第230話 男のロマン
「騙されたのじゃ… いくらなんでもアレは奴隷労働すぎる…」
農作業から戻ったシュリは愚痴を漏らしながら、食堂のテーブルの上に突っ伏す。
「騙されたって人聞きの悪い事を言うなよ、始める前はシュリ、お前もやる気だっただろ?」
「やる気だったと言っても程度というものがあるじゃろ! あんなに耕さんでも十分くっていけるじゃろ!」
シュリは突っ伏した状態から顔だけ上げて、反論してくる。
「いやさ… それが、半年後にはハニバルに残した蟻族の連中がこっちに来るそうだから、その時までにせめて食料自給を出来る様にしておかないとダメなんだ」
「なるほど、理由は分かるのじゃが… それでも、わらわにも限界があるっ! 昨日の様な無茶はできぬぞっ!」
昨日は朝早くから日が暮れるまで、ずっとシュリに畑を開墾させ続けたからな…例え、ドラゴンと言えども酷使させすぎたか… そもそも、ドラゴンなんて生き物は自分の素でぐーたらしている事が多いからな、ずっと重労働をする事は難しいか…
「分かった… 今日はシュリが頑張れるだけの分量で仕事をやってくれればいい、俺も別の方法を考える」
昨日はディートに出してもらった計算結果や、蟻族の連中が返ってくるという情報に、心が勇んでしまったが、少々やり過ぎたな… よく考えたら、予定している小麦やコーン、その他の作物の作付けする時期はまだ先だし、買い付けもいってないからな。
「では、俺は、ディートに相談してくるので、シュリは今日の農作業は適当に切り上げていいから」
シュリにそう告げて俺はディートの部屋へと向かう。
「というわけで、シュリだけで必要な畑を耕すのが難しくなったので、相談しにきた」
そう告げると、ディートは困ったような呆れたような顔をして鼻の頭を掻く。
「というか、シュリさんにあの広さ全部を開墾させるつもりだったですか? 僕がいうのもなんですが、イチロー兄さんも鬼ですね…」
「いや、シュリならやり遂げてくれると思っていたんだが…」
ディートに呆れられて、俺はバツが悪そうにディートから顔を逸らせて答える。
「いやいや、無理でしょう… どれだけの広さだと思っているんですか? 平らな所に立って四方に見える地平線まで全部耕すのと同じなんですよ?」
そう言われて想像してみるとえげつない仕事量だな…マインクリエイトならマップ一面岩盤堀とかやっていたけど、リアルだとうそう言う訳には行かんよな…
「それで、当事者の本人のシュリから勘弁してくれって言われたんだよ…」
「なるほど、そうでしたか… それで僕の所へ来たんですね…それでどの様な事に協力すればいいんですか?」
ここは現代日本で使っていたアレを魔法の力で作るしかねぇよな…
「ディートはゴーレムについて詳しいか?」
「えぇっと、どちらかというと詳しい方ですが、先に言っておきますとゴーレムに農作業をさせるのは難しいですね…」
ディートは残念そうな顔をして答える。
「なんでだ?」
「ゴーレム自体の形状や材質、性能については、数多くの魔術師の研究によって、作れない物はないのでは?と思われるほど、研究しつくされましたが、肝心な制御部については、発掘された古代の資料や文献の丸写しをするしかなく、新しい制御を作り出せていないのです」
なるほど…言われてみれば、自立して動くゴーレムは現代で例えるとAIロボットの様なものだからな… 現代でも完全な自立式AIが完成していないのに、この時代の人間では作り出すのは難しいだろう… だが、俺が考えているのはそんなことではない。
「いや、ゴーレムで農奴を作ってもらうってのは考えてねぇよ、もっと単純な事だ」
「単純といいますと?」
ディートは少し首をかしげる。
「ちょっと、書くものをかしてもらえるか?」
そう言ってディートから紙とペンを借りて、紙に書きながら、俺のやって欲しい事を説明していく。
「つまりだな、ただ力が強い回転運動を作り出して、後は魔術的でなく、機械的に利用していくってやり方だ」
「なるほど、それならば複雑な魔法回路を作る必要はないですね…でも、回転力はドラゴン状態になったシュリさんと同等の力が必要なんですね?」
「そこまで必要かどうかは分からないが、例えばこんなドリルっぽい物を回して土を起こしながら移動できる力は必要だな」
現代日本で見た耕運機の回転部分の絵を書いて説明する。
「なるほどなるほど… それなら、シュリさんの爪や馬鍬よりも力強く、しかも細かく耕すことが出来ますね」
ディートのは知的好奇心をくすぐられたのか、瞳を爛々を輝かせる。
「それにだ、この後ろに、こうやって鋤板を付ければ畝まで一発で作れるだろ?」
「それ、すごいですよ! 農業に革命を起こせるんじゃないですかっ!」
やはりディートも男の子で、こういうメカの話は現代日本でもこの異世界でも変わらんな、俄然やる気を出している。
「どうだ? つくれそうか?」
ディートが鼻息を荒くしてやる気を出しているので、二つ返事で答えてくれると思ったが、眉を顰めて唸り出す。
「うーん、魔法回路なら、凄く単純なので今すぐでも作れますが、問題なのは、その力に耐える素材とその魔力を供給し続ける魔力貯蔵容器の作成ですね…かなり値段が張りますよ…それこそそのお金で作物を買った方が安くなるぐらいには…」
「回転力に耐える素材の事は分かるが… 魔力貯蔵容器って何の事だ? しかも高いだと? ゴーレムってのは、一度起動させたら永遠に動き続けるものではないのか? ダンジョンのゴーレムなんてずっと昔から動いているだろ?」
俺も魔法には詳しいが、それはあくまで冒険に使う攻撃魔法や日用魔法の事で、ゴーレムなどに試用する魔法回路に関してはさっぱりである。例えて言い換えるなら、俺は名ゲームプレイヤーではあるが、名プログラマーではないって感じだ。
「あぁ、ダンジョンのゴーレムを見ているので、その様な勘違いをされていたのですか… それならば改めて説明します。ゴーレムの魔力を供給し続けないと止まってしまいます」
「なら、ダンジョンのゴーレムはどうして大昔から動き続けているんだ?」
確かに言われてみれば、エネルギー源の供給なく永遠に動き続けるのはおかしい。ならば、どうしてダンジョンのゴーレムが動き続けるのかその仕組みが知りたくなった。
「ダンジョンのゴーレムは稀にしか来ない侵入者に対処する時以外は、じっとして、ずっと魔力をため込むか、設置されている場所自体が、魔力の供給源になっているんですよ」
なるほど、用事が無い時は充電しているか、コンセントかついている状態みたいなものなのか…
「という事は、前者の場合は、周囲の魔素を吸い込んで魔力にしてため込んでいるんだろ? その機構を多く積み込んで、周りの魔素を吸い込みながら、ずっと動き続けるって事はできないのか?」
「そうですね、竜脈、精霊の住み家、魔境と言われている魔素の濃い場所なら、そのような事も可能ですね…」
なるほど、俺もそう言った場所に行ったことがあり、魔力の回復が早いなと思っていたらそう言う事だったのか。
「それで、一般の場所ならどうなんだ?」
「この程度の明りを灯すぐらいなら、周囲の魔素を吸い続けても、周りの魔素が枯渇することはないですが、これ以上だと、効率が悪くなり、最悪の場合は周りの魔素環境を壊してしまいますね」
ディートはそう言いながら20wぐらいの明りを灯す。
「そのぐらいの明りだと、到底土を耕すなんて出来ないな… だから、魔力を貯めておく機構が必要なのか…ん?」
そこで俺はある事を思いつく。
「操縦者なり搭乗者が乗って魔力を供給することも可能なんだよな?」
「論理的には可能ですね、魔力供給容器を作る事を考えれば安上がりですし」
「ディート、お前は憧れないか? 搭乗者の力で動く、巨大な乗り物って奴を…」
俺は昔から憧れているアニメのロボットの様な物を想像して、ディートに言葉を掛けてみる。すると、ディートはゴクリと唾を呑み込んでから答える。
「実は…僕も話をしていて少しそんな事を考えていました」
そう言って、ディートは口角をあげる。
「やっぱこういうのは男のロマンだな…」
「えぇ!僕もそう思いますっ!」
俺たちはガッチリを手を組み、ゴーレム機械を作る事を決めたのであった。
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