第179話 突然始まる決闘大会

 家具円の中庭の広場に開設された臨時の特設闘技場には、多くの観衆の生徒や教員、はたまた地域の住民までもが集まって、お祭り騒ぎの大はしゃぎで、群衆の喧騒が学園狭しと響き渡る。


 そんな喧噪の中心人物である俺は、天下一武道会でも開きそうな闘技場の傍には、俺の控え場があり、そこで俺はイライラとして椅子に座りながら、このメンドクサイ大会が始まるのを待っている。


「どうじゃ、心の準備は出来たか?」


 俺の背中から声がかかる。振り返って声の主を確認すると、このバカ騒ぎのもう一人の元凶であるここの学園長でもあるロリコン爺さんのニヤついた姿があった。


「こころの準備も何も、爺さんが無理矢理にこんな大会を開催して俺を参加させたんだろうがっ!」


 俺が爺さんに向かって吠えると、爺さんはニヤニヤしながら肩を組んできて、指で俺の頬をグリグリとし始める。


「おやおや? そんな事を言ってもよいのか? わしがこの大会を開いてやらねば、お主は四六時中、決闘を申し込まれることになっておったんじゃぞ?」


 確かにこの爺さんが大会の開催を早急に宣言して、女達を解放したくば、この大会に参加して勝利をつかみ取れと告知し、さらに大会以外で俺に決闘を申し込んだ者は退学処分にすると言い放った。だから、この大会さえ済めば、俺は今後一切決闘を申し込まれることはなくなったのである。


「それにじゃ、これを見てみぃ!! 決闘の参加料ならびに大会の見物料、屋台や出店の出店料がこの金額じゃ! この20%をお主に分けてやるぞ」


 そういって、書類を俺の前にチラつかせた。俺はそのチラシに記された金額に視線が引きつけられる。


「えっ!? この金額マジ!? この金額の20%も貰えんの!?」


「おぉ、そうじゃ、ここにいるボンボンどもは、王族や貴族の子弟じゃからのう~ 自身のプライドと自国、自領の権威の為にぽんっと出していったわ」


 俺は書類を掴んでマジマジと見る。


「これだけの金額があれば… ケース魔具店で欲しかったクーラーも魔熱コンロと冷蔵庫も買える…」


 俺は魔熱コンロと冷蔵庫、冷暖房完備になった馬車を想像してニシシと笑う。


「どうじゃ? お主にとっても悪い話ではないじゃろ?」


「そうだな…これなら毎週やったっていいな…」


 俺と爺さんの二人は時代劇に出てくる悪代官と悪徳商人の様な笑みを浮かべる。


「でも、その代わりにあのボンボンたちに怪我させないようにしないといけないんだろ?」


 俺は気持ちを切替て、闘技場を挟んで迎え側にたむろしている参加者の生徒達を見る。


「うんにゃ、そこまで気を遣わんでええよ、最悪、殺しさえしなければよい」


「えっ!? 爺さん、何言ってんの?」


 爺さんの言葉に、生徒を怪我させないように気にかけている俺の方が驚く。


「いやいや、人生一度ぐらい痛い経験をしてみるものじゃ、普通なら痛い思いをするのは大体人生の終わる時に等しいが、ここなら痛い思いをしてもわしらが手を差し伸ばして立ち上がる手助けができるからのぅ~」


 爺さんはただの変人だと思っていたが、ちゃんと思った以上に教育者だったんだな…


「まぁ、生徒の手足の二三本とんだところで、義手や義足の研究材料になるから悪くはないぞ」


「やっぱ、爺さん、あんたおかしいわ…」


 俺を中で上げた評価を元に戻す。


「さて、そろそろ時間じゃな…」


 爺さんはそう言って、俺から離れて立ち上がり、闘技場のステージへと上がっていく。そう言えば爺さんが学長だから開催の挨拶をするのか。


「えっと…」


 爺さんはステージの上に立って、拡声器の様な物をポンポンと叩いて音を確認する。


「ジェントルメェェェン エンド ジェントルメン!!」


 そこに爺さんの部下が駆け寄ってきて、女生徒もいますよと耳打ちする。観客の事かと思ったが、挑戦者側の席を見てみると確かに女生徒の姿もある。やはり、あの爺さんが学長だけあって、レベルたけぇな…この学園は…


「んんっ レディース エンド ジェントルメンッ!!」


 爺さんの仕切り直しの声が学園内に響く。


「本日は良く集まってくれた!! さて、ここにいる我が学園の臨時講師のアシヤ・イチローであるが…」


 爺さんがステージの上から俺を指し示す。すると途端に俺の向かいの挑戦者席の方から鋭い睨むような視線が俺に注がれる。


「数々の美女! 美少女! 美幼女! より取り見取りで取り揃えておる!!」


 その声に挑戦者席から一斉にブーイングが舞い上がる。


「そして、今日! この場所にはそんな彼女たちを解放するために、数々の勇者が名乗りを上げた!!」


 挑戦者席の生徒達が立ち上がってうぉー!!と雄叫びをあげる。


「見事アシヤ・イチローに勝利した暁には… 指名した女性を解放した後に告白する権利が与えられるぅぅぅ!!!!」


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」


 爺さんの声の後に会場全体からの怒号と歓声が地響きの様に響き渡る。しかし、折角決闘して勝利したのに所有権ではなく告白権でいいのか… まぁ、端から所有させるつもりも告白させるつもりもないのだがな…


「改めて告げるが、彼女たちを懸けた決闘は今回だけの話じゃ!! 今後、決闘を申し込んだ者は例外無く、退学処分にしてこのカーバルから追放することになっておるから心するように!!」


 爺さんはそう言い終わると、俺の方に向き直る。


「では! ホルダーのアシヤ・イチローの登場じゃ!!!」


 そう言って手を差し伸べるので、俺はすっと立ち上がり、『麗し』の衣装を纏いながら、爽やかイケメンキラキラ王子様フェイスを装いながら、ステージに上がっていく。


 それと同時に多くの男子生徒からの罵声と、女生徒の嬌声に似た歓声を一斉に浴びる。


「ふっ…持てすぎるのも問題だな… 野郎どもに妬まれるのはどうでも良いが、これから生まれる子供たちが全て俺の子孫になってしまう…」


 そう呟いて、さっとカッコ良くマントをはためかせる。


「主様よ…そんな事を考えておったのか…」


 ふいにステージの上座からシュリの声がする。視線を向けると、熨斗と紅白の水引を結われて優勝トロフィーの様に飾られたシュリ、カローラ、マリスティーヌ、アルファー、そして今回の問題源のカズコ…ついでにポチとヤヨイの姿まであった。


「シュリとお前ら…なんて恰好をしてんだよ… それよか、ヤヨイは兎も角、なんでポチまでいるんだ!?」


「くぅ~ん」


 ポチは申し訳なさそうに尻尾を垂れる。


「あぁ、ポチを欲しいというものもおったのでな、一応飾っておいたのじゃ」


 爺さんが答え、ヤヨイは兎も角といわれて、ガーン!って顔をする。


「どいつだ!!! 一体、どこのどいつだ!! 俺の大事なポチを寝取ろうとする奴は!!! タダではすまさん… タダではすまさんぞぉぉぉ!!!!」


 俺は攻撃力53万のあの御方の様に怒りを爆発させる。


「なんでじゃ!! なんでポチだけ、そんなに本気になるのじゃ! 贔屓! 贔屓じゃ!!」


「うるせぇ! ポチは俺の精神安定剤! いわば癒しなんだよ! 肥し系のお前らとは違う!!」


「あぁ~ いつものイチロー様ですね…」


 俺とシュリの言動に、カローラが他人事の様に呟く。その横では問題の張本人であるカズコが自分の為に俺が戦う事を知って、ヒロイン気分でほくほく顔をしている。


「くっそ! カズコの奴…女体化した状態を満喫してやがる…」


「それでは只今より『アシヤ・イチローから美女・美少女・美幼女を救う決闘大会』を開催する!!」


 爺さんの開催宣言が為されて、俺の戦いの火ぶたが切って落とされた。



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