第170話 皆の研究協力の様子:カローラ編

 初日の授業が終わって、今日の予定が無くなり、手持ち無沙汰になった俺は、他の連中がどの様な感じで研究に協力しているか確かめる為に、皆の所を見て回ろうと考えた。


 釘は差しておいたので、大丈夫だとは思うが、やはり皆がエロい事をされてないか心配な所もある。本人たちもその不安で心細い思いをしている可能性があるので、俺の顔を見れば、安心するであろう。これぐらいの気遣いぐらいはしてやらんといかん。


 と言う訳で、最初は髭爺の所で研究の手伝いをしているカローラの所へと向かう。


 皆はこの学園の七賢者の手伝いをしているので、辿り着くのは簡単だ。何故なら、七賢者たちはそれぞれ、自分の研究用の塔を持っており、学園のどこにいても見えるからだ。しかも自己顕示欲が強いのか、それとも悪趣味なのか、塔の天辺には自身に似せた銅像まで立っている。


「まぁ…分かり易いからいいけど…」


 そうぼやいて、カローラのいる髭爺の塔へと入っていく。


「ここか、はいるぞ~」


 そして、カローラのいる研究室に入ると、奇妙な光景が飛び込んでくる。


 そこには、食卓テーブルが置かれ、そこにカローラが席に着いて、そのカローラの前にはいくつものワイングラスが並べられ、その側に髭爺がワインボトルを携えソムリエの様に佇んでいる。


「えっ? カローラお前、朝から酒飲んでるの?」


「あっ、イチロー様、いらっしゃったんですね」


 カローラはワイングラスをテーブルに置いてこちらに向き直る。


「カローラ、研究と偽って、ただ持て成されているだけなのか?」


 俺もテーブルに座りながら尋ねる。


「いえ、こちらは血の味見をしているだけです、えっと、この血は18年物の生ファムですね」


「18年物の生ファムと…味は?」


「さっぱりしてます。癖が無くて飲みやすいです」


 カローラが髭爺に向き直ってそう告げると、髭爺はそれをメモしていく。


「えっと、18年物の生ファムって、どういう意味だ?」


 言葉の内容に疑問を感じてカローラに尋ねてみる。


「あぁ、18歳の処女の女性って意味です」


 カローラはそう答えると、次のワイングラスを問って、一口含み、少し眉を動かす。


「21年物の生ファム…味はちょっとくどいです…」


「あれ?21歳の処女女性だろ? 同じ処女なのにそんなに味が変わるのか?」


「年齢、性別、性経験も影響しますが、日常生活や食生活も味にかなり影響しますね、この人の場合は糖分の摂りすぎですね」


 そんなのも分かるのか…だったら糖尿病患者の血も甘くてくどいのだろうか…


「カローラ嬢ちゃん、では次のもお願いできるかい?」


 髭爺が実験を続けることを催促してくる。カローラはその指示に次のワイングラスを手に取り、口元へ寄せる。


「くさっ!!」


 そのまま口に含むのかと思った瞬間、顔を歪めてワイングラスを口元から離す。


「えっ? その血、そんなに臭いのか? 俺には普通に血の匂いしかしないが…」


「イチロー様にはただの血の匂いでしかありませんが、ヴァンパイアの私にとっては血の匂いに関しては敏感なんですよっ!! イチロー様が女性の体臭で、その女性の良し悪しを判別できるのと同じですっ!!」


 そういって、カローラは眉を顰めて、鼻を摘まむ。


「いや、いくら俺でも、そんな犬みたいに体臭で女の良し悪しを判別でき…いや、出来るな…」


 特にクリスはヤバい…獣臭さがある…


「カ、カローラ嬢ちゃん…匂いの事は分かったから… あ、味の方も確かめてくれるか…?」


 髭爺は少し戸惑いながら、カローラに臭い血を味見することを指示する。


「くっ! く、臭いけど…これもカードの為…」


 カローラはまるで毒杯でも煽るか様に、脂汗を流し、震える手でワイングラスを口元に運び、目を硬くとじて、一口含む。


「ぐほっ!!」


「えづいた!! というか、吹き出した!!」


 カローラは口に含んだ瞬間、冷えた麦茶だと思ったら、ソーメンつゆだった時の様に血を吹き出して、咽び始める。


「おいっ、カローラ、大丈夫かよ」


 涙目になって、えづきつづけ、ナプキンで口元を拭うカローラの背中を擦ってやる。


「こ、こんな…不味い血…生まれてこの方初めてですよっ! カズオの血だって、もう少しマシな味してましたよっ!!」


「後ろと前の操を失って、特殊な性癖を持つハイオークのカズオより不味いのか…一体、どんな血なんだ?」


「ふぅ~ ふぅ~ ふぅ~… 175年…物… 多分…生…の… オーム… 味は… 実際に… 飲んだ…事…ない…けど… 家畜…小屋の…汚水の…あ…じ…」


 カローラは息絶え絶えにそう語る。


「だぞうだ…爺さん…カローラが命がけで味見したんだ、ちゃんとメモしておけ…」


 俺はそこまで言いかけて、髭爺の様子がおかしい事に気が付く。まるで隠し事がバレないか心配しているように、ダラダラと冷や汗を流しながら、プルプルと震えている。


「…ちょっと、爺さん…まさか自分の…」


「カローラ嬢ちゃん!! 大変だったね!! ご苦労さん! 今日はもういいよ!!!」


 俺の言葉を遮るように、髭爺は声を上げる。そして慌てた素振りで懐からカードを取り出す。


「さぁ、これがお仕事初日のご褒美カードだよ!!! カローラ嬢ちゃんが頑張ってくれたから、奮発して『刻印されし者の股間』だよ! 明日も来てくれるなら、次は『刻印されし者の右手の恋人』だ! そして、30日間ずっと来てくれた暁には『ホワイト・マジシャン・ガール』!型番H33-4のものだ!!」


 カローラは息絶え絶えになりながら、カードに手を伸ばす。流石にその執念は見上げたものだが… しかし、スマホのログインボーナスみたいな報酬の渡し方だな…


「報酬は貰ったようだな、カローラ、じゃあ帰るか… 負ぶってやるよ…」


「す、すみません…イチロー様…」


 俺はひょいとカローラを負ぶってやる。


「では、また明日だが…」


 俺は肩越しにチラリと髭爺を見る。


「あんまり、カローラに変なものを飲ませるなよ…爺さん…」


「は、はい…わかりました…」


 髭爺は俺に目を合わせないように俯きながら、プルプルと震えていた。


 そうして、部屋を出て塔の入口に向けて歩き始める。


「なぁ、カローラ、報酬のカードについて何だが…」


「な、なんですか? イチロー様…」


 カローラは少し持ち直してきたのか、先程よりは生気のある声で答える。


「最終日の『ホワイト・マジシャン・ガール』って、最終日なのになんか安くないか?あの型番のH33-4ってのが関係あるのか?」


「何言ってるんですか! イチロー様! 大いに関係ありますよ!! 型番H33-4がこのカードが最初に登場した型番ですよ! いくらするか分からないぐらいに価値がありますよ!!」


「そうか…関係あるのか…」


 カローラのその声に余裕がありそうなので、自室に直帰せずにシュリの様子も見て回ることにした。










 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る