第225話 便利な魔法を楽に習得

「で、どうすればいいんだ?」


 腕輪と薬を持つディートに尋ねる。


「魔法薬を飲んで貰って、この腕輪をはめて貰えば、収納空間を作成する事ができます」


「えっ!? そんな簡単に習得できるの?」


 てっきり大規模な儀式魔法でもするものだと考えていたので、俺は目を丸くして驚く。


「えぇ、開発するのが大変だっただけで、開発してしまえばこんなものです」


「なるほど、コロンブスの卵みたいに思い付きが重要ってことか」


 ディートは魔法薬の瓶の栓を取り、小さなコップに魔法薬を注いで、俺とシュリに差し出す。


「この薬は?」


「この薬は身体の魔法伝導率を良くする魔法薬です。また、収納魔法を構築するための魔法因子も含まれておりますので、少々味は悪いですが、残さず飲み干してください」


 なんだかレントゲン前に飲むバリウムみたいな感じだな…


 俺とシュリはディートの言われるまま、その魔法薬をぐっと飲み干す。するとやはりバリウムのように何だか泥でも飲んでいる気分になる。


「やはり味はお気に召さなかったようですね、後は暫く魔法薬が身体に回るまでお待ちください」


 そう言って、ディートは何か口直しの飲み物を準備し始める。


 その間に、俺はディートの片付けの済んでいない部屋の中を見回す。


「ディート、部屋の片づけに人手が足りないのなら、骨メイドに手伝ってもらうか?」


「いえ、人手が足りないというよりも収納できる家具が無いのですよ、流石に家具となると僕の収納魔法では家具を収納できなかったので…」


 確かにディートが両手で輪を作っても家具を収める事はできないな。


「となると、家具も買うか作るかして揃えないとダメだな… あのオネエドワーフは大工仕事もできるかな?」


「まぁ、僕の場合は家具が無ければないで、また収納魔法で片づけますので」


 そう言って、ディートは口直しの飲み物を差し出す。


「確かに、普通に片づけるよりも収納魔法の中に入れていた方が、持ってくるの忘れたとか、盗まれたとか、片づけた場所が分からないってことは無いからな」


 そう答えながら、ディートがくれた口直しの飲み物を飲むと、カーバルでよく飲んでいたレモネードであった。


「やっぱ、カーバルのレモネードは美味いな…うーん、ここでもレモネードが飲めるようにレモンの栽培も始めるか」


「それはわらわも賛成じゃ」


 泥水のような魔法薬を飲んだ後で、レモネードの酸味と甘みでさっぱりした俺とシュリはレモネードの為にレモン栽培を決意する。


「そろそろ収納空間を作成しますか、ではこの腕輪を嵌めて貰えますか? ついでに魔圧も測定できますよ」


「魔圧? なんじゃそれは? わらわは聞いた事がないぞ」


 ディートの『魔圧』という言葉にシュリが首を傾げる。実は俺も聞いたことが無いので、シュリが尋ねてくれて恥をかかずに助かった。


「あぁ、魔圧というのは最近カーバルで作られた言葉で、シュリさんが知らなくても当然です。でも、魔法を使う上で知っておいた方が良い概念ですね」


「それでどういう概念なのじゃ?」


「一言で例えていうと、魔力量が樽にどれだけ水が入るかで、魔圧がその樽から水の出る勢いですね」


 ディートは紙にカリカリと絵を描いて説明する。


「なるほど、水圧と同じような考え方か…それで、魔力が枯渇してきたときに踏ん張らないといけないのはその為か…」


「そうですね、魔法の初心者が魔法のコントロールに苦労するのはこの点ですね、ある人にとっては魔圧を押さえないと魔法が暴走しますし、ある人にとってはもっと魔力を捻り出さないと魔法を維持できないのです。ちなみにその腕輪はその魔圧を一定にして収納空間を作ってくれるものです」


 水圧にも近い概念だが、実際に使う時は電圧にも近い概念なんだな、しかし、そんな個人によって魔圧が違うものを一定にして自動で魔法を発動する道具か…これは色々な可能性があるな、夢が広がリング~


「じゃあ、俺から始めていいか?」


「構わんぞ」


 ディートも頷き、シュリもそう答えたので、早速腕に嵌めてみる。


「おっ、腕輪が光り始めたな、光っている間は作動中ってことか?」


「はい、そうです。一応、魔力が枯渇して倒れないように安全装置は付けてありますよ」


 腕輪は光りながらシューと音を立てて空気を吸い込んでいる。


「どうして空気まで吸い込んでいるんだ?」


「あっ、それは収納空間と外界の気圧の問題ですね。最初作った時に空気を入れてなかったので、密閉していたものは弾けてしまったり、水気の物は気化してしまったりしたので空気を同時にいれるようにしたんですよ」


 ディートは天才少年に見えて失敗なんかしなさそうだが、きっちり失敗してんだな。


「で、これ、どれぐらいの時間がかかるんだ?」


「そうですね、その人の魔力量にもよりますから、やって見ない事には分かりませんね、ちなみに僕は七分程でしたよ」


「魔力量がわかるじゃと?」


 シュリがディートの言葉にポツリと呟き、意味深な顔をしてチラリと俺を見る。


 あっ、シュリの奴、どちらの方が魔力量が多いのか俺と競うつもりだな?


「ディート! 俺が何時何分何十秒に腕輪を嵌めたか憶えているかっ!!」


 俺は大人気なく、小学生の子供の様にディートに腕輪を嵌めた時間を尋ねる。


「えぇ、恐らくそう言う事になると思っていましたので、ちゃんと計測していますよ」


 そう言って、ディートは懐中時計を取り出して、俺達に見せる。


「時間の計測モードにしておりますので、今一分をまわった所ですね。ちなみに僕の正確な時間は7分11秒でした」


 年上の威厳を保つ為、出来ればディートの記録は抜きたい!でも、ディートもなんだかんだ言って魔法に関しては天才少年だから、一般人よりも遥かに魔力量が多いはずだ…


 そして、問題は… 俺はチラリとシュリを見る。すると、対抗心をチラつかせて不敵な笑みを浮かべるシュリと目があう。


 シュリと初めて出会った時は、俺が圧倒したが、なんだかんだ言って生物の頂点に君臨するドラゴンだからな…その魔力量は侮れない…


 負けられない戦いが静かに始まった。俺は絶対勝つために気合を入れる。


「ふぉぉぉぉぉ!!!」


「いや、腕輪が自動的にやりますから、気合を入れても…」


 ディートが気合を入れる俺を見て、苦笑いをする。


 その後、俺の収納空間の作成が終了し、次はシュリの番となる。


「うぉぉぉぉぉ!!! あるじ様に魔力量でかってやるのじゃ!!!」


「だから、気合をいても無駄ですって…」


 そして、俺とシュリの収納空間作成が終了した結果。


「15分01秒! よし!!」


「なんでじゃ…なんでわらわが11分32秒なんじゃ…」


 俺は勝利にガッツポーズをして、シュリは敗北に項垂れる。


「いや、シュリさんも僕よりかは多いのですから、落ち込まなくても… それよりも、イチロー兄さんはそれだけの魔力量があるのに、どうして魔法メインの戦いではなく、剣をメインに戦うのですか?」


「うーん、そこは好みだな~ あと、魔法はいざと言う時とか、必殺技って感じに使いたいってのもあるな」


 後、リアルでRPGをやっている世界だ。魔力切れで魔法が使えない状態になったら死亡なので、体力が続く限り戦う事の出来る剣を憶えておいて無駄はないと考えていたのである。


「それよりも、折角収納魔法が使えるようになったのじゃ、練習もかねて農作業の続きをするぞ!」


 シュリが気を取り直して声をあげる。


「そうだな、ディートの収納魔法に、種芋や肥料を入れてもらったままだったからな」


「そ、そうですね…僕も早めに肥料は出してしまって、肥料の事は忘れたいですね」


 ディートは乾いた笑い声をあげた。


 






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