第173話 どうして致さんのじゃ?

 色々な事があったが、この学園での生活が1週間程過ぎた。俺の臨時講師としての役割も、順調に果たしているし、シュリやカローラの研究の手伝いも順調のようだ。アルファーの方も時々、セクハラじみた事をさせられそうになるが、この辺りは、アルファー自体、マリスティーヌとは別の意味で羞恥心が無い事と、人間の習慣等を知らないので、俺が足繁く監視に回り、全て未遂で終わっている。

 

 だが、カズコに関しては実際何をやっているのか分からない。いつ行っても、周りに人だかりが出来て、ちやほやされている様子しか見てない。しかもカズコ本人がまんざらでもない顔をしている。なんだか複雑な気分だ。


 次にポチに関してだが、あの事件以来人化はさせていない、あのおっさんの方も新たな見本となる人材を用意できていないようだ。また、俺自身もポチに対して『おっさん、ダメ、ゼッタイ』と言い聞かせて、二度とあの人化をさせないように言い聞かせている。

 例え、俺自身があの知らないおっさんの姿に慣れて、いつも通りにポチに接したとしても… 俺が知らないおっさんにペロペロされながら、俺が知らないおっさんをモフモフする…ないわぁ~ めちゃくちゃないわぁ~ ってかまたサブイボが立ってきた…


 俺はそんな事を考えながら、可愛いフェンリルの姿のポチを丁寧にブラッシングしてやる。


「そう言えば、イチロー様」


 リビングのソファーに座りながら、ミルクをがぶ飲みしているカローラが声をかけてくる。カローラがミルクをがぶ飲みするのは、実験でおかしな血を飲まされているので、その口直しだそうだ。


「なんだ? カローラ」


「あんな事があったのに、ポチとは普通に接するんですね」


「そりゃ、俺のお気に入りのポチだからな、おっさんの姿にならなきゃ、普通に接する」


「わう!」


 ポチは俺の言葉に反応して尻尾を振る。


「では、主様」


 今度は、図書館で借りてきた本を読んでいたシュリが本から顔を上げて声をかけてくる。


「なんだ? シュリ、また贔屓とかいいだすのか?」


「いや、それを言うと、主様はわらわを犬扱いし始めるから言わぬ… それよりも…」


 シュリがそう言いかけた所で、リビングと繋がっているキッチンからカズコの声が響く。


「みなさーん、夕食ができましたよぉ~♪」


 超ご機嫌でるんるん気分のカズコとヤヨイが、大きなトレイを持ってやってくる。


「おっ、出来たか、じゃあ飯にするか」


 俺はポチのブラッシングの手を止めると、ソファーへと進み、どっしりと腰を降ろす。


「だ、旦那様、こちらおしぼりですっ、私がお拭きしますね」


 右隣にカズコが身を寄せる様に座ってきて、俺の右手をおしぼりで拭き始める。


「コクコク」


 左隣にはヤヨイが同じく身を寄せる様に座ってきて、俺の左手をおしぼりで拭き始める。


 二人係で俺の手を拭き終わると、今度は二人今日の料理を俺の目の前に突き出してくる。


「はい、旦那様ぁ~ 今日の夕食のアツアツ肉たっぷりピザですよ~ アーんしてください(ハート)」


「コクコク」


 二人して、ほくほくと湯気がまだ上がって、チーズがとろとろのピザを俺の口元へと持ってくる。


「い、いや、自分で食うからいいよ… お前らはお前らで食えよ」


「コクコク」


 俺がそう言うと、食事を取らないヤヨイの方が、カズコに対して、『そうだ、あっちに行け』と言わんばかりにカズコを手で払う。


「いや、お前も俺に構うより、カローラの相手をしてやれよ、ほら…カローラが涙目になってんだろ…」


 俺がそう言うと、ヤヨイはしぶしぶ取り皿にピザを取って渡す。


「も、もう…誰も信じられない…私の信じられるのはカードだけ…」


 そして、カローラはミルク片手にやけ食いを始める。俺はそのカローラの様子に気の毒になって、カローラを俺の隣に座らせる。


「今度、またカードを買いにつれて行ってやるから機嫌を直せ」


「わ、わかりました…今度こそ、レアを引きます…」


 前回買った時にはレアを引けなかったんだよな…カローラ…なんだかカードにまで裏切られいるようで気の毒だ。


 後、俺のもう片方には、マリスティーヌを座らせる。これで両隣、カローラとマリスティーヌでカズコとヤヨイをブロックだ。


「で、マリスティーヌ、お前、学校の方はどうなんだ?」


 ピザの熱さにハフハフと言いながら、頬張るマリスティーヌに声を掛ける。


「楽しいですよ、今まで知らなかった事を色々と知ることが出来て、世の中ってこんなに色々な事があったんだって、分かりましたよ」


 そう言って、マリスティーヌは三枚目のピザに手を伸ばす。


「そうか、学校の生徒とは仲良くやっているか? 友達は出来たか?」


 俺もカズコとヤヨイの持って来たピザに、パパっとホットソースをかけて、口元に運ぶ。


「えぇ、休み時間には色々な人がやってきて声をかけてくれますね、後、よく食べ物をくれますよ」


 マリスティーヌの言葉は意外だった。俺は最初の授業であんなイキリ貴族が突っかかってくるものだから、マリスティーヌもイキリ貴族たちに『田舎者』とか言われていじめられていないか心配だったのだ。でも、マリスティーヌの様子からしてその心配は杞憂だったようだ。


「へぇ~ そうなんだ、いじめられていないか心配だったんだが、大丈夫そうだな。で、どんな風な会話をしてるんだ?」


「そうですね…女性の方はイチローさんの事について尋ねられますし、男性の方はカズコさんについて聞かれますね…」


 フフフ…やはり『麗し』モードの衣装と爽やかイケメンフェイスのお陰で、女生徒たちのハート鷲掴み出来ているようだな… だが、もう一つの方…


「カズコについてはなんて聞かれてんだ?」


「カズコさんの事についてですか? いや、彼氏がいるのとか…趣味とかを…」


 その言葉に、俺はカズコに視線を向ける。当のカズコはまんざらでもないような顔をしている。俺は嫌な予感がしてきたので、再度、マリスティーヌに向き直って尋ねる。


「で、マリスティーヌ、なんて答えてんの?」


「趣味は料理と答えたのですが、彼氏については良く分からなかったので、カズコさんがイチローさんの事を旦那様と言ってる事を伝えましたね」


 そう言ってマリスティーヌは四枚目のピザを取る。


「ん~ なんだか面倒な事になりそうな予感がするな…」


 そう言って、マリスティーヌに全部食われないうちに、俺ももう一枚ピザを取る。


「主様、わらわの話が途中でとまっておったのだが、わらわの話もカズコの事じゃ」


 自分の会話を途中で遮られていたシュリがムスッとした顔で俺を見る。


「あぁ、確かに会話の途中だったな、すまんすまん、で、何なんだ?」


「いや、大した話ではないのだがな… カズオが今はおなごの姿になってカズコになっておるじゃろ?」


「あぁ、確かにそうだな」


 そう返して、マリスティーヌががっついたお陰で無くなりかけていたピザを補充する為にキッチンに戻ったカズオに視線を向ける。


「カズコはヤヨイと違って肉もあるし、主様に並々ならぬ好意を向けておる。なのに手を出さんのは何故なんじゃ? わらわとしては主様がカズコで我慢してくれて、こちらのおなごたちに手を出さんようになればいいんじゃが…」


「シュリ…お前、しれっと凄い事を言ってくるな…」


「でも、普段の主様なら、鼻息を荒くして飛びついておるのに不思議じゃからな、蟻族のアルファーは大丈夫なのにオークのカズコがダメな理由があるのか?」


 なんでシュリに女の好みの事を話さねばならんのかと思いつつ、シュリに向き直る。


「いや、確かにカズコのあの乳に魅力を感じてない訳がない、それどころか俺の好みの大きさだ…だがな…」


「なんじゃ?」


「中身というか元がカズオだぞ? なんかの拍子にカズオが元の姿に戻った時の事を考えてみろよ… カズオの姿で物欲しそうに見てくるんだぞ? あっ、ヤベ…話していたらサブイボが立ってきた…」


俺はサブイボの立った腕を掻き毟る。その姿を見ていたシュリがはぁとため息をつく。


「このままカズコに入れ込んでくれたら、主様がここのおなごに手を出さず、わらわもいらぬ気苦労をせんでよかったものの… あっそういえば」


 ため息をついて項垂れていたシュリであったが再び顔を見て俺を見る。


「アルファーがおるじゃろ! アルファーで我慢するのは無理なのか?」


「おまっ… 本人はそんな事で怒らないけど、随分と失礼な事を言うな…でも、それはだな…」


 俺はちょいちょいとシュリを手招きして、乗り出してきたシュリに小声で耳打ちをする。


「いや、確かにアルファーはいい女なんだがな… さすがに108人分もやったら飽きてきてな…」


「主様の方がよっぽど酷い事を言ってるではないか…」


 シュリはジト目で俺を睨む。


「まぁ…ここのおなごに手を出したら、カミラル王子がとんでくるから、粗相するでないぞ主様…」


「お、おぅ…」


 俺はシュリから目を逸らしながら答えたのであった。







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