第238話 始動!ゴーレムトラクター!

「おはようございますっ! イチロー兄さんっ!」


 俺がゴーレムトラクターの正式な完成の報を受けて、ゴーレムトラクター制作の作業場に辿り着くと、徹夜したが興奮して、充血しているが爛々とした目をしたディートが、普段見られないテンションで朝の挨拶をしてくる。


「おぅ、おはよう、ディート、寝ていないようだが大丈夫か?」


「はい! 大丈夫です!!」


 俺はディートのテンションがおかしいので尋ねたのだが、同様のテンションで返してくる。試運転が終わったら寝かせた方がいいな…


「おはよう…イチロー殿、なんとかご要望通りの物をしあげたわよん」


 ビアンの方は興奮するディートに付き合わされて徹夜しただけなのか、少し眠たそうな顔をしながら挨拶してくる。


 しかし、徹夜明けの朝一のオネエの顔は見るもんじゃねぇな… 普段は剃っているはずの髭の伸びた口周りの青々しさが目に刺さる…


「あぁ…おはよう…ビアンも徹夜させて済まなかったな…」


 俺はビアンに挨拶を返しながら、本題のゴーレムトラクターに目を向ける。


 

 ゴーレムトラクターの外側はロレンスが作った木製の外装で覆われており、その外装は丁寧な仕事で、表面に耐候性を上げるためのニスが塗られて磨かれ、キラリと光沢を放ち、御者台の上をまるでトラックの様な屋根付き外装までついて、元の荷馬車の面影を感じられないほど改装が施されている。


 その運転席の御者台の後ろ側は、元は荷台となっていたはずだが、ゴーレムエンジンを覆う外装が取り付けれており、見た目が本当にトラックぽくなっている。


 だが、そのゴーレムトラクターにはトラックではない事を告げる様に、前後に農作業用の器具が取り付けられている。前面には小さな躑躅ぐらいの灌木を刈り取ってしまう草刈り機がつけられ、後面には草刈りが終わった地面を耕す為の回転式の鍬が取り付けられている。


 車輪にゴム製タイヤがついていない事を覗けば、現代でもトラクターだと分かるぐらいにトラクターの姿をしていた。


「おぉぉ!! すげぇ~!! マジでなんだかカッコいいなっ!!」


 そのゴーレムトラクターの姿に俺は感嘆して思わず声を上げる。


「でしょう! イチロー兄さんなら分かってくれると思ってましたよっ!」


 ディートも俺の声につられてヤバいテンションの声をあげる。まぁ、手のひらサイズのミニ四駆ですら、みんなあんなに熱中するんだから、実物大のものとなればテンションがおかしくなっても仕方がない。


「それで、どうやって動かせばいいか説明してもらえるか?」


 俺も現物のゴーレムトラクターを目の前にして、昂ぶる気持ちを押さえられず、浮かれ顔でディートに尋ねる。


「今から説明致しますっ! それには運転システムより前に、各種機構の説明からっ!」


 分かる、分かるぞディート… 開発したものにとっては、ただ運転の方法を教えるよりも、それらの運転する為の各種機構がどの様になっているかを説明したい欲望の事を… 


「先ずは動力源となるゴーレムエンジンですが、操作性の問題で移動用と作業用に分ける事にしました」


 そういって、車体の外装の一部を開き、中のゴーレムエンジンを見せる。


「なるほど…ツインエンジンか…いいな…」


「さすがイチロー兄さん、良さが分かってもらえて安心ですっ! で、次が魔力タンクと魔力充魔機ですが…」


「おぉ、魔力タンクと魔力充魔機も完成したのか!? それじゃ、使いたい放題か!?」


 俺がそう尋ねると、ディートの眉が少し下がる。


「そこまで出来たらよかったのですが、材料の問題や使用頻度などを考えると、走るだけなら半日も持てばいい方ですね、このゴーレムトラクターを収める車庫にも充魔機構を取り付けて、魔力タンクに魔力を充魔するようにしていますが、使っていない一晩の間で、このタンクがいっぱいになる様に調整しています」


「魔力を貯めておくって、このタンクの中には魔石でもはいっているのか?」


 俺はコンコンとノックするようにタンクを叩くと、中からちゃぽちゃぽと液体が揺れる音が響く。


「いいえ、いま聞こえたように、安価で作成できる魔力水を積めています」


「あぁ、あの魔力水か、魔力が薄すぎて回復剤にもならなければ、魔石代わりに持ち歩くには嵩張り過ぎて使い道に困る代物だったな、まさかこんな使い方が出来るとは…」


 俺の鎧に仕込んでいる魔石をコイツに使えばもっと稼働できるようになるのか? しかし、あれは非常時に必要だしな… 魔石については今度見つけたらディートに渡しておくか。


「後、前回、問題になっていた曲がる機能と止まる機能、速度を調整する機能もバッチリとりつけてますよ」


 ディートに説明されて、屈みこんで車体の下面を覗き込み、ステアリングやブレーキ機構を確認する。


 ステアリング機構は俺が現代日本で遊んでいたラジコンカーの機構を教えたのをそのまま使っているみたいだが、ハンドルに取り付けられた棒からステアリングにロープが伸びている。恐らくこの棒を回す事でロープを捲きつけたり伸ばしたりすることで、ステアリングが切れるようにしているのか。


 ブレーキの方は車軸に円盤が取り付けられ、その円盤を挟んでブレーキを掛けるディスクブレーキ方式か…中々やるな…


「前の草刈りローターや後ろの耕運機はどうやって動かすんだ?」


 俺は、車体の下面を覗くのをやめてディートに向き直る。


「それは、実際に乗って説明しましょうか」


「そうだな、早速乗って見るか」


 俺はディートの言葉に促され、ゴーレムトラクターに乗り込んでみる。現代の車とは違って、三人掛けの座席になっており、その真ん中にある部分が運転席になるようだ。足元には俺が注文したとおり、アクセルとブレーキになっており、ギアチェンジのような高度な機構は無い様だ。

 そして、前面の運転パネルには、様々な運転パネルには、レバーやハンドル、メーター等が取り付けられており、それぞれの装置には、人目で何の装置か分かるように名称のタグが取り付けられている。


「なるほどなるほど… 分かり易く作っているな」


「えぇ、開発中に何度か危険な事がありましたので、すぐにわかるようにしました」


「あぶねぇ事をやってんなぁ~、で、このハンドルを回していくと… おぉ! 前に取り付けられた草刈り機が上がっていったぞ! 動かすにはどうするんだ?」


 結構、重いハンドルであるが、ちゃんと機能している事に興奮する。


「前後の作業機械は魔力タンクから魔力を使うようには出来ていませんので、先ずは、そこの魔力供給レバーを引いてもらえますか?」


 そう言ってディートがステアリングハンドルの横にあるレバーを指差す。


「ここか?」


 そう言って、俺がレバーを引くと、前回の試運転の時の様に、座っている場所から、身体の魔力が吸い取られるような感覚が始まる。


「前回の吸引用の魔法陣が見当たらないと思っていたら、シートの下に仕込んでいたのか、これはいいアイデアだ」


「はい、買出しに行った時に、随分と揺れましたからね、シートを付けた方がよいと思いまして付けておきました」


 ディートが自慢気に語る。


「で、次はこのレバーを引けば、前の草刈りの回転がはじまるんだな?」


「はい、そうです。でも、一気に引くのではなく、ゆっくりとお願いしますね」


「分かった」


 俺はディートの言葉に従い、ゆっくりとレバーを引いていく。すると、そのレバーの引く深さに合わせて、前面に取り付けられた草刈り機が回転していき、徐々にその回転速度を早めていく。


「おぉ!! すげー!!! 回ってる回ってるぞ!! それなら、焼き払うより確実だな」


 俺はそういいながら、初めに焼き畑を行った時にクリスを巻き込んでしまったが、今回の草刈り機で捲き込んだら洒落にならないと考えた。


「これ…ちゃんと、クリスに畑周辺はうろつかないように言っておかないと恐ろしい事になるな…」


「そ、そうですね… 実験中、何度か野生動物を巻き込むことがありましたが、原型をとどめていませんでしたね…」


 二人の間にちょっと怖い空気が流れる。俺はそんな空気を振り払うために気分を変えて声をあげる。


「じゃあ、試運転を含めて、早速畑を耕しに行くか!」


「はい、そうしましょう!」


 ディートも元気に声をあげる。


「私も徹夜で眠いけど、試運転に付き合うわ」


 徹夜で眠たそうなビアンも声を上げる。


 こうして、ゴーレムトラクターの試運転並びに初仕事を行う事となった。




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