第236話 エルフの起源

 とりあえず、荷馬車の修理と改造で、イケオジエルフのロレンスと一緒に飯を食う事になったのだが、ここの食事は骨メイドに食べたい食事を注文する事もできるが、人数が増えてきたのと、食事時間がバラバラな事もあって、ビッフェ形式に移行している。


 なので、各自、自分の食べたい料理を選んでトレーに載せて食べる。俺は今まで何気なく、好きなものを何も考えず取って食べていたが、自給自足計画を実行している今は、どの料理も材料を集める大変さを感じながらよそっていく。


 そうして、自分の分を持って座席に座ると、話をする為にイケオジエルフのロレンスが俺の正面に腰を降ろす。ちょっと、隣に座り出したらどうしようかと考えていたが、ちゃんと分別はあるようだ。


「いやはや、ここの料理は豪華ですな、昼食と言うのに、肉や卵、乳製品まで用意しているとは」


 そう言って、ロレンスは肉や卵料理、チーズを使った料理を美味そうに食い始める。


 異世界の一般現地人の感覚からすれば、ここでの食生活はかなり豪華な方だと思う。地方の農村や、魔族領の近辺では、朝昼はパンだけで夕食にスープがつけばよい方である。しかし、現代日本での食生活が長い俺としては、そんな食生活は耐えられない。だから、ひぃひぃ言いながらも、畜産まで考えた自給自足を目指しているのである。


 だが、エルフであるロレンスのトレーに乗った料理を見て俺は少し違和感を感じた。


「気に障ったらすまんが、エルフも肉や玉子、乳製品を食べるんだな…」


 ポツリと尋ねる。


「あぁ、やはり、イチロー殿も私の食事に違和感を感じられましたか」


 エルフのロレンスは俺の言葉に、気分を損ねることなく、至って普通に答える。


「というと、ロレンスの食の好みは普通ではないのか?」


「ある意味普通ではないですが、別の意味では普通ですね」


 ロレンスはパンにバターをたっぷりつける。


「どういうことだ?」


「イチロー殿は、エルフというものは肉も卵も乳製品も取らない存在だと思っていたのでしょ?」


「あぁ、そうだ」


 俺は正直に答える。


「そんな食生活をするのはハイエルフだけで、そこらにいる私の様なエルフは人間と変わらない食生活をするんですよ」


 そう言って、バターのたっぷりついたパンをパクリ齧る。


「へぇ~そうだったのか、でもハイエルフはよくそんな食生活で我慢できるな」


 美味い物を食うのが好きな俺にとっては、肉、玉子、乳製品のない修行僧みたいな食生活は我慢できないし、そもそもそんな食事で健康を維持できるのかが不思議である。


「その辺りを説明するならエルフの成り立ちについて説明しないといけませんね」


「どんな成り立ちなんだ?」


 すると、ロレンスはいったん食事の手を止めて語り始める。


「そもそも、エルフの成り立ちは精霊なんですよ… それが人類と遭遇して、人間の様に受肉した存在が、ハイエルフの起源なんですよ」


「という事は、最初は精霊の様に肉体を持たない存在だったのか…って事はハイエルフは半霊半人に近い存在なのか?」


 俺はエルフの起源に少し驚いて尋ねる。


「はい、そうですね…イチロー殿の言う通りハイエルフは半霊半人に近い存在なので、人の様な食事を殆ど必要としないのですよ、そこから人と交わったり、霊格を落としたりした存在が私の様な、人と同じ食生活のエルフとなる訳です」


「なるほど、エルフがそんな成り立ちだったとはね…でも、精霊のような人間よりも上位の存在だったのに、なんで原初のエルフは格下の人間みたいなエルフになったんだ?」


 俺がそう言うと、ロレンスはフッと笑みを浮かべる。


「それは、退屈だったからだと思いますよ」


「退屈?」


 俺は片眉を上げる。


「えぇ、精霊と言う存在は、その地から大きく離れる事ができず、毎日毎日同じような日々を繰り返します… そんな日々の中で、日々を目まぐるしく生きる人間と出会った… そして、好奇心と退屈の脱却の為に、永遠に生きられる精霊から有限の命であっても、退屈から逃れて生きられるエルフになったのだと、私は思います」


「あぁ、なんとなく分かるような気がするわ… 毎日同じ日常なんて俺には耐えられない、俺でもそうすると思うわ」


「ふふ、やはりイチロー殿とは気が合いそうですな…」


 ロレンスはそう言って、白い歯を光らせた。


 その後、食事を済ませた俺達は、シュリの家庭菜園から回収した荷馬車の所へ行き、荷馬車の修理と改造について話し合う。


「試運転の時に俺が搭乗したのだが、曲がれないわ、止まれないわで、大変な事になるところだった。だから、曲がれるようにとすぐに止まれるようにしてもらいたい」


 試運転の時の事を含めて、事情を説明する。


「ふむ、なるほど… 修理に関しては問題ないですが、やはり改良となると、私一人の考えでは改良を施せませんね… それに耐久性も考慮すると、重要部品は金属にしないと…」


「そこは、鍛冶場にビアンとディートがいるから、二人と協力して進めてくれ。後、いきなり完ぺきなものを作らなくていいから、完成を急いで欲しい、今期の開墾に使いたいからな」


 さっさと作ってシュリの負担を減らしてやらんと、俺の巨乳が元に戻らないからな…


「分かりました。確かに木製部品ならすぐに作れますから、それで試用して不具合が出たら変更し、大丈夫なら金属部品に置き換えていくと良いでしょう」


 ロレンスは話が分かって助かる。俺を狙う所さえ目を瞑ればかなり良い拾い物だ。そこで、イケオジエルフのロレンスにもう一仕事頼もうかと考える。


「後、もう一仕事頼みたいのだが…」


「どのような仕事でしょうか?」


 ロレンスは荷馬車から視線を写して答える。


「風呂場の改装も頼みたいのだができるか?」


「風呂場の改装? どのようにすればよいのですか?」


「現状、風呂場が一つしかなくて、時間によって男の入る時間と女の入る時間を分けているんだが、男湯、女湯に分けたい」


 そうすれば、ビアンが男湯に入っている時は、俺は女湯に逃げてあわよくば…むふふ…


「ふむ… 浴槽や道具なら大工である私の守備範囲ですが、流石にその様な改装になると、石工職人も必要になりますね…」


「あぁ、そうか… 現状の風呂を改装するとなると石工が必要になるか…」


 流石に欲張りすぎたかな?


「ただ、今ある風呂場の改装ではなく、別の場所に、新たに木造建築として建てるなら可能ですね」


「なるほど、そうなると、場所の選定や、木材を集める問題も出て来るな」


「それだけではなく、どうやって湯を引いているかも問題ですね、配管工事が必要なら、ビアンカに頼まないとダメですね」


 やはり、思い付きでは上手く事を回せないか…


「わかった、では今は荷馬車の件でビアンやディートと協力しておいてくれ、風呂場の件については後々考えよう」


「わかりました、イチロー殿」


 こうして、異世界初のトラクター開発がディート、ビアン、ロレンスの三人で行われる事となった。

 

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