第232話 再び街へ買い出しに

「いやぁ~ 酷い目にあった…」


 俺は予定時刻より大幅に遅れた荷馬車を走らせながら、ポツリと呟く。


 同乗しているビアンとディートはその呟きに対して答えにくそうに口を接ぐんでいるが、シュリが呆れた素振りを見せながら口を開く。


「それはあるじ様が訳の分からぬことを言っておるからじゃろ」


 確かに、ある程度の自覚はあるが、関係者というか当事者のシュリに言われると頭にくる。


「そもそも、お前が俺の巨乳を使っちまうからじゃねぇかっ!」


「いや、だからなんで、わらわの胸があるじ様の物になるのかが解らぬ… それに過酷な畑仕事で体力を消耗したから仕方無かろうて…」


 シュリはやれやれといった顔で答える。


「なるほど… 私の胸が大きくならないのは、栄養が足りていないせいなのですね…」


 そこへ、暇つぶしと興味本位で同乗したマリスティーヌが話に首を突っ込んでくる。


「いや、お前はただ青臭いガキなだけだ、さっさとエロ清楚な修道女に成長しろ」


 マリスティーヌも俺が保護してから、成人男性の俺と同等量の飯を食っているはずなのに、一向に上にも横にも大きくならない。一体食った栄養をどこに回してんだよ…


「あるじ様はさらりと余計な事を言う出ない、普通の一般的な修道女がエロ清楚な存在だとマリスティーヌが誤解するじゃろうが…」


「いや、ドラゴンのシュリでは分らんだろうが、一般的に修道女はエロ清楚だぞ、なぁそうだろ?」


 そう言いながら、他の同乗者であるディートとビアンに同意を求めようと、顔を向けるが、ディートは気まずそうに俯き、ビアンは気難しそうに唸り声をあげるだけだった。


 しまったな…よく考えればディートはまだ子供だし、ビアンはオネエだから一般的ではないやつらばかりだった…


「イチロー殿がそこまで仰るのなら、修道女の衣装で鍛冶仕事をするのもやぶさかではないわ…」


 唸り声を上げて考え込んでいたビアンが、俺に流し目をしながら答えてくる。


「いや…仕事の安全性を考えて、普通の恰好でしてくれ…」


「あら、そうなの…残念だわね…流し目が完全に決まったと思ったのに…」


 おまっ、俺はロマサガのワグナーじゃなくても、お前の流し目は決まらんわ…


「まぁ、兎に角マリスティーヌよ、乳なんてものはデカくても肩は凝るし、不便なだけじゃから小さい方がよいぞ」


「こらっ! シュリ! 貧乳を布教すんなっ!」


 俺はマリスティーヌに余計な事を吹き込むシュリに声を上げながら、荷馬車を走らせた。




「で、どの店に立ち寄ればいいんだ?」


 前回、買出しに来たユズビスの街に辿り着いた俺達は、用事があって付いてきたディートとビアンに尋ねる。


「ちょっと、鉱物を取り扱っているジョージの店に寄ってもらいたいの、そこの角を右よ」


 そう言ってビアンが指差す。


「あれ? 鋼材が足りないのか? それなら城にあるいらん武器を潰して使ってもいいぞ」


「いや、量じゃなくて質の問題なのよ~」


「えっ? 一応、王族を守る為の武器だから安物の質の悪い武器ではないと思うが…」


「そこは僕から説明しますね」


 事情が分からない俺にディートが説明を買って出る。


「先日、相談された回転動力だけを生み出すゴーレムをビアンさんと研究開発しているのですが、どうしても軸が負荷に耐えられずにねじ切れたり、焼けてしまうので、耐久性に問題が出ているんですよ、それで一般的な鋼材とは違うもので試してみようという事になりまして…」


「なるほど、そういうことか…」


 今まで二人に任せっきりで、俺は見ていないから、一度はテスト運転の時に立ち会う必要がありそうだな… 難しい知識は無いが、現代知識で何か助言出来るかもしれん…


 とりあえずは、ビアン指示通りに鉱物を取り扱う店に立ち寄り、鉱物商と相談しながら、いくつかの鉱物を買い取り、その後、ディートが必要とするものを買うために魔法道具を取り扱う店にも立ち寄った。


 どちらの店でも、結構な金を使う事になったが、これも先行投資と割り切って金を支払う。カーバルで結構な金額を爺さん達からもらったのが、助かっている。


「で、どうだ?二人ともなんとかなりそうか?」


 俺は買い物が終わった二人に声を掛けてみると、あまり良い反応はしない。


「イチロー殿、支払いをしてもらってこんなことを言うのは心苦しいけど、金額の割にはあまり効果がなさそうだわね…」


 ビアンが流し目をしながら言ってくる。だから、流し目をすんなって…


「僕の方も似たり寄ったりですね… 魔法で材料の保護をしてやろうとすると、魔力の消費が多すぎて、実用には向かなくなりますね…」


 ディートも難しそうな顔をする。


 まぁ、そんな簡単に出来るのなら、他の誰かが先に開発しているだろうからな…


「まぁ、一度俺も試運転に付き合うから、その時に俺に助言ができるならさせてもらうよ、なに、開発には失敗がつきものだ」


 そう言って二人を励ましておく。


「さて、次は食料品店で食料の買出しだな」


「イチローさんっ! 豚肉も買いましょうよ! 豚肉っ! それでかつ丼を作りましょうっ!」


 最近、かつ丼を食べていないマリスティーヌが御者台に身を乗り出して言ってくる。最近は城の保存肉か、クリスがたまに採って来る鹿肉ばかりなので、豚肉と猪肉に飢えたマリスティーヌがかつ丼の禁断症状が出ている様だ。


「かつ丼か… かつ丼は兎も角トンカツは俺も食いたいな… クリスも鹿肉だけじゃなく猪肉も取ってくればいいのに…」


「あ~ それはクリスさんが猪に返り討ちにあって仕留められないのが理由らしいですよ」


「えっ? アイツ、猪に負けてんの? 元、騎士なのに?」


 猪突猛進のクリスでも本物の猪には敵わないという事か…


「だから、豚肉もかっていきましょうよ~ イチローさんっ!」


 シュリの農機具にしろ、マリスティーヌの豚肉しろ、カローラのカードにしろ、俺って女からまともな品物を強請られたことが無いな…


「うーん、今は農業中心に話を進めていたが、そろそろ畜産も話を進めていくか…」


「それって、豚肉ではなく豚そのものを飼うってことですか?」


「あぁ、定期的かつ大量に肉を食べようと考えれば、畜産を始めないとな」


「始めましょうっ! 今すぐ始めましょうっ! イチローさんっ!」


 マリスティーヌが瞳を爛々に輝かせて身を乗り出してくる。


「分かった分かった、じゃあ食料店寄った後に、家畜を売っている場所にも寄るからそれでいいだろ?」


「ありがとうございますっ! イチローさんっ!」


 どうやらマリスティーヌが女らしいエロ清楚な修道女になるのはまだまだ先の様だ…


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