第204話 前哨戦

 あのデカい化け物と戦うために魔界の魔素の中に飛び込んだ俺であるが、魔素に包まれた瞬間、魔素に対する防御の為、シールド魔法を展開しているというのに、極寒の中、寒さが肌を刺すような刺激に似た痛みが全身を覆う!


「くっ!」


 だが、俺は痛みに耐えながら進んでいく。


「シュリ! やれ!!!」


「あい!! わかった!!」


 シュリは俺の声に合わせて、ドラゴンの姿になり、巨大な化け物と組み合う!


 俺はその二人の股下を駆け抜けて、抜き放った剣をまるでスケートで回転するように遠心力を付けながら、化け物の足首に叩きこむ!


ガッ! ザシュッ!!!!


 硬い表皮を叩き割る後に、肉を切り裂く手応えが剣を通して腕に伝わってくる… だか、このままでは切り落とすまでには至らない!!!


「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺は魔法で足元を固定化すると、腰・胴・上半身・肩・腕の順にまるでゼンマイを解き放つように渾身の力を解放して、化け物の足首を切り裂く切っ先に全力を込める!!


 ガッ! キィン!!


「よし!!!! 足の骨が砕けた!!!」


 俺は化け物の足首の骨を砕く感触を得ると、そのままホームランでも飛ばす様に、剣を振り抜いて、化け物の足首を切り飛ばす!!!


「シュリィィ!!! いいぞ!!!」


 俺は足の固定を解放して、解放された慣性を回転で打ち消しながらシュリに声を飛ばす。


「あい!!! あるじ様!!!」


 シュリは俺に答えると同時にドラゴン化を解く。すると、化け物は受け止めていたドラゴン姿のシュリが消えた事と、片足首を切り飛ばされたことで、前のめりになって、大きく倒れ始める。


「シュリィ!!! そのまま押しつぶせ!!!」


 急に人化して宙に投げ出されたシュリに再び声を飛ばす。


「あい! 了解じゃ!!!」


 すぐにシュリはドラゴンの姿に戻って化け物を踏みつぶそうとする。同じ大きさなので踏み殺すまでには至らないと思われるが、動きを止めてくれたら、それだけでもかなり有利だ。


 だが、化け物は馬鹿でものろまでも無い様で、すぐさま腕を付き身体を捻らせて、シュリのスタンピングを回避する。


「なっ!?」


 それどころか、片腕の爪を槍の様に伸ばしてシュリを迎撃しようとする。


「よけろぉぉ!!!」


 俺が声を飛ばすと、シュリは即座にドラゴン化を解いて人化する。大きさが極端に小さくなったことで化け物のカウンターの直撃は避ける事が出来たが、腕にぶつかって弾き飛ばされたのか、俺の方へと飛ばされてくる。


「シュリィィ!!!」


 俺はシュリの落下地点に駆け出してシュリの身体を受け止めてやる。


「おっとっ! シュリ! 大丈夫か!?」


「あ、あるじ様!?」


 お姫様抱っこの形で受け止められたシュリは、突然の事で目を丸くする。腕の中のシュリの姿を見てみたが、どこも切り裂かれたり、骨が折れたりはしておらず、見た目には無傷の様であった。


「無事のようだなシュリ…」


 そう言いながら、すぐさまシュリを降ろして、化け物に剣を構える。


「ぶ、無事じゃ…こんな状況でなければのぅ…」


 シュリはなにやらブツブツと言いながら、俺と同じように化け物に構える。


「さてと…一発目の奇襲は成功したようだが…」


 俺は化け物の様子を伺う。


「時間をかけていると、その成功もなかったようになりそうだな…やはり切り落としておいて正解だったようだな…」


 化け物の様子を見てみると、俺が切り落とした足首の所が切り落とされた断面ではなく、小さくもこもこと盛り上がり、ゆっくりではあるが足首を再生しようとしている。切り落としていなければ、今頃、完全に傷口が塞がって全快状態になっていた事だろう。


 また、化け物自体も俺達の奇襲を受けた事で警戒して、立ち上がってかかってこようとはせずに、まるで狡猾な獣の様に四つん這いになって、身体をバネの様に竦めて、どんな攻撃でもすぐさま対応できるように体勢を整えている。


「あるじ様…彼奴…思った以上に敏捷で狡猾じゃぞ…」


「そうだな… しかも時間をかけていたら、魔素を使ってすぐに傷を再生させちまう… 速攻で勝負をかけないと、ジリ貧になるな…」


 向こうは魔素の中で回復するが、こちらは魔素の中では浸食されるか、防御魔法で魔力が枯渇してしまう。更には四つん這いになって体勢を低くしているという事は、足首を切り飛ばした俺を警戒しているのであろう…


「今度は俺が囮だ! シュリがやれ!!」


「あい! あるじ様!」


 時間は化け物の味方なので、俺はすぐさま飛び出す! シュリは俺の後ろに続いてかけてくる!


 化け物はそれに合わせて、爪をサーベルの様に伸ばして薙ぎ払ってくる。ここでジャンプして避けるのは悪手だ。二撃目が来たら避けられない、かと言って、いくら俺でも巨人のような化け物の一撃を受け止めるのは不可能だ。


 では、どうするか!?


 逆に加速して相手の懐に潜り込むしかねぇ!! 


 俺は足の裏にエアバーストの魔法を使って一気に加速する。そして化け物の顔目掛けて剣を突き伸ばす!!


「くらぇぇぇ!!!!」


 囮のつもりであっても、敵に隙があれば俺が本命になって敵に食らいつく!


 だが、敵の顔面まであと少しという所で、まるでゲップでもするように、下腹から込み上げてきた高濃度の魔素を吐き浴びせてくる。


「ヤベッ!!!」


 このままでは高濃度の魔素をモロの浴びてしまうと思った俺は、咄嗟に体勢を変えて床を滑るようなスライディングの体勢を取る。


「あるじ様!!!!」


 その状況をジャンプして上空から見ていたシュリは思わず声を上げてしまう。


(馬鹿ッ! 声に出すな! 奇襲になんねぇだろ!!)


 ドラゴンの姿になって声を出すシュリの姿を見て、そう頭に過ぎる。


 敵の化け物もその隙を見つけて、ドロップキックをしようとしていたシュリに、解放されたバネの様に跳ねあがって頭突きを食らわせる。


「あっ!」


 シュリはその頭突きを躱そうと身をひねるが、化け物の頭から生えている角がドラゴン姿のシュリの太ももの鱗と表皮を切り裂いていく!


「クッ!!!」


 シュリは痛みで顔を歪ませるが、その仕返しと言わんばかりの手の爪で化け物の胸元を掻き殴る。


「クッソォォォ!!!」


 その姿に、俺も負けてはいられないと、剣の届く範囲に見える化け物の片足の親指から何本かを切り落とす。


 すると、化け物はそのまま前転して、化け物と俺の攻撃を仕掛ける前の位置が入れ替わり、俺のすぐそばに、人化したシュリが降りてくる。


「シュリ! 大丈夫か!?」


「大丈夫じゃ! あるじ様っ! ちょいと皮膚と鱗を切られただけじゃっ! それよりも…」


 シュリは血染めになったケープコートの太ももの部分を悔しそうな顔をしてみる。どうやらお気に入りの様だったみたいだな。


「シュリ…大丈夫だ… 戦いに買ったら新しいのを買ってやんよ」


 シュリに手を翳して、簡易回復魔法で出血だけは止めてやる。


「なっ! あ、あるじ様っ! まだ、戦いの最中じゃぞ!!」


 しまった…フラグみたいな事を言ってしまったな…


 しかし、ヤベェなぁ… 思った以上に素早いし狡猾だ… しかも再生持ちときていやがる… それに比べてこちらは魔素の中で継続ダメージを受けている状態だ… かなり分が悪い…


 魔法攻撃で対応できるのならやってしまいたい所であるが、こう魔素が濃い状態だと、どんな反応をするのか分からないし、最悪、魔法と魔素が反応して暴発…下手すれば大爆発するかもしれん… 今は自分の身体に掛ける魔法が精一杯の状態だ…


「ちょっと、まだ考察段階だが…アレをやって見るしかねぇな…」


 俺は舌なめずりをして再び化け物に剣を構えた。








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