第201話 更なるトラブル

「えぇ~ 少々トラブルが御座いましたが、学術研究発表会を継続いたします!!」


 司会が拡声魔法で発表会を再開を告げ、ステージを覆っていた幕が引き上げられていく。


「僕がもっと思慮深く、慎重さがあれば…学園長から失望され見限られる事もなかったのに… 僕は何て馬鹿なんだ…」


 ステージの横の待機場所で、再開される発表会を眺めながら、ディートがポロポロと大粒の涙を流しながす。


「おい、泣くなよディート… 改めて言うが、あの爺さんはお前の事を責めていたんじゃない… 逆にお前の事を過小評価していた事を、爺さん自ら反省していたんだよ…」


「で、でも…」


 今までのディートは、何処か達観していたような、子供であることを止めた子供… 大人にならざる得なかった子供の様な雰囲気を醸し出していたが、こうして大粒の涙を流しながら泣きじゃくる姿を見ると、やはり年相応の子供だったという事だ。


「正直、爺さんたちの前だけで、発表していたら、爺さんたち総出で喜んでお祝いしてくれただろう… だが、発表会ってのがマズかったな… 収納魔法ってのは、誰もが憧れていたが成しえなかった技術だ、そこへお前が成しえてしまったのだから、お前の身を狙うものが増えてくる…だから爺さんはお前の事を心配しているんだよ」


 まぁ、なんとなく収納魔法を開発して、何気なく使っただけなのにこんな大事になるなんて、普通は思わないよな…そう言って俺は泣きじゃくるディートの頭をワシワシしてやる。


 俺にワシワシされながら一頻り泣きじゃくると、落ち着いてきたディートは、顔を上げる。


「ぼ、僕はこれから…どうなるのでしょうか…」


 少し、ひっくとしゃくりながら俺に尋ねてくる。


「うーん、爺さんたちには嫌われた訳ではない、逆に認められた存在になった訳だが… その安全体勢の観念から、少し自由は無くなるかもしれんな… まぁ、俺も掛け合ってやるから心配すんな」


 気休めだと分かっているが、それでも俺は気休めの言葉をかけてやる。


「さて! 次の発表者は55番!」


 ステージの方から司会の声が響き、少し会場からどよめきが起きる。そのどよめきに視線をステージに向けると、いつも俺にウザ絡みをしてくる例の王女の姿があった。


「あの女… いっちょ前に発表会まで出てくるのかよ…」


「…あ、あのリドリティス王女は…アシヤ先生にも絡んでいたんですか…?」


 泣き止んだディートが赤くなった目を擦りながら話しかけてくる。どうやら精神的にも少し落ち着いたようだな…


「にもって…お前も絡まれていたのかよ…アイツ、マジでうざいだろ…ご愁傷様だな…ディート…」


 あの女のお陰で、ディートと変な仲間意識が芽生える。


「55番はどんな発表を!」


 司会があの女に尋ねる。


「フフフ、私は発表は、長年の間、人類が希求してきた物…無限に魔力を生み出す装置よ!!」


 そう言ってあの女は掌に載せていた香炉らしきものを天高く掲げる。


「無限に魔力を? そんなものが存在すんのか?」


 俺は訝しんで声を出す。


「いや、体内に魔力を保有するのも限界がありますし、物質をマナ変換するのも無限とは呼べません、大気中のマナだってそうです… だから理論的にはあり得ません…」


 ディートが俺の言葉に補足説明をしてくれる。


「口で言っても解らないと思うから、この無限の魔力を使って、この寒冷なカーバルの地を南国に変えて差し上げますわ!!」


 そう言ってあの王女は無限の魔力を使って天候・気候魔法を使う事を宣言する。確かに普通の一瞬で終わる攻撃魔法と違って、長時間・継続的・広範囲で使用する天候・環境魔法には膨大な魔力が必要だ。個人でも膨大な魔力・環境条件さえ整えば、雨乞いぐらいは出来るが、恒久的な天候や気象を変更することは出来ない。


「さぁ! 皆目しなさい!! このリドリティスが歴史に名を残す瞬間を!!」


 そう叫んで、香炉片手に天に手を翳す。するとあの女から光の柱が天に向かって迸り、俺達だけではなく、観客も光の柱が包み込んでいく。そして、その光の柱に包まれると、先程まで肌寒く感じていた気温が、少し汗ばんでくるほど暖かくなり、どんよりと空から垂れていた鉛色の雲が掻き消され、晴れ晴れとした青空が広がっていく。


「マジであの女! この規模の天候・気候魔法を使いやがった!!」


 天候・気候を変える光の柱は、この会場のみならず、この学園全体・学園都市全体に広がっていく! このレベルの天候・気候魔法は流石の俺でも無理なレベルの範囲だ!


「信じられないです! こんなの国家レベルでの儀式魔法でも不可能な事ですよっ! 彼女は本当に無限の魔力を手に入れたのか!?」


 ディートもあの女の魔法には驚愕して、赤く泣き腫らしていた目を皿の様に見開く。


「でも、マジでこれだけの魔法を支える魔力が、あんな小さな香炉から生み出されるのか!?」


 俺は目を凝らしてあの女を見る。


「確かに… 例え無限の魔力を発生できるとしても、その装置が材質的に耐える事が出来るかは別問題ですからね…」


 ディートもあの女を凝視する。


 だが、その前に審査員であった爺さんたちが座席から立ち上がり声を上げる。


「いかん!! それはダメじゃ!! 通常の魔力ではない!!!」


 ディートの収納魔法を見た時よりも、険しい表情をしている。



「それは…それは!!! 魔界の魔素を解放させておるだけの物じゃ!!!!」



 ピキッ!


 爺さんが叫んだ瞬間、あの女の持っている香炉にひびが入る。



「ダメじゃ!!! アレが割れたら… アレが割れたら!! 魔界が現世に溢れだすぞ!!!!」



 パッキィィィィーン!!!!!


 

 爺さんの警告は空しく、香炉の砕ける音が会場に響き渡る。


 その瞬間、香炉より禍々しく、どす黒い霧が、まるでボイラーが破裂して吹き出す水蒸気の様に溢れだした。



  





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