第215話 帰って早々尋問かよ…
「そなたら人族がドラゴンの事を生態を知らんのは仕方が無いが、いくらドラゴンのわらわでも、赤子を通り越して幼児を産む事は出来んぞ、そもそもわらわは哺乳類の様な胎生ではなく、卵生じゃ、それにじゃ」
カミラル王子達にそう説明しながらシュリは抱えていたポチを床に降ろす。
「ポチ、済まぬが元の姿にもどってくれるか?」
「シュリちゃま!わかったわぅ!」
シュリから降ろされたポチは可愛らしく手を上げながら微笑むと、ポンっと幼児の人化した状態から元のフェンリルの姿に戻る。
「わぅ!」
フェンリルの姿に戻ってもポチは可愛らしく吠える。
「ほぅ~ 本当にあのフェンリルが人化していただけなのか…」
「本当にあのフェンリルだったのね… でも、シュリの姿を見ると…」
カミラル王子の方は、手品の種明かしをされたような顔をしているが、アソシエの方はまだ疑惑の眼差しを保ったまま、視線をシュリの方へと向ける。
「なんじゃ? アソシエ、どうしてわらわの見るのじゃ?」
シュリは頭の上から足のつま先まで舐める様に見るアソシエに怪訝な表情をする。
「だって…今のシュリの姿って…イチロー好みの胸の大きさをしているから…」
そう言って、最後にシュリの胸元をじっと見つめる。
「ちょっと待て! いくら巨乳が好きな俺でも、こんな乳首の無い乳には興味ないぞっ!」
俺は自己の無実を訴える為に必死に弁明する。
「イチローこそ待ってっ! なんでシュリの胸に乳首が無い事をしっているのよ!? 本当に乳首が無いの?」
するとアソシエが俺の言葉尻を捕まえて、さらに俺を追及してくる。
「えっと、わらわはここで胸をさらけ出さなくてはならんのか?」
シュリは少し困惑した顔で声を上げる。
「いらんわ!」
「出して!!」
俺とアソシエで全く意見が異なり、流石に鼻息を荒くするアソシエをミリーズとネイシュが止めに入り、カミラル王子が頭を抱える。
「どっちじゃ?」
そう言いながらシュリが困惑した顔で俺を見上げる。
「だから、出さんでいい… お前も女だろうが、もう少し恥じらいを知れよ…」
「いや、もともとわらわ爬虫類のドラゴンには乳首や乳房などないからのぅ~ 恥じらって隠すと習性が分らん…」
おまっカズオだって乳首を見つめられたら、はにかんで隠すのに、どうしてシュリは恥じらいを憶えないんだよ…だから、そんなに大きくてもお前の乳にイマイチそそられないんだよ… やはり、恥じらいはエロさのエッセンスだな…
「まぁいいわ…今はあの幼児がシュリとイチローの子供でなく、ポチだったという事が分かればいいわ、でも後で、どういう状況で乳首が無い事を知ったのか教えてもらうから…」
俺は何もしていないが、いつも一緒に風呂に入っている事を言わないといけないのか?父親が娘を風呂にいれる様な物だろ…
「さて、次にそちらの…少年の事についてだが…」
カミラル王子がシュリの胸の話から話題を変えるように発言して、皆の視線を促す様にディートに顔の向きを変える。
「えっと…僕の事でしょうか…?」
見知らぬ人間に取り囲まれて注目を浴びる事で、人慣れしていないディートは少し竦んで答える。
「まず、そなたの名は何と申す?」
カミラル王子は竦んだディートの姿を見て、安心させる為か少し表情を和らげて話しかける。
「は、はい! 僕の名前はディートフリード・レグリアスです」
「ディートフリード? あぁ、カーバルからイチローに身柄を預けると連絡のあった学園の院生とは、そなたの事であったのか!? 私は学園の院生という事なので、成人だと思っていたが、そなたの様な少年であったとは… 実際に少年は今いくつなのだ?」
「12歳…です」
「なるほど…」
そういってカミラル王子は再び背もたれに身体を預ける。
「一体、どういうことなのかお分かりなのですか?」
自分一人だけ分かったような顔をするカミラル王子に、事情の分からないアソシエが尋ねる。
「あぁ、カーバル学園都市から、イチローに対してある有能な院生を本人の希望もあって保護してもらっていると情報があったのだが、まさかこの様な少年の事だとは思わなくてな…」
「本人の希望!? どうしてこんな幼気な少年が爛れた大人のイチローなんかに保護して貰おうと思ったの?」
カミラル王子の言葉にアソシエが目を丸くしてディートを見る。
ちょっと待てよ、俺の事を爛れた大人って言うなよ…
「いや、なんとなく…もし僕に家族がいて兄弟もいるのなら、兄上ってこんな感じの人なのかな…と思いまして…」
ディートは少しはにかみながら答える。やはり、ディートは俺から溢れ出る頼りがいのある男らしさを感じていた訳だな…
「ちょっと…ディート君、もしかしてイチローに変な遊びを付き合わされたんじゃないでしょうね…」
「いえ…そんな事は… 食事の手伝いをしたぐらいで、その他は逆に調合の素材集め等を手伝って貰いましたね」
そう言ってディートは正直に答える。
「嘘はついてなさそうだし、脅されて言わされている訳でもなさそうね…」
いや、ホントに俺、どんだけ信用が無いんだよ…
「では、次にそちらの修道女だが…」
今度は皆の視線がマリスティーヌに集まる。
「その修道服… かなり昔のデザインで、今では使われていない物だけど…どうしたの?」
やはりここは、教会で育てられた、今期の正当な聖女であるミリーズが、マリスティーヌの衣装に気が付いて彼女に声を掛ける。
「その事を含めて、自己紹介しますね」
森の中で半ば野生生活をしていたマリスティーヌであるが、今日初めて会う人の前でも人見知りすることなく、逆に好奇心に目を爛々とさせて自己紹介を始める。
「私の名前はマリスティーヌと申しますっ! 森で暮らしていた所をカーバルに向かう途中のイチローさん達に保護して頂いております。そして、先程ご指摘御座いましたこの修道服は、その森に赤子だった私を拾って下さった、師匠のレヴェナント様から頂いたものです!」
意気揚々と自己紹介するマリスティーヌの言葉に、皆驚いて目を丸くする。
「レヴェナントって…もしかして、あの…レヴェナント様の事なの!?」
俺に先代聖女であるレヴェナントの事を話してくれたミリーズが声を震わせながら、マリスティーヌに確認する。
「あぁ、俺もマリスティーヌを拾った時に話を聞いたが、両目を潰されていた事や、ミリーズが聖女の力に目覚めた二年前の時期とレヴェナントが聖女の力を失った時期があっていることから間違いはないと思う」
「はい、イチローさんの説明通りです」
俺が驚愕するミリーズに説明し、マリスティーヌがそれに同意する。
「マリスティーヌさん…でしたわよね… その…レヴェナント様は… 自分の両目を潰して追放した人間を…人類を恨んでいらっしゃったの?」
驚愕の事実に打ち震えるミリーズは、そのレヴェナントの遺児同然であるマリスティーヌに恐る恐る尋ねる。
そのミリーズの言葉に、マリスティーヌはゆっくりと首を横に振る。
「いいえ…師匠は人間を…人類を恨んではおられませんでした… 時々、近隣の集落で流行り病が流行った時には、こっそりと治療をしに回ったり、道半ばで倒れた人を丁寧に弔ったり…そして、私を拾って育ててくれました… 師匠は追放された立場であっても聖女の役目である人々の救済を放棄したりはしていなかったと思います」
マリスティーヌは誇らしげな表情でミリーズの言葉に答えた。
すると、ミリーズはレヴェナントの生き様を聞かされて、感動したのか顔を両手で覆って肩を震わせ始める。
「レヴェナント様はやはり、素晴らしいお方だったのですね…」
そう言って、ポロポロと涙を流し始める。
そんなミリーズの事もあってか、場の雰囲気は俺を問い詰めるような空気ではなくなり、この場はお開きになる事となった。
「マリスティーヌさん…レヴェナント様の事を色々と話してもらえるかしら?」
「えぇ! 喜んでお話しますっ!」
ポロポロと涙を流すミリーズに付き添いながらマリスティーヌや、他の者たちがこの応接室を後にしていく。俺も後に続こうと腰を浮かせ始めた所でカミラル王子の声が掛かる。
「イチロー、お前はまだだ。まだ話がある」
真剣な表情のカミラル王子が俺を見る。
こうして、俺とカミラル王子だけで会話が続けられることとなった。
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