第199話 エンターテイメント学術研究発表会
「んんっ~~~!!! これは冷たくて甘良くて美味しいのじゃっ!」
右隣でシュリがかき氷を食べて、お馴染みのキーン状態を味わいながら、歓喜の声を上げる。
「おいおい、かき氷食うのはいいけど、シュリ、お前、冷たいの大丈夫なのかよ?」
俺は心配しながらシュリを見る。
「たかがかき氷ぐらいでわらわが…あれ…なんだか段々眠たくなってきた…」
「やっぱダメじゃねぇかっ! お前、いい加減に自分が平温動物であることを自覚しろよっ! ちょっと、誰か! シュリに暖かい飲み物を買ってきてくれないかっ!」
俺はぐったりし始めるシュリを支えて、声を上げる。
「分かりました! キング・イチロー様、私が買ってまいります」
「あぁ、済まねぇなアルファー、頼む」
すぐにスクっと立ち上がるアルファーに小銭を渡して買出しを頼む。
「シュリが好き嫌いなんて珍しいですね…」
左隣のカローラがキュウリの一本漬けを齧りながら口を開く。
「いや、これは好き嫌いの次元じゃないだろ… それよか、カローラ、お前、牛串焼きにニンニク使われていたみたいだけど、大丈夫だったのか?」
「あぁ、吸血鬼が嫌いと言われているニンニクですか… あれは他人のニンニク臭い息が嫌いなだけで、少量なら食べても大丈夫ですよ」
カローラはケロッとした顔で答える。
「えっマジか?」
俺は目を丸くする。
「えぇ、そもそも吸血鬼伝説って、出所の分からない噂話みたいなのが多くて、吸血鬼である私から言うと的外れなものが多いんですよ… 例えば、首を切り落としたら死ぬとか、心臓に杭を撃ち込んだら死ぬとかって… 普通の人間でも同じですよね?」
「まぁ…確かにそうだな… でも不死性がだな…」
「それは人間でも手を切って、ちょっとだけ血を流しても死にませんけど、多量に流したら死ぬでしょ? 吸血鬼もその上限が高いように見えるだけで同じですよ…」
なんだか表面だけは金持ちの様に見えて、中は火の車みたいなもんか… となると、吸血鬼の連中は自分がヤバい状態になっていても、まったく効果が無いかの様にやせ我慢というかポーカーフェイスをしていただけなのか…
「キング・イチロー様、買ってきました」
アルファーがシュリの分だけではなく、マリスティーヌも引き連れて人数分の暖かい飲み物を買ってくる。
「おっ、すまねぇなアルファー、よっとっ ほら、シュリ、暖かい飲み物だ、飲め!」
シュリの肩を抱いて、その口元に暖かい飲み物を流し込んでやる。
「…んっ… なんじゃ…? わらわはどうしておったのじゃ?」
身体の中から温まって、シュリが目覚め始める。
「お前はかき氷を食って体温下がって、また冬眠しかかっていたんだよ」
「そうか、わらわはまた眠りかけておったのか… 残念じゃのう…これではかき氷は食えん…」
「夏まで我慢しろ…」
そう言って俺はシュリのかき氷を取り上げて、残りを一気に掻きこむ。
「ところであるじ様よ」
「なんだ?」
俺は頭をキーンとさせながら答える。
「わらわたちはここで好き勝手に飲み食いをしておるが、元々ここは何かの会場じゃろ? あのステージでは何をやっておるのじゃ? わらわにはよう分らん」
シュリはそう言って、ステージを指差す。
「あぁ、あれは学術研究発表をやっているらしいんだが…」
俺もステージに視線を向ける。学術研究発表って言うぐらいだから、俺はデカい黒板にパワーポイントで作った資料みたいなのを表示させながら研究者が発表するものだと考えていたのだが… そんなものとは全く趣が異なる。
何て言うか、その…昔、TVでやっていた欽ちゃんの仮装大賞に近いノリで発表が行われている。
「15番! 自身の質量を超えた存在への変化魔法を披露します!!」
すると術者は必死に呪文をとなえ始め、萎んだ風船に空気を入れる様に大きくなって姿を変えていく。そして、ステージの上には巨大な少女の姿が現れる。
「審査員の皆さま、感想をお願いしますっ!」
ロリコン爺さんの部下が司会をやっており、ステージの端にならんだ七賢者の爺さんたちに感想を求める。
「ディティールがまだまだ甘いのぅ~」
「パンツが縞パンではないので減点じゃ」
「どうせなら金髪の碧眼の幼女にせい!」
「私としてはロリ巨乳が良かったのだが…」
「また女の子なの? 私はそろそろガチムチがみたいわぁ~」
「どうして猫耳を生やさんのだ!」
「そんな服ではボディーラインが分らんだろうが! どうせ少女の裸など見た事無いから作り込めんのだな…」
いや、化けた少女の姿じゃなくて、術そのものについて感想してやれよ…ってか、お前ら公式の場でマジでそんな事を公言しているのかよ…
「では! 採点をお願いしますっ!」
司会が声を上げると、爺さんたちが手元のスイッチらしきものを操作して、ステージの横に備え付けてある巨大な採点バーが下から点灯していく。
パッパッパッパパパパッ!
最初の内は勢いよく点灯していくが、合格点と思わしきバーの直前で勢いが鈍くなる。
「あと少し! あと三点だ! 合格できるか!?」
司会がバーをじっと見守るが、採点バーは合格まであと三点という所で完全にとまってしまう。
カァ~ン! フワンフワンフワァ~♪
「残念! 15番、不合格の17点!!」
ホント、爺さんたち、フリーダムに生きてんなぁ~ もっと真面目に生きてもいいんじゃないか?
15番の発表者は項垂れながらステージの上を後にする。
「なんで、大きな少女になんぞに変身したんじゃ?」
シュリがたこ焼きを食べながら口にする。
「あぁ、あれはまだ術が上手くコントロールできないので、お爺さんたちの趣味に合わせて点を貰おうとしたんですよっ でも詰めが甘かったですね」
シュリの疑問にマリスティーヌがモリモリと唐揚げを食べながら答える。
「マリスティーヌ、お前、良く分かるなぁ~」
「えぇ、15番の彼は同級生ですから、相談されたんですよ」
ってことは、あの15番が大きな少女になったのはマリスティーヌが原因か…
「しかし、相談されたという事は、同級生とは結構仲良くしているんだな?」
「あぁ、どういう訳か色々と相談されることが多いですね~ なんでも私が偏見の無い公平中立な視点を持っているという事で、忌憚のない感想が聞きたいって言われるんですよ」
うーん、マリスティーヌは森育ちで確かに俺達が普通と思っている常識を知らない事が多いが、逆にその事が常識に囚われない柔軟な意見と見做されているのか…
その後も、ステージの上では学術研究発表の様なものではなく、殆ど忘年会の一発芸みたいなものが発表されていく。
そんな中でも見てて楽しい物や、ちょっと頭を捻れば他の使い方がある物、全くお話にならないものなど、色々とあった。
「うーん…」
「どうしたんですか? イチローさん、お腹空いたのですか? だったら、イカ焼き食べます?」
唸る俺に、マリスティーヌがイカ焼きを頬張りながら、俺にイカ焼きを差し出してくる。
「いや、腹が空いた訳ではないが…まぁ、一応イカ焼きは貰うけど… ディートがいただろ?」
俺はマリスティーヌが差し出したイカ焼きを受け取る。
「えぇ、それがどうしました?」
「アイツがホースフラワー取りに行くときに学術研究発表で一位を取らないといけないって言っていたんだが… この大会で一位取る意味ってあるのかって思ってな…」
そう言ってイカ焼きを齧る。
「ディートさん、そんな事を仰っていたんですか… なんだか目的と手段が入れ替わっている感じですねっ」
なんだかんだ言って、マリスティーヌは物事の本質をよく見抜くな…
「それは俺も思う… さて、ディートはこの学術研究発表会で何を発表するつもりなんだろうな…」
俺はディートの番が来るのを見守った。
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