第233話 俺の予想を上回る二人
俺達は街の食料品店に辿り着く。食料品店といっても、一般人に小売りをしている様な店ではなく、各農家や畜産家から商品を買い付ける言わば問屋の様な店だ。逆に小売店では、今から俺が買い付けるような量を取り扱ってはいない。
「へい、いらっしゃい、何をご入用で?」
俺が店に入るなり、愛想笑いを浮かべた小太りの店員が揉み手をしながら近づいてくる。
「えっと、小麦を60袋とバターを三壺もらえるか?」
何度も買出しに来るのは面倒なので、一か月分の量を注文する。
「小麦は分かりますが、バターを三壺ですか?」
保存の効く小麦を大量購入するのは一般的であるが、あまり保存の効かないバターとなると、店員が驚いて目を丸くする。
「あぁ、大丈夫だ、三壺でいいよ」
俺は店員の心配を余所にそのままバターを三壺注文する。それというのもカーバルに言った時に生鮮食品を保存するための魔力式冷蔵庫を買ってきたからである。ちなみに、エアコンも欲しかったが、自分の部屋だけに設置するわけにはいかず、また城全体に設置するとなると、目玉が飛び出るような金額になるので、カーバルでの報酬があっても流石に諦めざるを得なかった。
「はい、こちらがバターです小麦は裏手の倉庫の方に御座いますから、そちらに荷馬車をまわしてもらえますか?」
俺は金を支払うとバターを受け取って荷馬車に戻り、人目が無いのを確認してから、バターを収納魔法でしまい込む。
「小麦の積み込みをするから店の裏手に回るぞ」
皆にそう声を掛けたのだが、よく見てみると、一人足りない。
「あれ? オネエのビアンはどこ行ったんだ?」
「あぁ、なんでも知り合いの所に行くって言ってましたよ、積み込みが終わるまでにもどってくるか、間に合わなかったら、家畜販売の所で落ち合うって言っておられました」
「そうか…」
積み込みの人手を期待していたが、新人に対してあまり収納魔法を使う所を見せない方が良いと思ったので、それ以上何も言わずに、荷馬車を裏手に回す。
「じゃあ、俺が小麦を運んでくるから、ディートはまた魔法で収納してくれるか? マリスティーヌはその手伝いをしてくれ」
「はい、わかりました」
前回の買出しでなれたディートは、今回は小麦粉なので元気よく答えるが、収納魔法の事をまだ知らないマリスティーヌは首を傾げる。
「わらわもあるじ様の手伝いをするか」
「済まないなシュリ」
シュリは荷馬車からぴょんと飛び降りて俺の後に続く。そうして、店員から指示された場所の小麦粉の袋を荷馬車に担いで持っていく。
「じゃあ頼むぞ、ディート」
「わかりました」
ディートが両手で作った輪の中に小麦粉の袋を入れると、すっと消えて収納されていく。
「えっ!? えっ!? なんですか!! それ!?」
マリスティーヌが収納魔法に驚いて声を上げる。
「しぃ~っ! 大声を上げるなっ! 収納魔法はあまり人目に晒したくないんだ!」
俺はマリスティーヌに静かにするように言いつける。
「あっ、なるほど、それが収納魔法ですか… 確かに便利そうですね…私も憶えたいです…」
俺に注意されたことで、マリスティーヌが小声にしながら、自分も憶えたそうにディートを見る。そんな、マリスティーヌに困って、ディートはどう答えるべきか俺の方を無言で見て、判断を委ねてくる。
マリスティーヌがどこかの工作員でもないし、その人柄から俺達を裏切るような人間でも無い事は分かっているが… 落ち着きのなさが心配なんだよな…
ディートが判断をゆだねる為に俺を見て、俺が思い悩んでいる事にマリスティーヌが気が付いて、俺に声をかけてくる。
「ねぇ~ イチローさんっ! 私にも教えてもらえるようにいって下さいよぉ~っ!」
「マリスティーヌ、お前、この魔法が使える事が他人に知られたら、大変な事になるって分かっているのか?」
「それぐらい、私でも分かりますよ、あの現場にいたんですから… でも、この魔法を使えたら、私が野生生活で困らなかったんですよ…」
そう言えば、俺が保護する前は食料が尽きたせいで、山芋泥棒をしたんだっけな…
俺がそんな事を考えながらディートを見ると、教えても構わないと答える様にディートがアイコンタクトをしてくる。
「分かった、城に帰ったら教えてやるから、今はディートの手伝いをしろ」
「ありがとうございますっ! イチローさんっ! それにディートさんっ!」
マリスティーヌは無邪気な子供の様な笑顔で答える。
「じゃあ、さっさと積み込みをするぞっ!」
そうして、俺達は人目につかないようにさっさと小麦粉の積み込みを終わらせてしまう。
「ふぅ、疲れたな… とりあえず、ビアンの奴も戻ってきていないし、積み込みも終わったから、店の表の方で、何か飲み物でも買って一息つくか」
皆、笑顔で賛同するので一先ず、店の表の方に戻り、積み込みで疲れた者が一息するために販売されている飲み物コーナーに向かう。メインは一息するための飲み物が販売されているのだが、そんな一息する者に宣伝するために、新商品などの小分けにされたものも売られている。
そんな中、一つの商品が俺の目に留まる。
「ほれ、みんな、飲み物を買って来たぞ」
俺はそう言いながら、皆に飲み物を配って回る。
「ありがとうございます、イチロー兄さん」
「イチローさん、ありがとうございますっ! これ、果汁水ですねっ!」
「あるじ様、済まぬのぅ… ん? なんじゃ…これは…」
一人だけ、別の物を渡されて、シュリが眉をしかめながら声を上げる。
「油だ…シュリ、お前はそれでも飲んで、早く俺の巨乳を取り戻せ」
俺はニヤリと笑いながら答える。
「いや…確かに乳も脂肪の塊ではあるが… 油を飲んでも… まぁよいか… 連日、ブレスを吐いておるので、ブレスの素が少なくなっておる、これでも飲んで補充しておくか…」
「えっ!? マジで飲むのか!?」
俺が冗談のつもりで渡したごま油を、シュリは瓶をポンっと蓋を開けゴキュゴキュ飲み始める。
昔、現代日本にいた頃、ゲーミングPCが欲しくて、スーパーのレジのバイトをした時に、豊満な客がサラダ油を買いに来た時に『ストローはご入用ですか?』と冗談を言った事が何度かあるが… 実際に飲む人間を見るのは初めてである。ちなみに後で店長にみっちりと怒られた。
「あるじ様、ほれ飲み切ったぞ、なかなか風味のある油じゃったが、やはり身体を動かした後は、さっぱりした飲み物が欲しい…口の中がべたべたする…」
「冗談のつもりで渡したのに、マジで飲むのかよ… ほれ、お前の分の果汁水だ…」
俺は隠しておいたシュリの分の果汁水を渡す。
「なんじゃ、初めから持っておったのか、んっぐ…ぷはぁ~ やはり、果汁水の方がさっぱりするのぅ~」
くっそ… 折角、ごま油を見つけたのに、シュリに飲み干されてしまった… なんだか敗北感を感じる…
その後、飲み物を飲んで一息ついてもビアンが戻ってこないので、伝言通りに先に家畜の販売所に向かう。
するとその販売所では、成体になった豚も売られていたが、数多くの可愛らしい子豚も販売されていた。子豚は可愛いが育てて食う事を考えると成体の方を買った方が良いかなと考えていると、豚を欲しがっていたマリスティーヌが子豚の方へ駆け出す。
やはり、食い気の強いマリスティーヌでも可愛い子豚には敵わないと見える。
「うわぁ~! 子豚がいっぱい! 美味しそうですねっ!」
「えっ?」
俺はマリスティーヌの反応に目を丸くする。
「えっ? 可愛いじゃなくて、美味しそうなのか…?」
「えぇ、森にいた頃はよく猪の子供の瓜坊を捕まえて食べてましたから、森で一番の御馳走ですっ!」
マリスティーヌは子豚を抱き上げながら答える。
「猪の子供って…よくそんなの捕まえていたな… どうせなら猪の方がいっぱい食べられるだろ?」
「だって、親の猪を捕えるのは大変ですから、瓜坊だけを罠で釣り上げて捕えていたんですよ」
なるほど…野生生活では可愛いとか言ってられない状況だったのか…
マリスティーヌとそんな会話もあったが、結局、豚の飼育の練習をする為に雄雌番の子豚を買って帰る事となった。飼育に関してはマリスティーヌが責任を持つそうだ…アイツ、我慢できるのか?
一応、畜産に詳しい人間を雇いたいと販売所に声かけはしておいた。まぁ、後は希望者が来るのを待っていればいいか、すぐに必要でもないからな。
その後、別れていたビアンとも合流して城へ帰る事になったのだが…
「このおっさんだれ?」
荷台に見知らぬイケオジの金髪エルフの姿があった。
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