第171話 皆の研究協力の様子:シュリ編


 俺はカローラを背負いながら、シュリが研究の協力を行っている、あのロリコン爺さんの塔へと向かう。ロリコン爺さん自身は一時間程、俺の授業風景を確認していた。だから、最初は部下に研究の方は任せて、授業の終わった今はロリコン爺さんも参加しているはずだ。


「私は血のテイスティングをやらされましたが、シュリは一体何をさせられているんでしょうね?」


「どうだろうな? あの爺さんの考える事は俺にとっては理解不能すぎる」


そんな会話をしながら塔に進んでいくと、シュリは塔の中で研究をしているものと思えば、塔の前の広場に、カフェテラスの様に椅子とテーブルを並べて、そこにちょこんと座り、見るからにおしゃれなカフェタイムの様な状況でいる。


 ただ、普通のカフェタイムと異なるのが、シュリの前に配膳させているのが、お茶とスイーツではなく、何か飲み物のジョッキに、骨付きあばら肉の大皿である。


「シュリ…お前、また朝食とってんの?」


「なんじゃ、主様にカローラか、わらわは研究に参加すれば、骨付きあばら肉が貰える約束じゃったので、元々朝飯は殆ど食っておらんかったのじゃ、どうじゃ?二人も食うか?」


 そう言ってシュリは大皿を押して骨付きあばら肉を進めてくる。


「おまっ、朝から骨付きあばら肉って…まぁ、食うけど」


 俺は背中のカローラを降ろして席に座らせ、自分も席に着いて、骨付きあばら肉に手を伸ばす。


「シュリちゃんや、おしぼり持って来たよ…って、なんじゃお主も来ておったのか」


 塔の中から出てきたおしぼり持ったロリコン爺さんが、俺の顔を見るなり好々爺の顔から普通の顔に戻る。


「よう爺さん、先程ぶりだな、俺達の分のおしぼりもくれよ」


「先ずはシュリちゃんが先じゃ」


 そう言って、シュリとカローラにおしぼりを手渡した後、俺にぽいっと投げて渡す。


「で、なんで塔の中の研究室で実験しているのではなく、こんな表でカフェに見せかけた軽食…いや、飯を食ってんだ?」


 俺は骨付きあばら肉を頬張りながら爺さんに尋ねる。


「それがな…シュリちゃんが…」


 そういって、爺さんはシュリに視線を向ける。


「あぁ、わらわが事情を説明するのじゃ」


 そう言ってシュリは口の中でもごもごさせていたものをゴクリと呑み込む。


「わらわにそこの広場を使って元のドラゴンの姿になって欲しいとの事じゃが、元の姿に戻るとあの魔熱式のベストが使えなくなって、動けなく…な…」


 シュリの言葉が途中で、ゼンマイが切れたかのように途切れたので、視線を手元の骨付きあばら肉からシュリに移すと、言葉だけではなく、身体自体もゼンマイ切れの人形のように固まって、手元からポタリと骨付きあばら肉を落とす。


「ん? どうしたんだ? シュリ」


「う…が…う…」


 そう言って、パタリとテーブルの上に倒れ込む。


「おい! シュリ!」


「どうしたんじゃ! シュリちゃん!」


 俺と爺さんとでシュリの側に駆け寄る。


「うぅ…ね…熱…が…」


「熱? 何の事じゃ?」


 爺さんが意味が分からず首を捻る。


「あっ! もしかして魔熱式のベストの魔力が尽きたのか!? 充魔してなかったのかよ!」


 俺は、テーブルに倒れ込むシュリを抱え上げ、腰についている魔力バッテリーに魔力を注ぎ込む。ったく、充魔が尽きて動けなくなるって…とある錬金術の凝集光砲に出てくるディセラレイターかよ…


 ついでに熱魔法でシュリの体温を上げてやると、再びシュリが動き出す。


「ありがとうなのじゃ、主様。こう言う訳で、魔熱式ベストが使えない状況では、この様に動けなくなるので、このままの姿で出来るやり方で研究を手伝っていたのじゃ」


 そう言ってシュリは起きがけに、骨付きあばら肉を齧り始める。すげーな…こいつ…


「そうじゃったのか… それで元の姿には戻れんという事じゃったのか… 夏であれば何とかなるのじゃが… 元のドラゴンの姿に戻れる場所と言えば、講堂か…でもあの場所全体を温めるとなると大変じゃな…」


 そうぐちぐちと独り言を言いながら爺さんが、何かメモをし始める。


「シュリ、そんなんで研究の手伝いなんか出来るのか?」


 俺は元の席に戻り、シュリに尋ねる。


「あぁ、それなら、わらわも形態変化に慣れてきたので、身体の一部を元の姿に変化できるようになったのじゃ、ほれ、このようにな」


 そう言って、片手を竜の手に変化させて、お代わりの骨付きあばら肉を爪で突き刺す。


「あぁ、そう言えば、前に俺の腕ごと骨付きあばら肉を大きな口で食べようとしていたな…」


 あの時はシュリを垂らし込むつもりだったが、ただの爬虫類の餌遣りになっていたな


「あぁ、そうじゃった、確かルイス殿はわらわのドラゴンの時の爪と鱗が欲しかったのじゃったな」


 そう言うと、少し眉を顰めてピッと鱗を一枚剥ぎ、その後、俺に向き直る。


「主様はナイフを持っていたな、それでわららの爪を切ってもらえぬか? 切るといっても根元からではなく、先っぽの方じゃ」


 そう言って、俺の前に竜になった手を出す。


「えぇ~ つ、爪切るの? 俺が?」


「そうじゃ、自分では切れぬのでのぅ~」


 俺は腰のベルトからナイフを取り出すと、シュリの爪先にナイフの刃を当てて、ぐっと力を入れて押し込む。


 すると、ピンッ!と音を立てて、シュリの爪の先が切り落とされる。


「おぉ、切れた切れたのじゃ」

 

 そう言ってシュリは切り飛ばした爪の先を拾い上げる。


 餌遣りに爪切り… 本当にシュリの飼育係みたいになってきたな…


「ほれ、ルイス殿、そなたが欲しがっておった、わらわの鱗と爪のじゃぞ」


「お、おぅ…た、確かに鱗と爪じゃが…」


 そう言って爺さんは掌に渡された、魚の様な小さい鱗と、ネズミのような小さい爪の先を見る。


 普通、ドラゴンの鱗と言えば人の背中ぐらいの大きさはあるし、爪も細い物でもつるはしぐらいの大きさだ。あの爺さんもそれぐらいの大きさのものを期待していたであろう…


 それが、その辺りのトカゲからとったような大きさの爪と鱗では…まぁ…詐欺みたいなものだな…というか俺自身は美人局の男役みたいな気がしてくる。


 俺が爺さんの立場だったら切れている所だ。


「おい、シュリ、もっと大きな物を渡してやれないのか?」


「主様、そういうが、もっと大きくすると、その部分が冷えてまた動けなくなる。それに鱗を剥ぐのも結構痛いんじゃぞ? 主様も爪をくれと言われて、爪を剥いで渡せるか?」


「いや、確かに爪剥ぐのは痛いな… 前に箪笥の角に足の小指をぶつけて、爪が剥がれた時はめちゃ痛かったな…」


「あぁ、別にいいんじゃよ、シュリちゃん…」


 そんな会話をしている所に、逆に爺さんが気を使って声を掛けてくる。


「まぁ、これはこれで、シュリちゃんの肖像画をつけて、個人的な収集物として保管しておくのじゃ」


 本人がそれで良いと言うなら良いんだが…なんか昔のブルセラみたいで嫌だ…


「そう言えば、爺さん、頼みごとがあるんだが」


 俺はとある事を思い出して爺さんに声を掛ける。


「なんじゃ、今更返せと言っても返さんぞ」


「言わねぇよ、そんなみみっちいの、それより、性別を転換した治療というか薬が欲しいんだが…」


「ん? 気に入った男の娘がおったのか? それとも気に入ったおなごを男の娘にしたのか?」


 爺さんはニヤニヤしながら聞いてくる。


「いや、そんなんじゃねぇよ…ってか、爺さんも大概、業が深いよな… 実は…」


 俺はここに来る途中に起きたカズオがカズコになった事件を爺さんに伝える。


「なるほど…それがあのハイオークのおなごになった理由じゃな?」


「あれはあれでいいように思えるが、面倒なんで元に戻したいんだが、何とかならんか?」


 しかし、爺さんは興味なさげに顔を背ける。


「そんな勿体ない事はわしはできんし、わしは専門外じゃ…」


「じゃあ… 元に戻す方法捜しに出ないとダメだな…すぐに…」


 俺もこのまま引き下がってはいられないので、心理戦を仕掛けてみる。


「分かった分かった! お前さんに今出ていかれては、これから始まるシュリちゃんとのときめきラブラブライフを続けることが出来んではないか… 仕方がないから、詳しい奴を紹介してやるから、それで辛抱せい」


「分かったよ、それで手を打とう」


 こうしてシュリの研究の手伝いの初日もそうそうに終わる事になった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る