第198話 お祭り満喫

「あるじ様!! ほれ! あそこに牛串焼きなるものがあるぞ!」


 そうはしゃぎながらシュリが俺の手をグイグイと引っ張る。


「分かっているから走るなシュリ! ってか、お前、本当に肉が好きだな~」


 すると今度は、迷子にならないように負ぶってやっているカローラが騒ぎ出す。


「イチロー様! あそこですよ! あそこ! カードくじ!! 速くいかないと、レア無くなっちゃいますよっ!」


 そう言って鼻息を荒くしながらカードくじ屋を指差す。


「大丈夫だっ! 祭りは始まったばかりだから、そうそう無くならないってっ、慌てんなよ」


 カローラにそう答えていると、腰に結んでいたロープがグンッ!とシュリとは別な方向に引っ張られる。


「こら! マリスティーヌ! お前は勝手に動くなって言ってんだろ!」


 いう事を聞かない犬の様に別の屋台に向かってカサカサと足を動かすマリスティーヌを叱りつける。


「だってっ! イチローさん! リンゴ飴とかいうものがあるんですよっ! 私、あれが欲しいですっ!」


 マリスティーヌは涎を垂らしながら瞳を輝かせる。


「分かった買ってやるから待て! お前は朝一で屋台を楽しんだんだから、今度は皆の番だ」


「分かりました…でも、絶対ですよっ!」


 マリスティーヌは納得したようで、トボトボとこちらに戻ってくる。しかし、マリスティーヌをロープで結んでおいて正解だった… こいつは何もない森で育ったから、何を見るのも新鮮で好奇心がくすぐられるのであろう。だが、落ち着きが無さすぎる…


「うわぁ~♪ あるじ様っ! 牛串焼きの他にも豚串焼きもあるぞっ!」


 シュリが爛々と瞳を輝かせて屋台を覗き込む。


「シュリ、牛も豚も人数分買っといてくれ、カズオ、アルファー、お前たちも食うだろ?」


「はい、頂きます、キング・イチロー様」


「コォホォォォ~」


 アルファーはちゃんと言葉で答えるが、カズオは以前と同じように呼吸音で答える。これ、食べるって事でいいんだよな?


「それでは、あるじ様、わらわ、カローラ、マリスティーヌ、アルファー、カズオにポチ…七人分じゃな、一人二本づつ頼めばよいか?」


 シュリは指折り数える。


「いや、他の物も食べて回るから、一本づつでいい、それでも食べ足りなかったら、後からまた回ればいいかな」


「わかったのじゃ、あるじ様っ 屋台のおやじよ、牛串焼きと豚串焼きを七本づつじゃ!」


「あいよっ! 嬢ちゃん可愛いから、特別に大きなのを包んでやんよっ!」


「わーい♪ 嬉しいのじゃ♪」


 シュリはホクホク顔で包みを受け取り、俺は屋台の親父に支払いを済ませる。


「ほれ、皆も暖かい内にくうのじゃ」


 シュリが皆に串を配っていき、俺も最後に串を受け取る。


「やっぱ、屋台が始まったばかりの焼きたてが美味いなぁ~ 終わりかけだと、焼き過ぎてカビカビになってるからな、所で、カズオもアルファーもお前たちも行きたいところがあれば言えよ」


 俺は串をがっつきながら、二人にも意向を尋ねる。


「ありがとうございます、キング・イチロー様。私は皆さんについて回るだけでも十分たのしんでおりますので」


 アルファーは謙虚に答える。


「コォーホォォ~ コホ コォ~ホォォォ~」


 カズオは正直、何言ってんかわからん… まぁ、良いだろう…


「イチロー様! じゃあ、次は私の番ですよっ! カードくじ! カードくじ!」


「おう、分かった分かったから、背中ではしゃぐな」


 カローラが串を持ちながらはしゃぐので、背中や後頭部がべとべとにされそうで怖い。


 そんな訳で、俺達は串を頬張りながらカードくじ屋に進んでいく。目的のカードくじ屋は屋台の天幕の所から何百本の紐が垂らされており、その紐を引いて引き上げられた品物が貰える仕組みであるようだ。異世界でも現代日本と同じことをする輩がいるのか…


「さぁ! いらっしゃい! いらっしゃい! カードくじだよっ! 大当たりは! な、なんと『がんばルルイエ』だ!」


「イチロー様! イチロー様! 大当たり『がんばルルイエ』ですよ!」


 カローラの物凄い鼻息が俺のうなじに当たる…


「カローラ…お前はくじを引く事が楽しみなのか…それともレアカードを手に入れる事が目的なのか…どちらだ?」

 

 俺は肩越しの背中のカローラに尋ねる。


「もちろん! 後者ですよっ!」


 カローラはガッツポーズで答える。


「よし…」


 俺は決意して屋台の前に進み出る。


「オヤジ、カードくじ一回いくらだ?」


「1回大銅貨1枚だよぉ! レアカードも当たるよっ!」


 一回大銅貨1枚って、日本円にして1000円ぐらいかよ…ぼりやがって…


「分かった…」


 俺は短く答えると、一気にくじの紐を全部引っ張る。


「なっ!!?」


 想定外の俺の行動に、カードくじの親父はこの世ならざる者でも見たかの様に驚愕する。


「安心しろ、本数を数えてちゃんと料金は払ってやる…あれ?」


 俺はわざとらしく首を傾げる。


「おっかしぃなぁ~ 全部引いたはずなのに… 大当たりの『がんばルルイエ』のカードが上がってこないぞぉ~ 一体、これはどういうことなんだぁ~」


「っち…」


 カードくじの親父が舌打ちをすると、店舗のうらから柄の悪そうな連中が、ワラワラと湧き出してくる。このあたりも日本と同じだな~ だが…


「コォ~ホォォォォ~ コォホ コォホォォォォ~」


「うぅ~! わぅ!」


「(コクコク)」


 柄の悪い連中が、カズオとポチ、そして骨メイドのヤヨイと目が合う。


「………」


 そのまま無言ですごすごと店の裏に戻っていく。


「で、オヤジ…『がんばルルイエ』のカードはどうなんだ?」


 俺が再度、尋ねると、カードくじのオヤジは青い顔をしてプルプルし始める。そこで、俺はニヤつきながらオヤジに顔を寄せて耳打ちをする。


「『がんばルルイエ』のカードを渡せば、イカさましていた事は黙っといてやる…それどころか、『がんばルルイエ』のカードが当たったって宣伝してやるぞ? どうするんだ?」


「わ、分かりました…それで手を打ってもらえますか…」


 そう言ってカードくじのオヤジは項垂れる。その言葉に俺はフッと笑うと、展示されている『がんばルルイエ』のカードケースをつかみ取る。


「やったぁ! 『がんばルルイエ』のカードがあたったぞ~!!」


 俺はワザとらしく、大きな声をあげる。


「さぁ、カローラ、これでいいだろ?」


「さすがイチロー様ですね…参考にさせて頂きます」


 カローラは時代劇に出てくる悪徳商人の様な顔でカードを受け取る。


「どっちが悪人か分らんようなやり方じゃのう~」


 シュリは豚串焼きをモグモグさせながら、感想を述べる。


「ちゃんと目的のカードを引き当てる事ができたら、俺もちゃんと金を払ってやるつもりだったぞ? でも、そうでなかったので、天罰を食らわせただけだ」


 まぁ、最初からイカさましていると思っていたがな…


「さぁ! イチローさんっ! 次は私の番ですよっ! リンゴ飴行きましょうよっ! リンゴ飴っ!」


「だから、紐でつないでいるんだから走るなっ! マリスティーヌ!!」


 その後も、俺達は団体で屋台を回っていく。食べ物だけではなく、金魚の代わりの『オタマジャクシすくい』や射的、お面屋などを楽しんでいく。


「お前ら…えらいがっつくな…食い物だらけで、両手が塞がって身動きがとれん… どこかで腰を降ろしてゆっくりと食うぞ」


「キング・イチロー様、それでしたらあそこはどうでしょうか?」


 そう言って、アヒルのお面を頭につけたアルファーがとある会場を指差す。何故、アヒル…


「あそこって…あの場所が学術研究発表会の会場なのか… 室内の講義室の様な所でするのかと思えば、野外でするんだな… しかも、なんだか遊園地のヒーローショーみたいな会場だし… まぁ、座って落ち着ければいいか…」


 そんな訳で、俺達は屋台で買い漁った食べ物を抱えて会場へと向かったのであった。





 

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