第226話 性教育

「で、今日はこれからどうするのじゃ?」


 収納魔法の習得が終わったシュリが俺を見上げて尋ねてくる。


「そうだな、二度手間になってしまうが、昨日買ってきた肥料を畑にすき込まないとダメだな、後、畑も拡張したいな」


 昨日耕した畑に植える分の種芋を買ってきたが、今植える事の出来る玉ねぎの苗も買い足してきた。その玉ねぎの分の畑も拡張したい。


「とりあえず、シュリは昨日と同じぐらいの農地を広げたいので、昨日の畑の隣をまた焼き払っておいてくれるか? ブレスがあまり吐けないなら、疎らにブレスを吐いてゆっくり焼けばいい」


「あるじ様はどうするのじゃ?」


「俺は、昨日の畑に肥料を捲いていこうと思う、ディートも手伝ってくれるか?」


 俺はシュリからディートに向き直る。


「よろしいですが、僕はあまり力仕事は向きませんよ?」


「ディートは荷馬車の上で昨日買ってきた肥料を出してくれればいい」


「という事は、畑の上に荷馬車を走らせて、僕が肥料を取り出して、荷馬車の上から肥料を捲いていくんですね…それだと人手が足りないんじゃないですか?」


「その辺りは、城で暇そうにぶらぶらしている奴を捕まえて補う」


 正直誰かいるだろう。そんな感じでディート部屋から出て、歩いていると早速、暇そうにぶらぶらしている奴を発見する。


「あっ、イチローさん、本当にこの城は凄いですねっ!」


 この城に到着してからと言うものの、ミリーズにレヴェナントの話をする事を強請れていたマリスティーヌが漸く開放されたらしく、城の中を散策して回っていたようだ。


「マリスティーヌ、暇か?」


 城の中をじっくりと見ていきたいのは分かるが、今後城に住むことになるので、いつでも見れる。


「まぁ、今の所、用事が無いので自由時間ですし、暇と言えば暇ですね」


 マリスティーヌは俺の思惑を知らずに、素直に答える。


「よし、第一農奴確保だ」


「はい?」


 訳の分からない顔をするマリスティーヌの腕を汲んで引きずっていく。


「あるじ様は容赦ないな」


 シュリが何か呟いているが、そんなのは無視して、厩舎まで向かう。


「ケロース、お前も時間あるよな?」


 俺は厩舎で見つけたケロースにも声を掛ける。ユニポニーもいるが妊娠して腹が膨らんでいるので、ユニポニーは勘弁してやる。


「んあ? 妻たちの世話が終わった所なので時間があると言えばあるな」


「第二農奴確保だ」


「なんのことだ?」


 ケロースは俺の言葉に露骨に怪訝な顔をする。


「昨日の畑の整備するのに人手が必要なんだよ、みんなの食事になるんだお前も手伝え」


「なるほど、それで私は何をすればよいのだ?」


 嫌がるかと思ったケロースが素直に自分の役割を聞いてくるので俺は少し驚く。


「荷馬車を使って肥料を捲いていくんだが、ディートが荷馬車の上に肥料を出していくから、俺と二人で畑に肥料を捲いていくぞ」


「ん?それだと荷馬車の手綱は誰が握るのだ? もしかして、そこの童貞臭い少年か!? それともそこの処女臭い娘か!!」


 素直に話を聞いていたと思ったケロースが突然、鼻息を荒くし始めて、失礼にも二人を指差して声を荒げる。


「ディートは肥料を出すので精一杯だから、マリスティーヌにやらせようと思っていたんだが…」

  

「ならん!! ならんぞ!! なんでそんな処女臭い奴に私のレイとアスカの手綱を握らせなければならんのだ!! そんな事なら作業に協力もしないし、レイとアスカも荷馬車も貸し出さんぞ!!」


「私って、そんなに臭いますかね?」


 ケロースの怒声に意味が分かってなさそうなマリスティーヌがクンクンと自分の服の臭いを嗅ぎ、同じく意味が分かってなさそうなディートが袖を鼻に寄せている。


 しかし、やはりケロースはケロースだったな…こんな事で拗らせるとは…


「分かったよ、じゃあ、お前が荷馬車の手綱を握れ、マリスティーヌは、ディートが出した肥料袋を開けていけ、俺が捲いていくから」


「それなら、勘弁してやろう」


 ケロースが偉そうに腕を汲んで納得する。ホント、ややこしい奴だな…


「とりあえず、畑に向かうぞ」


 そんな訳で、傍目に見たらとても農作業を行うようなメンツには見えないメンバーで畑へと向かう。


「しかし、本当に私ってそんなに臭うんですか?」


「僕も先日の肥料の臭いがまだ残っているんですかね?」


 俺と一緒に荷台に乗るマリスティーヌとディートが俺に意見を求める様に声を上げる。


 何だろう…幾多の女性経験をこなしてきた俺でも、この二人を目の前にすると性教育の話をするのは気が引けるな…なんだか、妹や弟、娘や息子に性の話を聞かれている様な気分になってくる。


「そ、それはだな…か、身体が…こ、子供を作る準備が…出来るまで…成長しているかどうかって事で…」


 この俺ともうあろう人物が、及び腰になりながら二人に説明する。


「なんだ! イチロー殿! もっとちゃんと話してやらんか! 二人ともよく聞け!! 処女臭い童貞臭いというのはな! 男女の交わりをしていない者の事をいうのだ!!」


 俺の及び腰の説明に、ケロースがデリカシーなど一切なく声をあげる。


「あぁ、なるほど、そういうことですかっ!」


 マリスティーヌは理解してポンと手を叩き、ディートも恥ずかしそうに顔を項垂れる。


「ちょっ! おまっ!」


「男女の交わりについて百戦錬磨のイチロー殿が何故臆する! ズバッと言ってやればいいだろ! ズバッと!!」


 こいつ、ユニコーンの時もめんどくさかったが、バイコーンになってから輪をかけて面倒になったな…


「そう言う事でしたら、私が処女臭いのは仕方ありませんね、なんせ生理がまだきていませんから」


 マリスティーヌもマリスティーヌであっけらかんと言ってのける。


 おい!レヴェナント!! お前、マリスティーヌにどんな教育してきたんだよ!! こいつケロース並みにデリカシーが無いぞ!!


 それとマリスティーヌ、お前、そんな歳になってまだきていないのかよ…道理でノーパンでいたはずだ… 野生生活をしていて栄養が足りてなかったのか? まぁ、どちらにしろ俺のマイSONがマリスティーヌに反応しなかった理由はこの為か…


「えっと、僕も言わないとダメな空気ですかね…?」


 ディートが顔を真っ赤にして伏せながら呟くように言う。


「いや、言わんでいい…ってか、マリスティーヌは作業が終わったら、城の誰かに恥じらいというものを憶えさせる」


「イチローさん、それっていります?」


 マリスティーヌが誕生日に父親から全くいらないプレゼントでも渡された娘の様な顔をしてくる。


「いるわ!! お前自身がいらなくても、周りの人間には必要だっ!」


 俺の怒声が晴れた青空に天高く響いた。


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