





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