第239話 ハイテンションからの賢者タイム
「すげぇ!すげぇ! マジで走ってるぞ!! なんか興奮するなっ!」
俺は初めてジェットコースターに乗る小学生の様なテンションで声をあげる。
「そうでしょ! 馬無しで元荷馬車を走らせているだけなのに、なんだか興奮しますよねっ!」
ディートも興奮しながら返事をしてくる。
ゴーレムトラクターの速度は普通の荷馬車の速度と大差は無いが、現代の車と違って、唸るようなエンジン音は無いが、ゴーレムエンジンからの微かな回転音と、普通の車輪の回る音、それとサスペンションが無い事から車体全体から鳴り響くガタつきの音が鳴り響く。
「しかし、馬車とは違ってなかなかいい感じだな… このゴーレムエンジンを積んだ乗り物をもっと作ってレースとかもしてみたくなったな」
「いいですねっ! それ、面白そうですっ! 僕もゴーレムエンジンを量産化出来るように頑張りますっ!」
ディートとそんな会話をしながら走っていると、目的地である今日の開墾場所へと辿り着く。ちなみにビアンの口数が少ないのは徹夜で寝不足がたたっている様だ。
「じゃあ、早速、開墾していくかぁっ!」
「ちょっと、待ってっ! イチロー殿…」
となりに座っていたビアンが蒼い顎と青い顔をして口を開く。
「どうした?」
「ちょっと…いえ…かなり気分が悪いの… 私は降りて休んでいてもいいかしら…」
あ~ これはマーライオンになりかけているな、折角のおニューゴーレムトラクターをオネエのゲロで汚したくはない。
「分かった、ビアンは降りて、どこかの木陰で横になって休んでろよ」
「ありがとう… イチロー殿…優しいのね…惚れ直しちゃうわ…」
「いや、そんな事はいいから、さっさと降りて寝てろよ…吐きそうなんだろ?」
俺の言葉に、ビアンは無言で頷くとゴーレムトラクターを降りて、木陰へと歩いていく。
「じゃあ、いっちょ始めるか!」
「いきましょう!!」
俺とディートはボニーとクライドみたいなノリでゴーレムトラクターを走らせる。
ガガガッガガッガ!!!
「おぉ! 刈ってる! 刈ってる!! めっちゃ刈ってるぞっ!!」
ゴーレムトラクターの前面に取り付けられた草刈り機が、雑草や灌木をローター式の草刈り機に巻き込んで軽快に刈りこんでいく。
「それだけではないですよっ! 後ろを見て下さいっ!」
ディートがそう声をあげるので、振り返って見てみると、後ろの耕運機もちゃんと地面を耕している。
「おぅおぅ! すげーすげー! ちゃんと後ろも耕しているぞっ!」
そうなる様に、俺が指示して作ってもらって、その通りに出来ているのだが、俺も変にテンションが上がってきて、興奮して奇声をあげまくる。
そんなハイテンションで、ゴーレムトラクターを使い新しい土地を耕し続けていると、どういう訳か、段々、致した後の賢者タイムみたいな気分になってくる。
「あれ…なんで俺は畑を耕しているだけで、あんなハイテンションになっていたんだろ…馬鹿じゃねぇのか…」
俺は誰かから突っ込みが欲しくて、チラリと隣に座っているディートを見ると、徹夜の上のハイテンションで気力が尽きたのか寝息を立てている。そんなディートの寝息を立てている姿が尚更、自分自身の愚かさを自覚させるような気がする。
「うーん… そろそろ、いい時間だし、昼飯でも食いに城に帰るか…」
そう独り言をいうと、俺はビアンのいる木陰までトラクターを移動して、ビアンに話しかける。
「おい、ビアン、昼飯を食いに城に戻るけど、お前はどうする?」
行きは車酔いで辛そうだったので、一応どうするか尋ねてみる。
「あぁ、イチロー殿… 気分はある程度、良くなってきたけど、私は歩いて帰る事にするわ… 私にはゴーレムトラクターは刺激が強すぎる…」
「いや、トラクターを如何わしい物みたいな言い方は止めろよ…しかし、自分が開発に携わっておきながら、車酔いで乗れないなんて不幸な事だよな…」
「こればかりは、仕方ないわね… ドワーフは足元が覚束ないのは体質に合わないのよ…」
そう言って、ふらつきながら立ち上がるビアンを置いて、俺はトラクターで城へと向かう。
「ディート、城についたぞ…」
城に着いた俺は座席で眠るディートに声を掛けると、ディートは寝ぼけた感じで目を開く。
「あれ? ここ? 城ですか?」
「あぁ、そうだ… 昼飯の時間になったから城に戻ってきた…」
そう答えると、ディートは目を擦り、大きな欠伸をしながらトラクターから降りて、怪訝な顔をして俺を見る。
「あれ? 気分が悪いようですが、どうかしました?」
俺の変化に気が付いて、そう尋ねてくる。
「なんだか理由は分からないが、気分が滅入って来てな…」
「あぁ、魔力が欠乏してきて、魔力欠乏症状が出ているんじゃないですか?」
「魔力欠乏症? なんだそれ?」
俺は聞きなれない言葉にディートに聞き返す。
「魔力が欠乏している時に、感情が落ち込んだり、後ろ向きになったりする症状です。僕もカーバルで実験をしている時に良くなりました」
ディートは欠伸しながら答える。
「今までの戦闘で魔力をカツカツになるまで使った事があるが、そんな事になったことはないぞ?」
「それは、自発的に魔力を消費した事と、戦闘の後で、気が張っていたからですよ。主に魔力を吸引された時に起きる症状なので」
「おまっ、そんなこと、試運転の時にいってなかったじゃん」
「あぁ、魔力を使った研究をする者にとっては常識だったので、話していませんでした、すみません…」
そういって、ディートはぺこりと頭を下げる。
なるほど、それであんなにハイテンションだったのに、賢者タイムみたいに気が滅入って来たのか…
「しかし、この調子だと折角ゴーレムトラクターが出来たのに半日ぐらいしか使う事が出来ないな…」
「そうですね…特に草刈り機、耕運機部分は大量に魔力を消費しますからね… イチロー兄さんでも一人だけでは厳しいかもしれません…」
「これはちょっと、なんとか解決方法を考えんといかんな…」
そんな事を考えながら、俺は城の中を食堂に向かって歩いていく。
「魔力供給する人物をもう一人増やせば、魔力欠乏症にならずに作業できますね」
「なるほど、魔力の多い人物がいればなんとかなるのか」
その事を説明するディートも魔力の多い人物であるが、ディートには魔力を供給してもらうよりも、魔力の消費が少なくなる研究をしてもらった方が良いだろう。
シュリも高いが、シュリにはトラクターで魔力供給してもらうよりも、ドラゴンで仕事をしてもらう方が効率が良い。
アソシエ、ミリーズは一緒に冒険していて魔力量が多い事は知っているが、流石に臨月の妊婦にそんな事はさせられん。プリンクリンも同じだ。
マリスティーヌは魔力が多いか少ないか分からないし、落ち着きがないから毎日座席に座らせるのは無理だろうな…
そんな事を考えながら、食堂の扉を開くとある人物が目に留まった。
おあつらえ向きの人物を発見した瞬間だった。
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