第234話 当たりかハズレか分からない人材ガチャ

「いや、マジで誰なんだよ?」


 さも当然の様に皆と混じって荷台に腰を降ろすイケオジエルフに声を飛ばす。


「いや~ イチロー殿が大工を探しているって言っていたから、私の知り合いを連れてきたのよぉ~」


「ははは、趣味友のビアンカに誘われてご同行することになりました… 大工のロレンスです…」


 隣に座るビアンから紹介された謎のイケオジエルフは、キラリと白い歯を輝かせ、金髪を手で払って靡かせながら自己紹介する。


「えっ? 趣味友って… 女装してないじゃん…もしかしてオナベ?」


「ははは、見ての通り、女装はしておりませんし、男装をしている訳ではないですよ」


「じゃあ、何の趣味友…」


 そこまで言いかけたところで、俺のケツギュンセンサーが反応する。


 ロレンスが、白い歯を輝かせながら、俺に送ってくる熱い視線… 


 

 ゴクリ…



「フフフ、お察しの通りですよ… なるほど、ビアンカの言う通り魅力的な青年ですな…」


「なんで、まともな大工を探してこなかったんだよ!!」


 俺はビアンに向けで怒鳴り声をあげる。


「あら、いやだわ、イチロー殿、このあたりの地域は、イチロー殿のお陰で安全地帯となったわ、だから復興の為の人材である、鍛冶職人や大工はどこも引っ張りだこよぉ~ 特別な伝手か報酬でも無い限り雇うのは難しいわよぉ~」


「安心して欲しい、イチロー殿、私も趣味に生きる人の前に、大工職人だ。腕に自信があるつもりだよ。私の大工の腕に不満があるのなら解雇してもらって構わない」


 二人がグルになって、俺を担いでいる事も考えられるが… やはり、腕を見てみないとなんとも言えんな…


「あるじ様よ、とりあえず豚を飼うための家畜小屋を作らせて様子を見てみたらどうじゃ?」


「そうだな… 先ずは豚小屋を作ってもらおうか… それで腕を確かめる」


「フフフ、任せてくれ…」


 ロレンスは白い歯を輝かせながら答えた。



 そんな事があって、とりあえず、イケオジエルフのロレンスを雇う事になった。そして、城に戻ってから、とりあえず部屋を割り当て、マリスティーヌの子豚用に先ずは城内の厩舎近くに豚小屋を作る様に指示をしておいた。


 その後、とりあえず、ゴーレム…いやもうゴーレムエンジンと言った方がよいだろ。ゴーレムエンジンの開発状況を確認する為、ビアンの鍛冶場へと向かう。


「いらっしゃ~い、イチロー殿」


 ビアンが出迎えてくれる。


「とりあえず、現状を見せてもらえるか?」


「いいわよ、これよ」


 そういって、棒の飛び出た金床の様な物の前に案内される。金床から伸びる軸には歯車の代わりにプーリーとベルトが取り付けられており、その先で色々な負荷を掛ける事が出来る様になっている。


「思った以上に出来ているな」


 俺は感心して声に出す。


「見た目だけはね、でも負荷を掛けると厳しいわね… ゆっくりと力が出る様にすると軸が負荷に耐えられないし、回転数で補おうとすると、今度は摩擦熱で鉄が焼けてくるのよ」


「じゃあ、台数を増やせば?」


「そのあたりはディート君が計算したのだけれど、あまりにも効率が悪いそうよ、そんな事をするなら馬を使った方が断然に良いって」


「なるほどな…」


 俺はそう答えながら、ゴーレムエンジンに近づき、マジマジと見る。問題部分の軸や軸受け部分を見るが、ビアンは思った以上の精度で作っているのが分かる。


「軸を太くするのはどうなんだ?」


「勿論、可能よ、但し、今の一般的な馬車や荷馬車の車輪の規格に合わなくなって、一から車体も作らないといけなくなるの、それに現状では魔力効率がかなり悪くなるらしいわ」


 なるほど… こうして思考錯誤して機械の事を話していると、なんだか現代日本で遊んでいたミニ四駆を思い出すな… 色々なパーツを買ってきて、いかに速くするか遊んでいたな… ん?


「なあ、ビアン、ベアリングって知ってるか?」


 ある思い付きをした俺はビアンにベアリングについて尋ねてみる。


「いえ、聞いた事がないわね、一体どんな物なの?」


 という事は、この世界ではまだベアリングというものが作られていないのか…


「ちょっと書くものあるか?」


 俺はビアンから渡された紙にベアリングがどんなものなのか、口での解説を踏まえて説明していく。


「こんな物で、回転が滑らかになるの?」


「まぁ、一度試作して試してみてくれよ」


 そして、翌日には試作品のベアリングを取り付けたゴーレムエンジンが出来上がっていた。俺はビアンに呼び出され、ディートと共に試作品を見に行く。


「最初はどれ程の効果があるのか疑っていたけど、見よう見まねで作った試作品ですら、これだけの効果が出るとは思わなかったわ」


 そう言いながら、ゴーレムエンジンに繋がるプーリーを手で回すと、惰性だけでシャーっと回り続ける。


「すごいですねっ! そんなに回転がよくなるなんてっ!」


 ディートが目を丸くする。


「そうね、ゴーレム本体側だけではなく、車輪の車軸側にも付けたらより効果的だと思うわ」


「という事は実用化できそうなのか?」


 明るい顔をする二人に尋ねてみる。


「そうね…荷馬車を動かすだけならすぐに出来そうだわ」


 ビアンが流し目をしながら答え、早速、荷馬車に取り付ける準備を始める。荷馬車は先に取り付ける準備がされていた様で、御者台のすぐ後ろに取り付けスペースが用意されており、ブラケットの上にゴーレムエンジンを取り付け、ボルト締めを行う。


 その後、車軸側のプーリーとゴーレムエンジン側のプーリーを調節しながらベルトを取り付ける。


「これで取り付け完了よ」


 馬を繋いでいない荷馬車にゴーレムエンジンだけが乗っている。


「これ、もう動くのか? 魔力の供給はどうするんだ?」


「それは、御者台の上に魔法陣を描いたプレートがあるので、その上に座れば走り出しますよ」


 ディートが御者台を指差して説明する。


「じゃあ、早速試してみるか…」


 俺はこの異世界初のエンジン式の乗り物一番乗りの称号を得る為、御者台に飛び乗る。


「ディート、このプレートの上に座ればいいんだ?」


「はい、座るだけで魔力が供給されますよっ!」


 その言葉通りにプレートの上に座ると、魔力を吸われる感じがして、後ろのゴーレムエンジンが淡く光り、荷馬車がゆっくりと動き出す。


「動いた!! 動いたぞ!!」


 俺は興奮のあまり、初めて乗り物に乗った小学生の様にはしゃいで声を上げる。


「やりましたっ! 回転式ゴーレムの完成です!!」


「おぉ!! 本当に私の作った物が動いているわっ!」


 荷馬車が馬無しで動くのを見て、ディートもビアンも興奮して声をあげる。


 そして、荷馬車は最初はゆっくりと動き始めていたが、徐々に加速をつけて、這うような速さから、普通の歩行速度ぐらいに速さを増していく。


「おぉ! スピードが出て来たぞ!! なんだか、手綱を握らず荷馬車に乗るのはへんな気分だか、これは面白い!!」


 そんな事を言っていると、荷馬車のスピードは、普通の歩行から早歩きぐらいに速さを増す。


「で、これはどうやって曲がるんだ?」


 スピードを増す荷馬車から、二人に尋ねる。


「「あっ」」


 俺は二人の言葉と表情から何やらヤバさを感じる。


「止まるのはどうすればいいんだ!」


「プレートの上からどけば、魔力供給が断たれます!!」


 ディートが大声で答えてくる。


「いや、供給を別の方法でカットする事が出来なのかって聞いてんだよっ! この座席の位置でブレーキを使うようなっているから、座席から離れたらブレーキが使えねぇんだよ!!」


 俺も大声でディートに返す。


「すみませんっ! 次回は魔力供給をコントロール出来る様にしておきますっ!」


「次回じゃダメなんだ! 今、何とかしてくれ!!」


 くっそ、こうなると、仕方ないが、脱出するしかない!!


 荷馬車の速度は、早歩きから、マラソンぐらいの速度になっているが、俺はさっと飛び降りる。


 しかし、俺が飛び降りて魔力供給が断たれた荷馬車は、惰性が残っており、無人で走り続けていく。その後、荷馬車を追いかけて行ったが、シュリが作っている家庭菜園に突っ込んで止まっている所を発見した。


「どうすんの…これ…」


  

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