第207話 そうだったのか…

 魔界の悪魔との戦闘の勝利に皆が湧きたつ中、俺とシュリはどっこいしょって感じで腰を降ろす。


「大変じゃったな…あるじ様…」


 シュリは勝利した事よりも疲れ切った顔で見上げてくる。


「あぁ、シュリもお疲れ様だ、お前がいてくれたお陰で勝てたようなものだ」


 そう言って、シュリの頭をワシワシと撫でてやる。


「わ、わらわは、プリンクリンの時や蟻の時に、ドラゴンでありながら、あまり…役に立てなかったからな… たまには役に立ちたかったのじゃ…」


 少しはにかみながらそう述べる。俺はその言葉にフッと笑いながら言葉を続ける。


「分かってんよ… そんな事ぐらい…」


 小さく呟くように口にすると、シュリはその言葉が聞こえたのか、シュリも微笑を浮かべて俺にもたれてきた。


「イチロォォォ~~さぁぁ~ん!!」

「キング・イチロー様!!」

「わぅ!!」

「イチローさまぁ!」

「こぉぉぉほぉぉぉ~~!!!」


 俺とシュリが腰を降ろして休んでいると、マリスティーヌやアルファー、ポチにカローラ、カズオが手を振りながらこちらにかけてくる。


「お見事でした! キング・イチロー様!」


 アルファーが少し感嘆した表情で声をかけてくる。


「凄かったですよ! これでまたイチロー様のカードが強くなりますねっ!」


 カローラはすぐにカードの話しかよ、少しは俺とシュリを労えよ…


「わう!わう!」


 ポチだけは純粋に俺の無事を喜んでくれている様だ。


「コォホッ! コォォホォォォ~!!」


「いや…何言ってんのか、分かんねぇよ…カズオ…」


 まぁ、勝った事を喜んでくれている様なのでいいか…


「吃驚しましたよ!! イチローさんっ! 魔界の悪魔にあんなにあっさりと勝ってしまうなんてっ!」


 マリスティーヌが目を輝かせて興奮しながら言ってくる。


「いや、あっさりでも楽勝でもねぇよ… 実は死にかけだ…」


 俺は戦闘の興奮が覚めて、鉛のように重くなった疲労感を感じながらそう答える。


「えっ? そうなのですか? でも、一撃も喰らわなかったじゃないですか?」


 戦った事のないマリスティーヌはキョトンとした目で聞いてくる。


「いや、逆にあんな化け物から一撃喰らった時点で終わりなんだよ… それに高濃度な魔界の魔素の中だったからな… その防御の為の魔法が尽きても終わりだ…」


 俺はそう答えながら、疲労で重くなった身体を解放するために、纏っていた鎧を脱ぎ始めて、その鎧の内部をマリスティーヌに見せてやる。


「ほれ、見てみろ、鎧の内部に仕込んでいた魔石などの外部魔力補充装置も、殆ど空だ…あの中では後三分も戦えなかったな… それにだ…」


 そう言って、俺は袖をまくって腕を見せる。


「対魔素のシールド魔法をかけていても、この有様だ… しかも、あのラッシュ攻撃を多用したお陰で腕の筋繊維がボロボロだよ… 治るまではまともに剣も振れねぇ… だから、楽勝どころがマジで辛勝だったんだよ…」


 魔素の浸食で黒ずんだり、内出血で赤くなったり紫になった俺の腕を見て、先程まで勝利で湧いていたマリスティーヌの顔は眉を顰めてどんどん青くなっていく。


「イ、イチローさんの腕がこんな事に…すぐに回復魔法をかけますからっ!!」


 自分で言うのもなんだが、かなりグロくなった俺の腕を見たマリスティーヌは、少し取り乱しながらもすぐに手を翳して、回復魔法をかけようとする。


「いや、俺よりも先にシュリの方にかけてやってくれ、俺と違ってシュリはマジで外傷を受けたからな、一応血止めはしたが、あの魔素の中ではまともな回復魔法をかけてやれなかった」


「いや、わらわよりもあるじ様を…」


 シュリは俺を見上げながらそう言ってくる。


「ダメだ、お前は俺の女だからな、綺麗でいて貰わなくては困るっ!」


「うぅ~ そういう言い方は卑怯じゃ…」


 シュリはそう言いながら、頬を膨らませ赤くなり、マリスティーヌに回復魔法を受ける。


 そんな俺達の所へ再び、爺さんたちがやってくる。


「イチローよ、ちょっといいか?」


「なんだ?爺さん」


 俺は座りながら振りむいて答えるが、爺さんは指をちょいちょいと動かして立てと言う仕草をする。俺は間を置かずに出てきた筋肉痛に、重くて軋むような身体を動かして立ち上がる。


「どっこいしょっとっ… で、爺さん、何の用だ?」


 俺が立ち会ってそう答えると、爺さんはいつもの様に馴れ馴れしく、俺と肩を組んできて会場の生徒達の方に向き直る。そして、俺だけに聞こえる様に呟く。


「身体はわしが支えておいてやるから、皆に笑顔を作れ」


 爺さんが言うように、いつもの俺に寄り掛かるような肩組ではなく、立つのがやっとの俺を支えるような肩組であった。まぁ、ここまで気を使ってもらえるならと、俺は全身の痛みに堪えながら、会場の生徒達に向かって笑顔を作る。


「さて!! 皆の者!! 注目しろ!!」


 爺さんが声を上げると、再び会場の生徒達が俺達に注目する。


「改めて言うが、魔界の悪魔を倒したのはこのアシヤ・イチローじゃ!!!」


 地声も大きいが、拡声魔法を使っているので更に学園内に爺さんの声が響き渡る。


「その様子は、わしへの魔力供給をして居ったお前たちも、しかと見ていたはずじゃ!!」


 会場の生徒達が、声に出したり頷いたりして爺さんの言葉を肯定する。


「このアシヤ・イチローは、その活躍を妬むものより、人類の敵に回るのではないかと噂されていた!!!」


 ここでその話が出てくるのかと、驚き、チラリと爺さんの顔を見る。すると、俺がチラ見したのに気が付いたようで、爺さんは小さくフッと笑う。


「だが、アシヤ・イチローはこの通り、魔界の悪魔を、ボロボロになりながら倒した!! その仲間も同じじゃ! アシヤ・イチローと共に、人類の敵である魔界の悪魔を倒した!!」


 ステージの上にちょこんと座るシュリにも皆の視線が集まり、シュリは少し気恥ずかしそうにする。


「お前たちもその眼で見て、このわしも確かに見た!! よって、カーバル学園都市の生徒全員とその責任者である七賢者の名をもって、アシヤ・イチローが人類の敵ではない事を、ここに宣言する!!!」


 目の前で、再び俺が人類の敵ではない事を宣言されたことに俺は唖然とする。


「それだけではない!! アシヤ・イチローは付け加えて、カーバル学園都市が勇者と認定する!!!」


 その爺さんの声で、会場の生徒達が一斉に湧き上がり、俺の名前を連呼し始める。


 状況の掴めなかった俺は、ここに来てようやく事態を認識する。つまり、到着直後にあの部屋で為された、人類の敵ではない判定はフェイクで、今までの学園生活の中でずっと、身振り手振りを通して、人類の敵になるのではないかと審査されていたのだ。


 そして、今、漸くその疑いが晴れた瞬間なのである。


 そこの事を理解した俺はなんとも言えないような顔をして爺さんに向き直る。すると、爺さんは俺の顔に気が付いて、いたずらっぽくフッと笑う。


「だから、言っておったじゃろ?他人にどう見られるのか気を付けた方がよいと…」


 あぁ、確かに言われた…そうか…俺はヒントを貰っていたのか… それに気が付かないとは、俺もまだまだだな…


 こうして、この日、俺は人類の敵に認定が払拭されただけではなく、イアピース・ウリクリに続いて、カーバルからも認定を受けた三ツ星認定勇者となった。






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