第181話 決闘大会の結末

 その頃、ステージの上の俺は軽い疲労感を感じていた。流石に素人相手だとしても、この数は多すぎる…もう100人ぐらいは相手をしただろうか…一体、どんだけいるんだよっ!


 俺は視線を上げて挑戦者の列を見る。まだまだいるな…


 しかし、100人程戦ってみて分かった事だが、やはりこの学園の生徒達はまともに命のやり取りをしたことが無い素人揃いだ。


 中にはかなりの剣技に優れた者、魔術に優れていた者がいた。それぞれの大会に参加すればかなり上位に食い込めると思う。だが、ルール無用の実戦の現場で、命を懸けてやるかやられるかを体験したものは誰一人としていなかった。


 だから剣技の優れた者は剣技だけで対魔法の対策をしていない。魔術の優れた者は接近戦に対策していない。もしくは、実戦の現場で考えられる命の危険を脅かす物、剣などの物理、攻撃魔法、暗殺者の使う毒、対精神魔法、各種耐性魔法、虚実を織り交ぜたフェイント攻撃、剣と魔法を融合させた攻撃など、様々な対策を施さなければ、実際の冒険では生き残る事は出来ない。


 つまり、やはり箱入りの坊ちゃんもしくはお嬢ちゃんばかりなのだ。だから、俺が対策を怠っている所を突けば、強者と思われている連中もあっという間に蹴りがつく。こちとら人間だけではなく、普通に戦って人間では勝てないような相手と何度も戦って勝ちをつかみ取ってきた冒険者だ。負ける訳がない。


「次の挑戦者!」


 審判役の男が声を上げる。すると次の挑戦者は女生徒の様で、流れるような銀髪に鋭い目つき、両手に鞭を携え、不敵な笑みを浮かべている。


「誰の解放を望む!?」


「そこのマリスティーヌよ…私のペットにして、この鞭で可愛がってあげるわ…」


 そう言って妖艶にぺろりと鞭を舐める。


「だそうだ! マリスティーヌどうする!?」


 俺はトロフィーにされているマリスティーヌに尋ねる。


「イチローさん! 私、痛いのは嫌いなので断って下さい!」


「だそうだ」


 俺は女生徒に向き直って、マリスティーヌの意志を伝える。


「フフフ…彼女の意志なんて関係ないわ… 関係あるのは私の意志だけ!!」


 女生徒はそう言うと同時に両手の鞭を俺に向けて振るう。


 パシッ!パシッ!


「あっ」


 俺に目掛けて飛んできた二本の鞭の先端を両手で受け止める。


「どんくさくて非装甲の相手なら、鞭も十分有効なんだがな、手に対衝撃魔法を掛けて受け止めれば、この通りだ」


 俺はそう言うと、くいっと力を入れて、女生徒から両方の鞭を奪い取る。


「ちょっと!私の鞭…」


「ククク…俺、一度でいいから鞭使って見たかったんだよな…」


 今度は俺の方が不敵な笑みを浮かべる。


「い、いや、私は撃たれる方よりも撃つ方が…」


「問答無用!!!」


 俺はビシビシと女生徒に向けて鞭を振るい始める。


「いぃぃやぁぁぁぁ!!! やめてぇぇぇ!!!」


「ほほぅ~ 段々鞭の使い方が分かって来たぞ!! こうか!!」


 俺はただ鞭を浴びせるのではなく、出来るだけ衣装を剥ぎ取る様に鞭を撃つ。


「いやぁぁぁぁぁ!!! やめてぇぇぇ!! 降参!! もう降参よぉぉ!!!」


「いや!! まだだ!!! 後一枚!! 後一枚なんだ!!!」


 俺は女生徒が降参の声を上げても、後一枚残った下着の為に鼻息を荒くして鞭を振るい続ける。


 だが、あと一撃加えれば、全て剥げてすっぽんぽんとなる直前に、鞭が女生徒の前から弾かれる。


「イチロー!! お主、ちとやりすぎじゃ!!」


 声の方向に視線を向けると、ロリコン爺さんが立ち上がって、シールド魔法を掛けている姿が映った。


「ちっ! 分かったよ…」


 俺は振り上げていた鞭を降ろす。


「く、悔しい…でも…」


 女生徒はほぼ全裸で床に横たわりながらビクンビクンと身体を震わせる。


「勝者アシヤ・イチロー!! 次の挑戦者!前へ!」


 すると今度も両手に鞭を持った、流れる様な銀髪で鋭く澱んだ目つきの太った男の生徒がステージに姿を現す。


「誰の解放を望む!?」


「そこのマリスティーヌを… この鞭で俺をぺちぺちして調教してもらいたい…」


 そう言って汚らしくにぺろりと鞭を舐める。


「だそうだ! マリスティーヌどうする!?」


 俺はトロフィーにされているマリスティーヌに尋ねる。


「イチローさん! 私、気持ち悪いのは嫌いなので断って下さい!」


 先程とは異なりマジで懇願される。


「だそうだ」


 俺はきもい生徒に向き直って、マリスティーヌの意志を伝える。


「フヒヒ…彼女の意志なんて関係ない… 関係あるのは俺のぶたれたい意志だけ!!」


 きもい生徒はそう言うと同時に鞭を振り上げる。


「えい」


 俺はそれと同時に、先程爺さんが展開していたシールド魔法を使い、そのままきもい男をステージの外へと追いやっていき、豚の様に転がり落とす。


「ぶひぃぃ!!」


「お兄様!!!」


 きもい男が転がり落ちた所に、先程の鞭女が駆け寄る。


「勝者アシヤ・イチロー!!!」


「あの二人、兄妹だったのか… にしても、兄妹二人であんな趣味とは…親が泣くぞ…」


 俺が小さく呟くと、観客席の方から罵声が響く。


「オースギ!! ピィコル!! 二人とも無様な姿を晒しよって!!!」


「お、お父様!?」


「お、親父…」


 罵声を浴びせられた二人が顔を真っ赤にして仁王のような男に向き直る。


「アレがアイツらの父親か?」


「貴様ら!! この後家に帰ったら鞭で百叩きだ!! 覚悟しろ!!」


「あぁ…子が子なら、親も親か…終わってんな…あの一家…」


「次の挑戦者!」


 審判役の声が響いた。


………


……



「次が最後の挑戦者だ!」


 審判役が声を上げる。


「漸くかよ…」


 俺は肉体的よりも精神的に大いに疲労していた。後半に行くにつれ、挑戦者の実力も上がっていたが、それに伴い変態度も上がっていった。流石はあの爺さんの学園の生徒だ…よくもまぁ、これだけの得意な人材が集まったものだ… というか、元々貴族には変態が多いのか?


 俺がそんな事を考えている間に、最後の挑戦者がステージに上がってくる。


「ん?」


 最後の挑戦者がどんな奴かと見てみると、おどおどとした感じの図書館に良くいるような眼鏡の女生徒だ。なんでこんな娘が挑戦してくるんだろ?


「挑戦者! 誰の解放を望むか!?」


「えっえっえっと…その… フェンリルを…」


 女生徒はおどおどとしながらポチを指差す。


「おぉまぁえぇかぁ~ おまえなのかぁぁ~!!! 俺の最愛のポチを寝取ろうとしている奴はぁぁ~!!!!」


 俺は地獄の底から鳴り響く地響きのような声を漏らして、俺のポチを寝取ろうとする女生徒ににじり寄る。


「ひぃぃぃっ!! だ、だって…あのフェンリルのポチちゃん、モフモフして可愛いですから…」


 眼鏡女生徒は俺の威圧に恐れ慄きながら、必死に弁明を始める。


「くぅ~ん」


「ん?なんだ?ポチ」


 当事者のポチが何か言いたそうなので、一度ポチに向き直る。


「わぅわぅわんわんわん!!」


「なんだって?いつも骨っこをくれるのか? この眼鏡が?」


「わう!」


 そうだと言わんばかりにポチが吠える。


「だから、手加減をしてやって欲しいと?」


「わぅ!」


 俺はとりあえず掴みかかろうとしていた腕を戻して腕組みをして、頭を捻って考える。


「俺からポチを寝取ろうとした者は許せないし、学園長の爺さんから手足の二三本飛んでも良いと許可を貰っている…」


「ひぃ!!」


 眼鏡女生徒は真っ青な顔をしながら短い悲鳴を上げて、小気味良いリズムでガチガチと歯を鳴らす。


「でも当の本人であるポチが手加減してやってくれというからなぁ~… よし!」


 俺はポンと手を叩く。


「では間をとって『相撲』で決めよう!」


「アシヤ・イチローさん…相撲とは?」


 審判役の男が聞いてくる。


「あぁ、相撲はお互いが組み合って、力でステージの上から押し出したり、転ばせて勝敗を決める競技だ。これなら怪我をしないし、俺の恨みを晴らせる」


 審判は今一意味が分からないといった顔をして眼鏡女生徒に向き直る。


「ということだが、これでいいか?」


「は、はい…生き残れるようなら…」


 眼鏡女生徒はイタチに追い詰められたひよこの様に答える。


「では、両者、相撲で勝負を付けたまえ!!」


「よっしゃ!!!」


 俺は掛け声がかかると同時に眼鏡女生徒に飛び掛かって掴みかかる。


「ひぃ!!」


 眼鏡女生徒は身を竦めるが、俺は素早くスカートの上からパンツの腰の部分を掴んで身体ごと引き上げる。


「ひぃっ! い、いやっ! ちょっと! 食い込んでる!! 食い込んでますって!!」


「食い込ませてんだよ!!!」


 そう言いながら、眼鏡女生徒の身体をざるで麺の湯切りをするように上下に揺らす。


「ちょっ! ちょっと!! 止めて下さいぃぃ! ホントやめてぇ!! 痛い! 痛いです!! 食い込んで痛いですってば!!」


「フハハハ!! 俺のポチを寝取ろうとした罰だ!!!」


 今度はカクテルを作る時のシェイカーの様に振りまくる。


「えげつねェな…………」


 試合を見ていた観客の一人が零した。


「スタァァァプ!! 止めろ!! もういいだろう!!!」


 俺としてはもっと続けたかったが、審判役の男からレフリーストップがかかる。


「勝者アシヤ・イチロー!!!」


 俺は眼鏡女生徒を降ろして、ポチの方に向き直り両手を高く掲げて勝利のポーズを取る。


「えっと…なんですか?あれ…」


 マリスティーヌが零す。


「イチロー様は勝利の高揚を示しているみたいですが…」


「主様史上、もっともカッコ悪い勝ち方じゃのう…大人気ない…」


「うぅ…もう私…お嫁に行けない…」


 眼鏡女生徒は股間を押さえながら、床の上でさめざめと泣き始めた。


 こうして『アシヤ・イチローから美女・美少女・美幼女を救う決闘大会』は俺の全勝で終わったのであるが、閉会式の時に、トロフィー代表としてカズコの歌唱コーナーがあったのだが…


「決闘をやめてぇ~♪ 二人をとめて~♪ あたしのためにぃ~♪ 争わないでぇ~♪」


 その歌詞とカズコの表情にめっちゃムカついた。


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