第174話 講師イチローと謎の訪問者

「だからいいか? 世の中には確かに必要悪というものが存在する。一般人であれば、その存在を知らなくても関わらなくても大丈夫だ。だがしかし、君たちは将来的に、国や領地を治める立場の人間だ。だから、必要悪を知らない、関わらないとは言ってられない立場だ。それはわかるよな?」


 そう言って教壇の上から、教室の生徒を見回す。神妙な赴きで聞いている者もいれば、あからさまにそんな者には関わりたくないといった顔の者もいる。ちなみに最初に俺にイキってきた貴族は縮こまって俺の話を聞いている。少し脅し過ぎただろうか?


 その代わり、俺の初日の授業に参加していなかった、とある国の王女様とその取り巻き連中5人が、舐め腐ったイキリ態度で授業を受けている。ホント、大丈夫かよこの学園…いくらなんでもイキリ率高すぎるだろ… しかもあのその王女の国…人類連合所属の中でも下から数えた方がいいぐらいの小国じゃないか…なんで大国なみの態度とってんだ?


 まぁ、イキリ態度の女だが、流石に王女だけあって見た目は凄くいい女だ。取り巻きの連中もそこそこよい。そこだけは認めてやる。


 キンコーンカンコーン♪ キンコーンカンコーン♪


 話を続けようかと思っていたが、ここで授業終了の鐘がなる。ペース配分がまだまだだな… もっと、話を続けないといけなかったのだが、仕方がない。


「今日はここまでだな。次回、その必要悪についての関りについて話すからな、次回もちゃんと聞くように」


 生徒達にそう告げて教壇を降りると、出口に立つロリコン爺さんの部下らしき男と目が合う。この男とはシュリの骨付きあばら肉の件で何度も顔を合わせているが、個人的に話をすることは無い。何故なら、俺が女生徒を誑かさないかシュリに頼まれて監視役を引き受けているからだ。なので、俺から話しかけてもスルーをするし、向こうから話しかけてくることもない。


 授業が終わり、教壇を降りて出入口に向かうと、その男は安心したように胸を撫で降ろし、自分もロリコン爺さんの研究室へと戻っていく。やれやれ、ご苦労な事で…


 俺も自室に戻ろうとすると、後ろから声が掛かる。最近多い、例のイキリ王女の声だ。


「やはり、下々の物は社会の汚泥の中でしか生きられないのね」


「何だよ…また、お前かよ…今度は何を言いに来たんだよ」


 俺はいやいやながら振り返る。するとそこにはしたり顔で金髪縦ロールのザ・お貴族令嬢の王女とその取り巻き貴族令嬢5人がいる。


「貴方の仰っていた必要悪… 私の様な高貴で優秀な統治者のいる場所では、全ての場所に、私の栄光の光が行き渡り、闇の中でしか生きれられない必要悪など、居場所を失ってしまうわ」


「そうかよ、そうかよ、じゃあ、頑張ってくれや、まぁ、光が強ければ強いほど、そこの落ちる影も強くなるのもだがな… お前がそう思うならそうなんだろ…お前の頭の中ではな…」


「あら、私の頭の中だけではなく、世界の真理よ」


 そういって講師である俺にマウントを取って悦に浸っている様だ。


 くっそ、本当に面倒だな…野郎であれば、以前のイキリ貴族の様に脅してやるか、女ならアへらせていう事を聞かせるのだが、監視の目があるからそんな訳にも行かない。


「分かった、分かった、それでいいよ、じゃあ俺はもう行くから」


 王女の勝ち誇った顔に俺は背中を向けて、自室へと戻ろうとする。王女の方も言い負かしたつもりで満足したのか、俺とは逆方向の寮へと足を進める。


 しかし、その時、5人いる取り巻きの一人が、こっそりと俺の所に駆け寄り、俺の手を握り締める。


「ん?」


「では…」


 その少女は意味深な目配せをして、すぐに身を翻して王女の後を追いかける。


「なんなんだ?」


 ふと、少女に握られた掌を見ると、小さく折りたたまれた紙片がある。


「ん~ ん? んふふ…」


 俺はニヤリと口角を上げて、るんるん気分で自室へと急いだ。




「おーい、帰ったぞぉ~~」


 俺が勢い良く自室の扉を開き、部屋の中へと進んでいく。


「あっ旦那様!」


 キッチンの方からカズコの少し困った様な声が響く。


「ん? どうしたんだ? カズコ」


 俺は堅苦しい『麗しの』衣装を緩めながら、キッチンの様子を覗く。


「あっ」


 キッチンに並べられたものを見て、俺は思わず声を漏らす。


 キッチン周りに、パン粉の山、小麦粉を溶いた生地のボウル、猪の切り分けられたロース肉とひれ肉… これは… とんかつをする準備…だな…


「これ…カズコがやったの…か?」


 俺の言葉にカズコは慌てて首を振る。


「あ、あたしが戻って来た時にはもう、既に準備が…」


 たじたじになって説明するカズコ… まぁ、こいつがするわけないわな…こんな事をするのは…


「マリスティーヌ!! マリスティーヌはどこだ!!」


 俺は怒鳴り声を上げてキッチンからリビングへと戻り、マリスティーヌの部屋へと向かう。


「主様、何を騒いでおるのじゃ」


 そんな時、背中からシュリの声がかかる。


「おっ、シュリか、マリスティーヌを見かけなかったか? って、ん?」


 そういって後ろを振り返ると、風呂場から上がって来たばかりの、薄着のシュリの姿があった。薄着といっても下着姿ではなく、いつもよく着ている様なワンピースだ。だが、俺が目を奪われたのは…


 胸だ…以前のシュリはこんなにデカくなかったはず…一体どういうことなんだ? 

 身長はそのままで、その身長には似合わないたわわな胸… ロリ巨乳というかトランジスタグラマー加減に磨きがかかっている… 


 しかも湯上りで火照った身体に、ブラジャーを付けないワンピースだけの姿… 頭にバスタオルを被りゴシゴシと髪の毛を拭いている状態なので、腕を上げた脇から、たゆんたゆんと揺れる横乳が見える。えげつない破壊力だ…


 このシュリのえげつない成長は、恐らくあのロリコン爺さんの所へ行って、毎回、御馳走されている骨付きあばら肉の栄養を、擬態変化のコントロールが出来る様になったので、胸に巨乳成分を集めているのだろう…やってくれるじゃねぇか…あの爺さん…


 俺は断じてロリコンではないが…この乳は揉んでみたくなってくる…だがしかし… 冷静になって考えれば、シュリの奴、乳首無いんだよな…


 乳首の無い乳はただの脂身…


 そう考えると、伏臥上体逸らしの準備に取り掛かっていたマイSONは、しなしなと通常状態へと戻っていく。


「どうしたんじゃ?主様?」


 俺の悩みを知らないシュリはキョトンとした顔で首を傾げる。


「いや、なんでもねぇよ… それより、シュリ、マリスティーヌを知らんか?」


「マリスティーヌ? わらわは見とらんのう…」


 そこでシュリは風呂場の方に向き直る。


「カローラよ、お主、マリスティーヌを見とらんか?」


「えっ!? マリスティーヌ? 私、見てないよぉ~」


 脱衣所の方からカローラの声が返ってくる。


「だそうじゃ、どうしたんじゃ? 主様よ」


 そう言って、俺の側に来て見上げてくる。大きく開いた胸元から胸が覗き込めそうになるのだが、元々乳首が無い事を知っているので、アイドルのイメージビデオで乳首が見えないかどうか一時停止をして探す様な楽しさを感じられない…くっそ!


「いや、どうやら、マリスティーヌがまたかつ丼をつくる準備をしていたみたいなんだよ…ほら、あそこに…」


 そう言って、シュリの胸元から視線をキッチンに向けて逸らせて誘導する。


「ほんに、また大量に用意したようじゃのう~ で、準備したままでマリスティーヌの姿が見えぬと?」


「そうだ…しかし、アレをどうしたものか…」


 そこで、この部屋の扉がノックされる。


「もしかして、マリスティーヌが返ってきたのか?」


「マリスティーヌが自室にノックして入ってくるような上品な奴じゃねぇから、きっと追加の買出しで両手がいっぱいになっているに違いない…ちょっと叱ってくる!」


 そう言って、俺は肩を怒らせながら大股歩きで扉へと向かい、勢いよく扉を開け放つ。


「こらぁぁ!! マリスティーヌ!! あれほどかつ丼を作るなっていった… だれ?」


 怒鳴り声を上げた俺であったが、扉の向こうにいた人物に、ボリュームを下げる。


 そこには、シュリと同じぐらいの身長で、だるだるのローブを纏った少年の姿があった。








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