第205話 俺無双

「さてと…」


 俺は化け物に対して剣を構えて身構えているのだが、考察段階の技は、巨大な敵に対しては有効だが、非常に近距離まで近づかないといけない。


 先程まで使っていたシュリと二人で行う囮と本命作戦も、あの化け物は対処し始めている。先程の攻撃もシュリは皮一枚で済んだが、下手すれば角や爪で貫かれていたかも知れない。これ以上あまり危ない橋を渡らせることは出来ないな…


 一瞬ではあるがそんな事を考えていると、今度は化け物の方から動きがあった。大きく深呼吸するように、肺のある胸を大きく膨らませながら息を吸い込み、餌を口の中にため込むリスの様に頬を膨らませる。


 また、高濃度の魔素の霧かと思った瞬間、極太のビームの様な物を口から撃ち出す!!!


「マジかよっ!!!」


「いかんっ!」


 俺は即座にシールド魔法を展開するが、シュリはドラゴン化してブレスを吐いて化け物の極太ビームを弾き返そうとする。


 だが、大きく息を吸い込んでから吐き出してきた化け物とは異なり、シュリは咄嗟に吐き出したので、息が続かず苦しそうな顔をして、実際に相手の極太ビームに押され気味だ。


「待ってろっ!! 加勢してやる!!!」


 俺はすぐさまドラゴン状態のシュリの頭に飛び乗って、魔法を使ってシュリの加勢を行う準備をする。だが、この高濃度の魔素の中だ、普通に魔法が使えない事は分かっている。試しに魔法回路を起動して魔法を撃ち出す準備をするが、やはり身体から離れた場所に生成する魔法は魔素の影響が著しく、魔素が魔法回路を通して俺に浸食し始める。


「くっ! でも、今はそれぐらいの事を気にしちゃいられねぇ!!! エナジィィーバーストォォォ!!!!」


 俺は化け物に腕を伸ばして、持続的放出が可能なエナジーバーストの魔法を使い、シュリのブレスと共に化け物の極太ビームを押し返そうとする。


 シュリだけではかなり押されていたが、俺と二人係ならなんとか押し返せそうだ。ただ、魔力をそのままエネルギーとして撃ち出しているので滅茶苦茶効率が悪い。かと言って撃ち返さない訳には行かない。


「持つのか!?」


 シュリの方はもう息が切れ切れだ。シュリがブレスを吐けなくなったら、俺一人で押し返せるのかちょっと自信が無い。


 しかし、丁度その時にシュリと化け物とが同時に息切れを起こして打ち止めになる。


「な…な…なんとか凌ぎ切ったぞ…」


「シュリ! お疲れ! 後は俺に任せろ!」


 俺はシュリの頭から飛び降りると化け物目掛けて駆け出していく。化け物もあれだけの放射攻撃だ。すぐに二発目は撃てない。その隙に一気に詰め寄る。


 だが、化け物もただの棒立ちではなく、すぐさま俺に対して臨戦態勢を取り、爪を伸ばして薙ぎ払ってくる。しかも先程、俺が一気に間合いを詰めたことまで憶えている様で、片手で薙ぎ払い、片手は詰められた時の為に構えていやがる。


 俺は加速しながら念のために、その構えている片腕に指を差し示して念じる。


ピシュッ!


 よし! 成功だ。後は強度の問題だが…


 そう思った瞬間、加速した俺に対して、化け物は剥ぎ払おうとしていた片腕を戻して、構えていた腕を振り上げようとする。やっぱ、フェイントまでつかうのかよっ! だが、俺の狙い通りだっ!


 俺の身体は物理法則を無視するかのように、化け物が片手を振り上げた方向に急に宙に舞い上がり、流石の化け物も俺の動きに目を丸くする。


 実は以前、マリスティーヌに出会った時に、俺はマリスティーヌに手を届かすことが出来なかった。そして、二度と同じ過ちを侵さない為に作り上げたのが、このオリジナル魔法『インビジブルワイヤー』だ。対象に向かって透明なワイヤーを打ち出し繋ぎ止める事の出来るものだ。使い方によっては、アーチャー×アーチャーのゴム紐のような使い方も出来る。まぁ、伸び縮みする事までは出来ないが…


 宙にまった俺はそのままエアバーストの魔法を使い、化け物の顔目掛けて飛び掛かる。そして、化け物の顔とすれ違いざまに、身体全身の回転を乗せた一撃で頸動脈を切り裂く!!


 流石の化け物も頸動脈の一撃には、鯨の潮吹きの様に盛大に血を吹き出して、苦痛の叫びを上げるが、再生能力もあるので死に至る事はないであろう。


 だから、その隙を逃さず、化け物の背面に降り立った俺は、化け物の残った片足を潰しにかかる。


「心肺機能超強化!! 筋速度超強化!!! 行くぜ!! スーパースラッシュラッシュ!!!」


 俺は猛烈な速度で剣を振り回し、アキレス腱から化け物の残った片足を切り刻んでいく。しかも、ただ切り刻むのではなく、肉を削いでいくようにだ。最初の一撃目は加速による慣性の勢いで一撃で足首を切り落とす事が出来たが、加速の無い状態では、一撃で切り落とす事は出来ない。だから、圧倒的斬撃で再生できないように肉を削ぎ落して、両足を使えなくしてやるのだ。


「グォォォォォォォ!!!!!」


 頸動脈を切られ、足首に無数の斬撃を受け、流石の化け物も悲鳴を上げる。そして、アキレス腱を切り飛ばした所で、流石に体勢を維持できなくなり、俺のいる後ろに向けて倒れてくる。


 巻き込まれないように早く逃げなければならないが、足首を切り落とさずに逃げたら再生を許してしまう。だから、倒れてくる前に切り落とさなければならない!


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 俺は斬撃の速度を加速する! 切っ先が奴の骨に届いたのか、斬撃の音が甲高い物に変わる。ここが正念場だ!


 ピキッ! ピキピキッ!


 俺の超高速の斬撃で削り取られたのと、化け物の自重で足首の骨が悲鳴を上げ始める。


「よっしゃ!! 切り飛ばしてやんよっ!!!」


 俺は渾身の力を込めて、全身のばねを使って高速回転切りを食らわせる。


 バギィィンッ!!!!


 俺の一撃は化け物の足首の骨を叩き切り、そのまま前方の残りの肉を切り落とす!!!


 残った足首を切り飛ばされた化け物は、もはや立ち上がっていることが出来ずに大きく後ろに倒れてくる。


「ヤベェ! 巻き込まれる!!」


 俺は慌ててそのまま前転しながら転がり、巻き込みを回避する。


「あるじ様!! 後は任せるのじゃ!!!」


 シュリの声が上方から聞こえたかと思うと、ドラゴンの姿になったシュリの陰が俺を覆う。


 ドゴォォォォン!!!!


 今まで回避されてきたシュリの踏みつぶしが、化け物の両腕を踏みつぶす様にようやく決まる!!!


「グォォォォォォォ!!!!」


 化け物の地を揺るがすような悲鳴が響く。


「化け物はわらわが押さえておく!! 今じゃ!!! とどめを!!!」


 シュリの声にすぐさま体勢を取り直して、化け物目掛けて駆け出す。


「こんな化け物でも心臓を潰せば殺せる!!!」


 俺は化け物の胸元目掛けて飛び上がる。


「よっしゃぁぁぁぁぁ!!! 死にやがれぇぇぇ!!!!」


 俺は化け物の心臓まで剣を突き立てる為に、剣を大きく振りかぶる。


「!!!!!」


 俺は化け物の心臓に剣を突き立てることなく、そのまま胸元に降り立つ。


「どうしたのじゃ!! あるじ様!! どうしてとどめを刺さぬ!!!」


 俺の様子を見て、化け物を押さえながらシュリが声を上げる。


「いや…緊急事態が起きた… 人質がいる…」


 化け物の心臓に位置にあたる胸元には、あの女…リドリティス王女の姿があった。



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