第172話 皆の研究協力の様子:残り3人

「シュリ」


「なんじゃ、主様」


 俺とシュリと歩きながら言葉を交わす。カローラは足が遅いのでフードを被って俺の背中にいる。


「あの爺さんがパンツくれといっても渡すなよ」


「いや、主様に言われんでも渡す気はないが…」


 しかし、背中にカローラ、右手をシュリと繋ぎながら歩いているのだが、なんだか仕事帰りの父親が保育園と学校に通う娘を、迎えに行ってその帰り道の様な状態だ。


 なんだか所帯じみた感じが嫌になってくるが、こうしてシュリと歩いていると、頭の中に魚の骨が歯に挟まったような感じで何かが引っかかっている様な気がして仕方がない。


 何だったけな… なんか引っかかるんだよな…


 そう思いながら、右手のシュリを見る。


「あっ」


「なんじゃまた主様」


「お前、さっき擬態変化出来ただろ?なら、そんなロリっこ状態からエロむっちむちになれて、クソ穴以外もできるんじゃないのか?」


 俺が鼻息を荒くしてシュリに告げると、シュリは呆れたようにため息をつく。


「また、それか…主様…」


「ほれほれ、できるんだろ?」


「出来る訳なかろうが」


 そう言ってジト目で見上げてくる。


「なんでだよ、骨付きあばら肉を食べさせてやってた時でも、さっきでも姿を変えられていたじゃないか」


「食べさせてもらっていた時や、先程においても、身体の一部を本来のドラゴンの姿にもどしているだけで、まったく別の生物である人間の姿を自由自在に出来る様になっている訳ではないのじゃ」


「じゃあエロムッチムチになるのも、クソ穴以外も無理なのか…」


 今度は俺がため息をついて項垂れる。


「わう!」


 そんな俺に遠くからポチの声をかかる。


「ん?ポチか?」


 ポチの声に視線を上げると、なんだか知らないおっさんが、嬉しそうな顔で息を弾ませながらこちらに駆けてくる。


 他の誰に駆けて来てるのかと思い、後ろを振り返るが誰もいない。再び、前に向き直ると知らないおっさんが俺の胸に飛び込んでくる。


「わう!!」


「ちょっ! なんだよ! このおっさん!!」


 知らないおっさんが、まるで愛しい恋人にでもするように、俺を抱きしめ、潤んだ瞳で顔を近づけてきて…


 ぺろりっ


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺は全身にサブイボを立てて悲鳴を上げる。


「くぅ~ん」


 その後もしらないおっさんは、喜んで俺の顔を舐め廻す。


「こらぁ~!! ポチィィィ!!」


「ポチさん! 逃げてはダメです!!!」


 再び知った声が聞こえてくる。


「おう、カズコにアルファーか」


 シュリが知らないおっさんを追いかけてくる二人に声を掛ける。


「すみません! 私が目を離してしまって!!」


 そして、二人の後ろから、再び知らないおっさんがこちらに駆けてくる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 知らないおっさんがもう一人!!! 俺に迫ってくる!!!」


 再び俺は盛大に悲鳴を上げる。


「キング・イチロー様が拒絶反応を示している!! 早くお助けしないと!!」


「だ、旦那様!! しっかりしてください!!」


「こら! こちらに戻りなさい!!」


 そして、気が付いた時には俺は真っ白になって燃え尽きていた…



「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか!! キング・イチロー様!!」


 俺はアルファーの声ではっと意識を取り戻す。瞳を開けるとすぐ近くで、アルファーの俺を覗き込む顔が見えた。


「はっ! アルファー!? 俺は一体どうしてたんだ!?」


 後頭部に柔らかくて気持ちいいアルファーの膝枕を感じるが、俺はすぐさま状況を確認する為、物理的にも後ろ髪を曳かれる思いで頭を上げる。


「旦那様!! 大丈夫ですか!?」


 カズコの姿も見える。そして、その後ろでは…


「ひぃっ! 知らないおっさんが知らないおっさんと並んでる!!」


「大丈夫です! キング・イチロー様!!」


 仰け反る俺をアルファーが抱きしめてくれて、へっへっとまた俺に飛び掛かろうとする知らないおっさんをもう一人の知らないおっさんが引き留める。


「す、すみませんね、本当に…私の不手際で…」


「くぅ~ん…」


 一人の知らないおっさんはもし分けなさそうな顔をして、もう一人の知らないおっさんはしょぼくれた顔をする。


「一体、どういう事になっておるのか説明してくれるか?」


 シュリが後から加わった人物に尋ねる。


「それはわしらから説明しよう」


 そこに残りの七賢者の連中も姿を現す。そしてその中から禿老人が一歩進み出て事情を説明し始める。


「そのフェンリルがまだ人化の術を憶えていないので、わしが人化の術を教えるために、狼獣人で人化と獣化の両方ができる人物で、人化の見本をみせていたのだ」


「それであたしとアルファーがポチの通訳の為に一緒にいたのですが… 人化ができたポチが急に逃げ出して…」


 禿老人の後にカズコが説明を加える。


「って事は、その知らないおっさんのどちらかがポチ…なのか?」


「わう!!」


 知らないおっさんの一人がそう答える様に吠えると、体表面がブクブクと盛り上がっていき、いつものポチの姿へと戻る。


「ポチ! ポチじゃないか!! もう!こいつぅ~! 驚かせやがって!!」


「わう! わう!」


 ポチは猛烈な勢いで尻尾を振って俺に飛び掛かってじゃれついてくる。俺の方もポチだと分かって、いつもの様にワシワシとポチの身体全体を撫でてやる。


「よかったなぁ~ ポチとやら、人化も出来る様になったし、主との誤解も解けたようだな…」


 俺とポチとが慣れ合う姿を見て、知らないおっさんが感銘を受けた様にうんうんと頷く。


「よかねぇよ!! お前の教え方が悪かったせいで、ポチの存在自体がトラウマになるところだっただろ!!」


 理屈が分かれば知らないおっさんの存在など、恐れる必要はない。俺は御構い無く罵声を浴びせ、次はこんなおっさんを人化の手本にした禿老人へと向き直る。


「お前もお前だよ!! なんでこんなに可愛いポチに、人化の手本としてむさいおっさんを連れてくんだよっ! もっと、可愛い美少女を連れて来い! 美少女を!!」


「いや、それに関しては正直済まんかった… フェンリルの人化の手伝いという事で声をかけたのじゃが、フェンリル相手で危険じゃったから娘っ子は集まらんかったのじゃ…」


 ケモナーの禿老人も今回の件は本意ではないらしく、正直に頭を下げる。


「まぁ…わたくしは偶然の産物ですが、大変良い物を拝めましたわ…」


 ケモナーの禿老人が頭を下げる後ろで、七賢者のババアが悦に浸っている。


 いつも女を妄想のネタに使っている俺だが、今度は俺がネタにされる側になるとは思いもしなかった。しかも、俺の様なイケメンとむさいおっさんのペロペロシーンがネタになるなんて…このババアの業の闇も深いな…


「兎に角だ!! ポチが大好きな俺に超弩級のトラウマを植え付けようとしたんだ!! 責任は問ってもらうぞ!!」


 俺は禿老人を指差して声を上げる。しかし、禿老人はトラウマに対する償いの手段が思い浮かばないらしく、青い顔をして脂汗をダラダラと流して項垂れる。


「ちょっといいか?」


 そこに、原因の一端を担う知らないおっさんが周りの空気を読みながら、恐る恐る手を上げる。


「なんだ?おっさん」


「今回の問題の一番の原因は私…だと思う… 自分で言うのもなんだが、私のようなおっさんにペロペロされたら… 心に深い傷を…負うのも…当然だと思う…」


 おっさんは伏目勝ちに小さく震えながらそう語る。まぁ、おっさんの言葉自体、謝罪の言葉とは言え、かなり自虐的だからな…


「だから、このフェンリルが君の思い描く相応しい姿に慣れる様に、私が何としても努力して責任を取るつもりだから…信じて欲しい…」


 そう言って、謝罪の意味で頭を下げる。


「わ、分かったよ…信じるから頭を上げてくれ… 俺もいきなり知らないおっさんに飛びつかれて…顔をペロペロされて気が動転して…その気が立っていただけだ…」


 そう言う事があり、ポチたちの今日の研究の手伝いはお開きとなったのであった。



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