第169話 最初の授業
俺は教壇に立ち、生徒達に向き直る。まぁ、教師の仕事はやらされた感が強いが、女生徒と接する機会を無駄にする事は出来ない為、ある程度は真面目にやろうと思う。
「先ず冒険者というものの前提だが、皆は自国に戻れば国軍や領軍という正規兵を持つ立場であると思う。国内、領地内の問題事項についてはその正規兵を使って当たらせるのが、本来であれば正当な対処の仕方だ」
生徒を見回す。思った以上に真面目に聞いている様だ。
「しかし、それは見えている敵・見えている問題・正規兵で対処できる場合だ。だが、統治機関が認識できない問題、機関が対処するまで待てない問題、一般兵では対処できない強大な敵や、公にしたくない問題などが出る場合がある。そんな時に正規兵に変わって問題に対処するのが冒険者という立場だ」
自分で言うのは何だが、冒険者って言うのは何でも屋の日雇い労働者のようなものだ。だから、まともな仕事はあまり回ってこない。そう言う訳で、正規兵では行えない仕事が回ってくる訳だ。
冒険者とはこういう仕事が大半で、おとぎ話に出てくるような冒険譚は、普通なら人生に一度あるかどうかだ。
だから、夢見がちな貴族の坊ちゃん、お嬢ちゃん達には先ず、厳しい現実を知ってもらい、お遊び半分で冒険なんぞに手を出さないように怖がらせておく。
「ってかさぁ、冒険者っていってるものの、実際の所は、まともな職につけない奴らが、ちょっとした手柄を粋がって大きくいってるだけだろ?」
俺の発言に対して、否定するような発言が教室に響き、その発言者に視線を向けると、いかにもな感じのイキリ貴族の息子の姿があった。
「あ」
イキリ貴族は俺が怯むと思っていたのか、逆に威圧を込めた睨むを聞かせると、少したじろぐ。
「お前、今、なんてった? もう一遍言ってみろ」
営業用のイケメン爽やかフェイスを止めて、マジ顔を向ける。
「い、いや、所詮、冒険者なんてちゃんとした兵士にもなれない連中じゃないか…」
「ん? だから何だよ」
俺がそう返すと、俺が言い返せないと思ったのか、イキリ貴族は調子に乗り始める。
「だから何だよって、俺達貴族が本気を出して、正規兵とかの実力を示せば、冒険者なんて何も出来ない烏合の衆だよ」
イキリ貴族は言ってやったという顔をして、俺をふっと鼻で笑って見下しはじめる。
「ほぅ、そういう事で正規兵や貴族の力の前では、冒険者など、手も足も出ないと…お前は考えている訳だな?」
「出るとおもってんの?」
俺は教壇から降りて、イキリ貴族に向き直る。
「あ~ 確かに正規兵とかの軍団相手に冒険者が戦って勝つってのは難しいな~」
俺の発言にイキリ貴族がニヤリと笑う。
「だか、例えば、領主であるお前ひとりを潰すぐらいなら容易くできる」
予想外の俺の発言に、イキリ貴族はぎょっと目を丸くする。
「そんな事を言って、また話を大げさに言っているだけだろ?」
「そんな事は無いぞ、例えばだ…」
俺は腕を組みながら、片足で床を叩いてタンタンと音を鳴らす。
「お前の領地に赴いて、麦畑を焼き払って回る」
「ちょっと!何言ってんだよ!?」
予想外というか想定外の俺の言葉に、イキリ貴族は驚愕して立ち上がる。
「お前の所の正規兵がいくら屈強と言えども、全ての畑を24時間365日ずっと監視する事なんて不可能だ。何だったら井戸と言う井戸に毒を投げ込んでいってもいい」
「そんな事出来る訳がない!! 一人で畑を焼き払って井戸に毒を投げ込むなんて不可能だ! その数か所回る内に残りの村や畑に警戒の兵士を向かわせるに決まっているだろ!!」
「それは、全軍でやるのか? 一か所? なら警戒してない所を襲うし、分散させているなら各個撃破していくだけだ」
「あ、あが…」
イキリ貴族は言葉を失う。
「そのついでに、各村々にお前のせいでこんな事になっているとチラシをまき散らしていくな… そうなったら、お前はどうなるかな?」
「畑は焼けて民は飢え始め、税収も見込めない…そうなると軍も維持できない… その原因はお前さんと来たもんだ… お前の父親が領主としても、お前ひとりを守る為に、領地がボロボロになっていく姿を見続ける事が出来るか?」
イキリ貴族の顔が青くなっていく。
「で、領地が没落してお前が領主貴族からただの一般市民に落ちぶれるか、または領地から追放された所を暗殺すればいい、簡単な仕事だ」
冷静に淡々と貴族一人を没落させ暗殺する手段を述べていくと、イキリ貴族はガタガタと震えて項垂れる。
「これでも冒険者が取るに足りない存在だと? ちなみにこのやり方はいくつもある手段の一つだぞ」
「…いえ…そ、そんな事はないです… わ、私が間違えてました…」
「分かればよろしい」
そう告げると、俺は教壇に戻って、顔を爽やかイケメンフェイスに戻し、生徒達全体に向き直る。
「というわけで、冒険者とは正規兵では行えない荒事が基本だ。ちなみに私が先程述べた事を他の冒険者にさせてはダメだぞ。売られた喧嘩を全てを捨てて報復する時の方法の一つだから、通常の冒険者では引き受けないと思うが…」
教室の生徒達は汗を流してゴクリと唾を呑み込む。
「逆に、領地内で、先程の様な破壊工作がなされている場合の対策・対抗手段として、使われるのが冒険者たちだ。その問題の原因が魔族やモンスターの場合が多いが、これが本来の冒険者の存在意義だ」
女生徒達の大半は、俺の事を頼もしいと思って、うっとりとした顔で俺を見るが、冒険者を無下に扱った憶えがあるものは、青い顔をしている。
「こういう事を含めて、冒険者や冒険についての間違った皆の知識を改めてもらい、正しい知識と定義を憶え、見直して欲しいと考える」
そうして、俺は冒険や冒険者についての最初の授業を続けたのであった。
そして、授業終了後、授業の様子を眺めていたロリコン爺さんが神妙な趣で近づいてくる。
「爺さん、俺の授業はどうだった? 何か問題はあったか?」
俺がそう尋ねると、くくっと含み笑いをする。
「いや、お前さんは思いあがったクソ生意気なガキどもの、頭をかち割ってくれたよ…ただな…」
そういって、俺の方をポンと叩く。
「前にも言ったが、お前さんは自分がどうみられるか、もう少し考えて言動したほうがよい…お仲間たちの事も考えてな…」
そう言い残して、爺さんは自分の部屋へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます