第221話 収納魔法
「ん? あるじ様は服を着替えるのか?」
城に戻ったところで、自室に戻ろうとする俺にシュリが声を掛けてくる。
「あぁ、そうだが…シュリは着替えんのか?」
「どうせ、種や苗等を買いに行くのじゃぞ? 汚れるじゃろ」
「確かにそうだな、じゃあ昼飯くったらそのまま行くか」
俺は何気なくそう答えたが、シュリはまだ何か言いたそうな顔をする。
「どうした? シュリ?」
すると、シュリが辺りをキョロキョロと見回してから、俺に耳打ちをしてくる。
「一応、クリスに火傷の軟膏を買って帰らぬか?」
「確かに…クリスの火傷…絶対に俺達の作業の巻き添えを喰らっているよな…バレた時の事を考えて、先に罪滅ぼししておいた方が良いな…」
その言葉の後、暫し無言の時が流れたが、二人して同調して頷く。
その後、二人して昼食をちゃちゃっと済ませて、食堂を出た時に再びシュリが声をかけてくる。
「そういえばあるじ様よ、買出しに使う荷馬車は大きなものにするか、なんなら二台にしてくれぬか?」
「えっ? そんなに買い込むつもりなのか?」
種の買出しぐらいならそんなに荷物にはならないだろうと俺は考えていた。
「いや、苗は嵩張るし、そもそも今後もわらわがドラゴンの姿になって耕していくなら、もっとマシな道具が欲しいのじゃ、今のはガタついてきておるし、小さいからのぅ」
確かに苗を積み上げる事は出来ないし、今ある馬鍬もシュリの家庭菜園用に購入したもので、本格的な農業をするには、少々役不足だ。今後の自給自足を考えるならもっと良い物を買った方が良いだろう。
それに漸くシュリもシュリトラクターを引き受ける気になってくれたようなので、シュリが気持ちよくトラクターを出来る様に、シュリが気に入った馬鍬を買ってやるか。
「そうだな、分かった。シュリが使うのだから、お前の欲しい馬鍬を買ってやんよ」
しかし、山の天気並みにコロコロと気持ちが変わる奴だな…女心と秋の空というように、一応、シュリも女だし、コロコロと気持ちが変わるのだな。
俺がそんな風に考えていると、食堂から食事が終わったディートが声をかけてくる。
「買出しですか? なんでしたら、僕も付き合いましょうか?」
「ん? ディートも何か苗が欲しいのか?」
買出しのお供を申し出てきたディートにそう返す。
「いえ、苗の運搬を問題視されている様なので、僕の収納魔法があればお手伝いできるかと」
「えっ? ディートの収納魔法って、そんなに物が入るのか?」
シュリは荷馬車二台分の買い物をするつもりである。収納魔法は便利だが、そんなに物が入るのであろうか?
「えぇ、カーバルから持って来た、僕の私物や本、その他の荷物は全てこの城の部屋に出しましたから、収納魔法の空間は今は殆ど空の状態ですよ」
「そうなのか、ちなみにどれぐらいの荷物を詰め込むことが出来るんだ?」
収納魔法についてはディートがカーバルから離れる原因となった魔法であるので、俺は詳しく聞いていなかった。だから、ディートから話してくれる時に聞いておくことにする。
「そうですね…カーバルを去る時に、学園長や七賢者の皆さんが沢山の餞別を渡してくださいましたが、全て納める事が出来ましたので、樽にして50ほどですね」
さらりと言うディートに俺は目を丸くする。
「50も入るのか!?そりゃすげえな!!」
これは他国が目の色を変えるのが分かる。兵站の事なんか考えずにどこでもいくらでも戦争することが出来る。
「それじゃあ、朝と同じで荷馬車一台でもいいな」
そう言う訳で、俺はシュリとディートを連れ立って、荷馬車を使って買出しに出かける。
「あれ?あるじ様、近所の集落へはいかんのか? 方向がちがうぞ?」
行き先の違う事に、シュリが首を傾げる。
買出しの場所は、ディートの収納魔法があるお陰で、近所の集落ではなく、イアピースの首都方面にある大き目の街に向かうのだ。
「あぁ、収納魔法を使えるディートが来てくれたから、近所の集落ではなく、イアピース方面の街にいくつもりなんだよ、出来れば夕食までに戻りたいから、行きは飛ばすぞ」
そう言って、俺は少し荷馬車の速度を上げて走らせる。
「にに荷馬車とはははいえ、はははやくく、はしららせるととと、よよくゆゆゆれるのぅ~」
ガタガタ道を飛ばして走って揺れる馬車の上で、シュリが馬車の振動に合わせて口を開く。なんか最近のシュリは神がかって面白い。
「ちょっと待って下さい、こんなこともあろうかと、入れておいたクッションを収納魔法から取り出しますので」
これから開発担当をお願いするであろうディートの口から、こんなにも早くに『こんなこともあるかと』が聞けるとは思わなかった。
俺たちはディートから受け取ったクッションを尻に敷き、漸く振動が収まる。
「しかし、便利な魔法じゃのぅ~ わらわも憶えたいぐらいじゃ」
シュリがディートの魔法に感心してそう口にする。
「では、教えましょうか?」
「えっ!?」
ディートの言葉にシュリが答える前に、俺は思わず口に出して驚く。
「これからずっとお世話になるのですし、皆さんの事を信用していますから」
ディートは少しはにかんだ顔を答える。
「では、教えて欲しいのじゃ!」
俺の右隣に座るシュリが、俺の膝の上を頭を突き出して、俺の左側に座るディートに声を飛ばす。
「えぇ、いいですよ、でも今ではなく朝一の方がよろしいですね」
「どうしてなのじゃ?」
「俺も聞きたい」
二人してディートの方を見る。
「収納魔法の収納空間は、魔力を注ぎ込んで作るのですが、一度作ってしまうと後から魔力を注ぎ込んでも、一度固定化されてしまった空間は大きくできません。それに今の僕の技術では一人一つの収納空間しか作れませんので、大きくしようと思ったら、以前の収納空間を破棄して作り直さないといけないのです。だから、魔力の溜まっている朝一で行うのが良いのです」
「「へぇ~」」
俺とシュリが同時に感心したように声を上げる。その後、俺はある事が思い浮かんだので、ディートに質問してみる。
「もしかしてさ、収納空間を作る時に、魔力回復ポーションを呑みながら作ったら、平時の自分の魔力限界以上の収納空間を作る事って出来るのか?」
「論理的には可能ですが、魔力回復ポーションは高価ですし、お腹がタプタプになりますよ」
そう言ってディートは笑って答える。
確かに魔力回復ポーションは高価だし、魔力を全回復する代物ではない。あくまで非常時に回復させるための物で、寝て回復した方が良いのも確かだ。
しかし、転生前にその魔法を知っていたら現代日本の品々を色々と持って来たんだけどな…PCとかゲーム機とか…でも、電気が無いと動かせないか、結局ダメじゃん…
俺はそんな事を考えながら馬車を走らせた。
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