第214話 皿とプライドは一度持ち上げてからの方が良く割れる

「イチロー、お前がなんで私がここにいると言うが、そもそもこの城は我がイアピースのものだぞ? 所有者が自分の所有物件について確認をしてもおかしくはあるまい」


 狼狽する俺に、カミラル王子はさも当然という顔をして答える。


「いや、それは確かに何だけど…なんでカミラル王子が直々に? しかも俺が帰り着くタイミングで?」


「お前が今日、帰ってくる事までは思い浮かばなかったが、先日、私の協力者から、イチローお前の疑いが完全に晴れてたと連絡が入ったのでな、この機会にお前が今後、この地、この城で、まともにやって行けるかどうか下調べに来たんだよ」


 カミラル王子の協力者? 王子の協力者と言うと、出発前に俺に釘を刺してきたアソシエと、アソシエから頼まれた…シュリか?


「イチロー、何か心当たりのありそうな人物を想像しているようだが、私の情報網の広さを舐めない方がよいぞ…」


 俺がそんな事を考えながら頭を捻っていると、そんな俺をフッと鼻で笑ってくる。あっ、これはマジで俺が思いつかないような情報網を持っている態度だわ…


「とは言ったものの…」


 余裕の顔をしていたカミラル王子がギョロリと俺を睨み始める。


「私に報告されていない事態になっているようだな… ちょっとその辺りを詳しく話を聞かせてもらおうか…イチローよ…」


 そう言って、カミラル王子は、俺の後ろで突然の状況に訳が分からず佇んでいたディートとマリスティーヌに視線を向ける。


「えっ? ディートとマリスティーヌの事?」


 いや、この二人の事が伝わっていないのは結構、ガバガバな情報網じゃないのか?


「いや、そこの幼児と少女もだ、ついでにカローラとも話がしたい」


 そう言って、ポチを抱きかかえるシュリを指差す。


「えっと、俺は帰って来たばかりなんで、一度落ち着いてからで良いですか?…」


 俺は城に辿り着いて、すぐさま風呂と飯の気分になっていたので、一応時間を貰えるかどうかカミラル王子に尋ねてみる。


「いや、私も忙しい身で、そろそろイアピース城に戻ろうと考えていた所だから時間があまりない、これからすぐに応接室で洗いざらい話してもらうぞ」


 カミラル王子は腕組みをしてフンッ!と鼻息を鳴らす。俺はえぇ~っと不満の声を漏らしたくなったが、そんな声を漏らしたらカミラル王子の雷が落ちそうな雰囲気だったので、ぐっと堪えて我慢する。


「あれ? なんだか騒がしいと思ったら、イチロー、帰ってたの?」


 吹き抜けの二階から声が響き、見上げてみると、出発前と比べてかなりお腹が大きくなったアソシエ達の三人の姿が見える。


「た、ただいま~ アソシエ、ミリーズ、ネイシュ~」


 すでに三人の事は分かっているとは思うが、俺はカミラル王子に遠慮しながら帰宅の言葉を掛ける。


「あぁ、アソシエ殿か、先程、別れの挨拶をしたばかりだが、丁度、イチローが帰って来てな、しかも報告には記されていなかった状況なので、詳細を聞き出そうとしていた所何だが… 皆も話に加わるか?」


 カミラル王子の言葉にアソシエは、俺に視線を向けて、その背後にいるディートとマリスティーヌ、そしてポチを抱えたシュリの姿を見つけると、眉間に皺を寄せる。


「えぇ、カミラル王子の言わんとしている事が分かりました! 私もすぐ参りますっ!」


 そう言って、お腹を大事そうに抱えながら早歩きでこちらに向かって降りてくる。


 ってか、なんでカミラル王子とアソシエがツーカーの仲なんだよ…


 そして、俺の前まで辿り着くと、俺をキッと睨みつける。


「さぁ!イチロー! 色々と話して貰いましょうか!!」


 そう言う訳で、ディートとマリスティーヌの前で城主としてカッコつけようとした俺は、まるで犯罪者が連行されるような様相で、カミラル王子を筆頭に応接室へと連行されていく。この連行に付き合わされることになったディートもマリスティーヌの気まずそうな顔をして付き合う。


 くっそ… そうそうに鼻を折られるような事になるとは…


 応接室に入ると、カミラル王子が城主が座るべき上座の位置にどっかりと座り、その他の上座側にはアソシエやミリーズ、ネイシュが座り、その正面の下座の位置には俺、ポチを抱えたシュリ、カローラが腰を降ろし、どういう訳か、ディートとマリスティーヌは俺達から離された横側の位置に座らされた。


「さて…」


 背もたれにどっかりと座っていたカミラル王子が前のめりになり、俺をにらむような顔つきで前のめりになる。


「どういう事か説明してもらおうか…イチローよ」


 以前のティーナ姫との面会の時も怖い表情をしていたが、その時はティーナがいるのでその怖い表情を押さえていたことが今の表情で良く分かる。まるで親の敵をみる仁王の様な顔つきを俺の前に突き出している。


「い、いやだなぁ~ カ、カミラル義兄さん… そんな怖い顔をしないでくださいよぉ~」


 俺は場の空気を和らげる為、引きつった愛想笑いを浮かべながら、カミラル王子の怖い顔を何とかするように懇願してみる。


「えっ!?」


 すると、カミラル王子よりも先に、横の席に座らされていたディートが俺の言葉に反応する。


「ん?」


 その声にカミラル王子が反応して片眉を上げながらディートに顔を向け、アソシエも少し目を丸くしながらディートに視線を向ける。


「なんだ? 少年?」


「貴方、やはり男の子だったの?」


 カミラル王子とアソシエの言葉からすると、やはり二人は俺が新しいボーイッシュな女の子を連れ帰ったものと思い込んでいたようだが…


「もしかして…イチロー!! そっちも行けるようになったの!?」


「ちげぇよっ!! なんでもかんでも手を出しまくる男じゃねぇよっ!!」


 俺がショタにも手を出した様な口ぶりをするアソシエに、俺は即座に否定する。


「勇者メンバー三人に手を出しただけでは飽き足らず、我が妹にもその毒牙に掛け、更にはダークエルフ10名、マセレタの姫…極めつけは魔族側だったプリンクリンや蟻族にも手をだして起きながら、どの口が言うのか…」


 カミラル王子は拳を握り締め、怒りで身体を震わせながら噛み締める様に言葉を漏らす。


「残念ながら、我があるじ様の口じゃ… カミラル王子よ…」


 俺の右隣にポチを抱えて座っていたシュリが、呆れたように付け加えて、その言葉に同意するように左隣のカローラがコクコクと頷く。


 くっそ…こういう時には速攻で俺を見捨てやがって…


「そなたは確か…イチローが手柄として連れてきたドラゴンの少女… そなたが本当にあの『破壊の女神』と呼ばれていたシュリーナルなのか?」


 カミラル王子は今度はシュリの言葉に反応してシュリに視線を向ける。


「あぁ、そうじゃ、なんの因果かは解らぬが、あるじ様の下について、今はシュリと呼ばれておる」


 シュリは流石にネームドのドラゴンだけあって、カミラル王子の威厳に怖気つく事無く、素の表情で答える。


 カミラル王子もカミラル王子で、イアピースのもその名が轟いていてシュリを目の前にしながら怖気づく事無く、まるで検分でもするような目つきで暫くシュリの姿をじっと見る。


 そして、シュリをじっと見ていたかと思うと、前のめりにしていた身体を背もたれに戻して、はぁと溜息をつき、ポリポリと頭を掻き始める。


「イチロー本人に聞くと頭に血が上るので、直接本人に話を聞いた方が良さそうだな…」


 そう言うと、カミラル王子は、俺に向けていた憤怒の表情では無く、神妙な顔つきでシュリに向き直る。


「なんじゃ?」


 その奇妙な雰囲気に、シュリは理由が分からず少し首を傾げる。


「シュリナールよ…その、そなたが抱きかかえておるのは… そなたとイチローのか?」


 カミラル王子のその言葉に、俺はその言葉に吹き出しそうになった。



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